横山哲夫先生(1926-2019)の「個立の時代の人材育成」からの紹介です。
キャリアコンサルタントすべての方に読んでいただきたい本です。
―目標管理と人事考課 ―
R大社会学部の私の授業の一つのテーマに、W大ビジネススクールと同様に、「目標管理」をとりあげている。R大の場合は学部の学生であり、アルバイト以外は勤務経験がないから、人事管理論その他の関連課目の授業から得た知識をもとにして討議させることになる。目標管理サイクルの 仕上げの部分、業績評価の段階で、業績評価がそのまま人事考課の最大主要部分となっている米国系多国籍企業M社と、同じく米国系大手多国籍C銀行の書式の実物をみせる。次に、MBO方式をとらず、典型的に、伝統的な、日本の某大手都市銀行の人事考課表書式の実物をみせる。前者は、あらかじめ設定された目標に対する成果を中心に評価し、発揮された能力項目(分析力、判断力、人間関係能力など)を診断的、分析的、具体的に検討する。項目的には簡素な記述形式であり、M社とC銀行のフォームは酷似している。これに対し日本のX銀行は、業績に関する項目(目標設定はない)は多くの評価項目のうちの一部分を占めるに過ぎず、勤務態度、性格特徴から私的な生活態度にも及ぶきわめて数の多い、詳細をきわめた評定項目によるチェック方式である。出典 個立の時代の人材育成 横山哲夫 生産性出版 2003年
企業の人事考課はどうあるべきかの議論は昔から人材活性化のキーであるとして重要視されてきました。特に学生を相手の議論になると、評価、考課の現物を手にしながらであるゆえに横山先生もつい熱が入ったようです。「なるほど、会社に入るとこういうふうに勤務評定されるのか」というふうにとらえて、場合によっては社会人には想像もできない珍妙な感想なども出てきます。多くの学生は、圧倒的にMBO方式を支持するそうであるが、その理由を横山さんは次のように分析していました。
①仕事をするからには具体的な目標がはっきりしている方がよい。
②個人的な性格や、プライベートな生活などにかかわりなく勤務成績が評価されることがよい。
③仕事のすすめ方に比較的自由さがありそうだ。
④業績評価段階で部下との面接を義務づけていることがよい。
⑤目標設定のない場合に比べれば評価の客観性が高いだろう。
⑥将来指向的に個人の能力育成と自然に結びついている。
MBO方式に対する不安材料としては、新入社員としての一、二年間をひどく気にする彼らは、「目標のたて方がわからない」とか、「目標が達成できなかったときはどうなるか」などに心配を集中させる。これに対しては、「年数経験を経てから次第に目標設定に自主参画できるようになる」ものであることや、職種によっては、目標設定になじまず、アウトプットよりも、インプット(態度、速さ、正確さなど)で成績が評価される(ただし、M社もC銀行も私的な生活態度を勤務成績に関係づけることは少ない)」ことのあることを説明してやると納得顔になる。また「MBO方式では人格的要素がまったく無視されるのではないか」、と心配する学生に対しては、通常MBO方式をとる企業では、別途、アセスメントが行なわれ、人物要素、性格要因はむしろそこでとりあげられることを補足説明する。これらは、人的要素の大きい総合管理職指向か、技術的要素の大きい専門職指向かを判断する上で、当人にとっても会社にとっても大きな要素となる。また、対人関係、コミュニケーション、協調性の能力などは、短期的な業績評価段階においても、現実の目標達成のためにあきらかに必要な能力である。これら能力の改善や強化は業績達成の診断材料として、MBOサイクルの中でも当然問題にされる。場合によっては、そのこと自体が次のサイクルの目標に設定されることもあり得る。これらの説明は大方の学生に受け入れられるようである。
出典 個立の時代の人材育成 横山哲夫 生産性出版 2003年
(つづく)平林良人