横山哲夫先生(1926-2019)はモービル石油という企業の人事部長をお勤めになる傍ら、組織において個人が如何に自立するか、組織において如何に自己実現を図るか生涯を通じて研究し、又実践をされてきた方です。先生は、個人が人生を通じての仕事にはお金を伴うJOBばかりでなく、組織に属していようがいまいが、自己実現のためのWORKがあるはずであるという鋭い分析のもと数多くの研究成果を出されてきております。
以下はキャリアコンサルタントに読んでいただきたい「個立の時代の人材育成」からの引用です。
―目標による管理とは―
目標管理の基本的概念は単純明快である。
① マネジメントは目標を明確に設定することからはじまる、
②リソース (ヒト・モノ・カネ)と時間を配分し、目標達成に向けて遂行する、
③遂行の成果を目標に照らし評価する、
④新たな目標を明確に設定して、同様なサイクルを進行させる。こう述べるかぎりでは、戦後の管理者教育で誰もがロにした、PLAN―DO―SEEとなんら変わることはない。
また、TQCのPLAN―DO―CHECK―ACTIONとも、重点のおき方に相違はあるにせよ、目標か、展開されるサイクル管理のアイデアは変わらない(実務的なレベルでのMBOとTQCの共存、すり合わせは興味ある課題であるが、別の機会に譲る)。
この稿で強調しておきたいMBOのエッセンスは次の通りである。
① MBOはトータルなマネジメント・システムの概念と手法を提供するものであること
② 概念はきわめて単純明快であり、合理性と人間性尊重の、融合システムを提供していること
③ 基本サイクルの①~④の全プロセスに、弾力的に自主性を認めることが、すべて個別の育成、個立の援助に役立つこと
④ 人事考課との結合部分 (第四のプロセス)は日本的目標管理の決定的欠落部分であること
⑤ 目標管理導入上の問題点は、きわめて実務的な手続きや運用の明確化にあること、そしてそのために忍耐強い教育訓練(MBOのための)の継続が不可欠であること
などである。出典 個立の時代に人材育成 横山哲夫 生産性出版 2003年
目標による管理は、以上のように簡潔な概念であるが、MBOと聞くとその実践面に多くの困難があるようです。自己申告制を導入するときのような安易さで、MBOを管理(人事)制度にとり込むと組織は立ち往生することになります。「目標のたて(させ)方がわからない」、「部下の参画を認める程度がわからない」、「考課のときの基準がわからない」など上司から幾多の質問が寄せられます。「目標設定上の自主性を認めてくれない」「遂行過程での上司のチェックがこまかすぎる(あるいは大ざっぱすぎる)」、「考課(業績評価)が納得できない」など、部下からも不満が出て来ます。苦情や不満の中には単に新しい制度に対する心理的抵抗の域を出ないものもありますが、鋭く、本質的に、推進側の準備や教育の不備、不徹底を衝くものもあります。横山先生は、MBOを導入するならば実務上最低5年間は、集中的な密度の濃い「MBOスキル教育」の実施が必要であると述べていました。集中教育後も、恒常的にあらゆる訓練会議の中に必ず MBOのための一セッションを入れ込むような、継続的な反復教育が必要であると述べていたのです。
教育用の資料の一つとして、比較的新しい解説書である『精解目標管理』(G・S・オディオーン著市川・谷本・津田訳 ダイヤモンド社)を推薦する。すぐれた理論書であるだけでなく、日米企業に共通する豊富な事例やウラ話までをも含む実務・実践の書であるところに特色がある。目標管理についてはその他にも好著がある。前述したE・A・ロックとG・P・ラザムの共著『Goal Setting(目標が人を動かす)』(松井・角山共訳 ダイヤモンド社)、E・C・シュレー著 『Management Tactician管理者の目標達成)』(梅津訳 ダイヤモンド社)など、一読に値する。試行・実験の豊富なMBO原産地米国の資料に依存することが多くなるのはやむを得ない。これらの書物の助けも借りて、実践面での多くの課題をまず広く認識することが必要であろう。その広範な実務的な展望の上に、以下の筆者の体験的提言を重ねていただければ幸いである。
出典 個立の時代に人材育成 横山哲夫 生産性出版 2003年
(つづく) 平林良人