キャリアコンサルタントの実践要領について、2級キャリアコンサルティング技能検定に合格するレベルについて説明します。2級キャリアコンサルティング技能検定は、実務経験があることが受験の条件になっていることからも言えるように、初心者キャリアコンサルタントとは異なり、安定して面接を行うことのできる、熟練者を指しています。キャリアコンサルタントとしての知識習得に加えて、実務訓練と数々の実務経験をこなして、2級の試験に合格できるのです。
■面接で求められる能力とは
学科試験でキャリアコンサルティングについての知識が問われることは言うまでもありませんが、実際に試験官と対峙する実技(面接)試験(ロールプレイと口頭試問)では、どのような点が見られているのでしょうか?また、どのレベルで受け答えできれば合格となるのでしょうか?
おもなポイントは4つあります。
1つめは、相談者が安心して相談できる関係構築が築けるか、
2つめは、来談者がもっとも強く訴えていることを把握できているかどうか、
3つめは、課題となる問題に対面できるような援助です。来談者がかかえている問題は、解決できないからこそ「悩み」であり、直面しないような理由をつけて自分を納得させていることが多いのです。問題に直面してもらうためには、来談者の精神的な成長を信じて、問題へ直面できるように気持ちを支えることが必要です。それは、単なる問題の指摘だけではありません。
4つめが、面接を通して来談者が自分で行動変容を起こせるような、変化をもたらしたかどうかです。3つめのポイントで説明したとおり、来談者自身が問題を自分のこととして自覚できてはじめて、問題解決へ向けての変化、あるいは行動となります。
■論述試験
論述試験は1時間で、学科試験と同日に実施されます。試験は、面談の逐語録が示され、それについての設問に回答する形式です。設問は3つで、来談者の主訴を間うもの、その主訴の取り扱いを問うもの、今後の取り組みを問うもの、となっています。熟練レベルの場合には、スーパービジョンを受けていることを前提としていますので、スーパービジョンを受けている人にとっては比較的容易に回答できると思われますが、そのような訓練を受けていない人にはかなり困難かもしれません。
論述問題は、普段の面接実務の力量を測る試験です。面接の実務について、キャリアコンサルタントがどのような視点・考え方・解決方法を持って相談者に向かえるかが問われます。論述試験は、面接の逐語記録が出され、それを読んで設問に答える、記述式の試験です。逐語記録とは、相談者とキャリアコンサルタントや話した言葉のやり取りが書き出されたものです。面接実務とは、公共就労紹介窓口での相談、転職・就職情報窓口での相談や、社内の人事部でのキャリア面談、大学の就職ガイダンス部での相談など範囲が広いので、どの分野の面接事例が出題されても対応できるように、さまざまな分野、場面での事例の勉強をすることが必要です。
■どのような視点・考え方・解決方法で向かうかが問われている
面接の実務について、受検者がどのような視点・考え方・解決方法を持って、相談者に向かえるかを問われています。相談者が悩みを語るときには、いろいろな事柄や気持ちまたは、計画などを話していきます。そのなかで相談者が一番強く訴えている問題点を理解することと、相談者が自覚していない問題点を理解する能力が必要です。そのうえで、相談者が受け入れられる方法で、具体的な行動を提示することができるか、今、相談者の置かれている状況で、少しでも解決に向かって行動できる方法は何かを示してまとめます。さらに、解決策が時間を要するものであっても、長期的な目標を持って、学習計画あるいは行動計画等を立てることも相談者への支援となります。
また、相談者の問題としていることと、受検者が感じている問題点をしっかり分けること、そして、その根拠を相談者の言葉で書くことも重要です。A4用紙1枚の回答用紙に問題と回答の欄があります。問題によって多く書くものと簡潔に書いたほうがよいものとあります。
■実技試験
実技試験は面接のロールプレイ(最大で20分)と10分程度の口頭試問です。
①ロールプレイ
受験者は相談を受けるキャリアコンサルタントの役を担い、来談者役の試験係員を相手に面接を行います。来談者についての簡単なプロフィールは事前に告知されます。来談者は複数ですが、それぞれのプロフィールに基づいて、受験者は予め準備する期間があります。
ロールプレイとはいえ、20分間の実際の面接であることを念頭に置いて準備することをお勧めします。20分で終結しない場合は、不合格となる可能性が高くなります。2人の試験官の前で行うので、あがってしまわないよう日頃から実践を積んでおく必要があります。
ロールプレイでは、主訴をきちんと把握できているかどうか、そのうえで来談者の自己理解、情報理解、あるいは目標設定という具体的な展開となるような応答ができているかどうか、がポイントになります。
この試験は、十分な学習とかなりの実践経験がある熟練レベルとしての対応ができているかどうかを確かめることがねらいです。このことをくれぐれも留意してください。
②口頭試問はとても短く(10分)、質問される内容は限られていますが、その質問を有効に使って、普段の面接を想像できるように、印象に残るような回答をします。試験の場は誰もがとても緊張するものです。普段の面接と違うようであれば、どこがいつもどおりにいかなかったのかを説明してもよいでしょう。それは、普段どおりできなかったことへの言い訳ではなく、あくまでも面接の方向性や見立てを自分なりに表現することで、面接の補足とすることができます。
キャリアコンサルタントとしての適性(コンピテンシー)を表現でき、熟練のキャリアコンサルタントとしてのプライドまたは、信念を伝えられる事も必要です。キャリアコンサルタントとして普段自分がどのように来談者へ、組織へ、社会へ貢献しているか。プロのキャリアコンサルタントとしてのやりがい、働きがいを伝えることが大切です。
「あなたは、プロのキャリアコンサルタントとして、どんな信念を持って、どのような工夫をして日々の仕事にあたっていますか?」 口頭試問ではこのような質問はされませんが、自分自身で一度考えてみてください。
10分と短い口頭試問のなかで、いかに自分が熟練したキャリアコンサルタントであることをアピールできるか。また、キャリアコンサルタント自身の信念を持って、誠実に来談者に向かい合っているか。面接官は受験者の資質をみています。キャリアコンサルタントならば、相手を大切にして、自らも大切にしたコミユニケーションができること、なおかつ自分の大切にしていることはしっかり相手に伝えられることも重要です。
しっかりとした理論などの学習、スーパービジョンによる自身での反省や振り返り、スーパーバイザーからのフィードバックを受ける訓練の積み重ねなどによって、実力はついてくるものです。このような裏づけのある学習経験と信念を持っている熟練レベルのキャリアコンサルタントならば、端から見ても安心感のある面接として現れてきます。
2級キャリアコンサルティング技能試験評価は、キャリアコンサルタントとしての基本的態度、関係構築力、 問題把握力、目標達成に向けた具体的展開力という面から行われます。合格基準は100点満点のうち60点以上となっています。ただし、それぞれの評価項目も100点満点となっており、いずれかの評価項目が60点未満の場合は不合格となります。
労働者等のキャリア形成における課題に応じたキャリアコンサルティング技法の開発に関する調査・研究事業 |厚生労働省
(つづく)平林良人