今回は職業選択とキャリア形成について考えてみたいと思います。
若者の支援においては、失敗経験等により自尊心が傷ついたり、自己評価の低い者への配慮が求められる。自尊心の回復や信頼関係の構築の後、経験の棚卸しや学習歴、資格等を確認し、相談者が自己の行動特性に対して、適切な自己評価を行えるように支援することが有効であると考えられる。
若者支援においては、仕事や企業に関する研究不足が離職につながる可能性が高いことを認識し、幅広い職業・業界の知識や企業情報、労働に関する知識等を若者が理解するように支援することが求められる。中でも、企業における人材育成・活用の考え方や施策、工夫を理解し、個人と組織の両面が成長する意識や長期的な展望を持って仕事を選択するよう支援することが有効であると考えられる。
非正規から正規雇用への移行を目指す若者に対しては、求職活動が長引くことに伴う情緒的な不安を低減させる一方で、非正規の雇用でも就業を継続することや、自己啓発を行うことが有効だと考えられる。その際、就業を継続しながら、自己啓発を行う際に生じる問題について理解させ、両立するための進捗状況の管理や課題の解決方法について、方策を助言することも有効であると考えられる。
採用初期は、上司や先輩から若者への支持、働きかけが必要である。望ましいコミュニケーションがとれるような職場の環境づくりの支援や、若者自らが、上司、先輩に働きかけることが出来るよう、能力開発のための支援が有効である。
正社員への登用を希望する若年契約社員に対しては、現企業に登用される方策や課題、必要な能力開発について整理し、実施を促すことが有効であると考えられる。その際、就職活動が不調、不十分であった原因を検討し、その課題を踏まえることも必要であると考えられる。
若者の支援をする際は、若者の特徴を理解して、支援することが必要である。具体的には、自ら考え、行動することを促す、自尊心に配慮する、コミュニケーションを高める支援をする、視野を広げる、キャリアや職業生活を計画する支援が有効であると考えられる。
離職につながる、企業や職場の要因として、不適切な雇用管理が挙げられる。組織に対しては、環境づくりの支援、個人に対しては、入職前のしごと理解の支援や入職後の職場トラブルの対応に関する情報提供等の支援が有効であると考えられる。
勤続 1 年未満の早期離職がその後のキャリアに与えるマイナスの影響への理解を促し、在職しながら能力開発や再就職をするための支援を行うことが有効であると考えられる。
勤務継続や職務満足につながる企業や職場の要因として、適切な雇用管理、教育体制、柔軟な勤務体系、円滑な人間関係、達成感、成長等が挙げられる。組織に対しては、環境づくりの支援、個人に対しては、能力開発や職務内容を充実させるための助言等の支援が有効であると考えられる。
職業選択とキャリア形成については次のような理論唱えられてきました。
●パーソンズ(Persons,F.)
米国で 1905 年から取り組んだ職業指導運動やその著書 「Choosing Vocation」で示した特性因子理論の原型では、「自己理解」と「職業理解」のマッ チングにより個人の望ましい職業選択が叶うとされていましたが、その後は、
●スーパー (Super,D.E.)の理論に代表されるように、個人のキャリア発達に着目するとともに、職業と生活を包括して捉えるライフ・キャリア(Life Career)の視点を取り入れた職業選択や職 業行動のモデルが示され、さらに、ポストモダン派の理論家によって、社会の多様性や変化のダイナミックさ・速さから、確信的に将来予測をしたキャリア選択の困難さが指摘され、 適応のための理論が様々に登場しています。
●サビカス(Savicks,M.L.)、ハンセン(Hansen,L.S.)
それら様々な理論に依拠して、「労働者等のキャリア形成における課題」(以下、「キャリア 形成上の課題」という。)を洗い出すとするならば、サビカスの理論の「キャリア・アダプタビリティ(Career Adaptability)」や、ハンセンの「精神性と人生の目的を探る」こと等が個人の課題とされると思います。
●シャイン(Schein,E.H.)、クランボルツ(Kurumboltz,J.D.)
翻って、以上のような理論家、理論のキー概念は少なくとも国家資格であるキャリアコンサルタントは当然に理解していてほしいが同時に、それぞれの理論的背景の下に精緻化・ 象徴化された用語も重要です。例えばサビカス(Savicks,M.L.)の理論の「キャリア・アダプタ ビリティ」の4つの次元には、シャインが言うところの「キャリア・アンカ ー(Career Anchors)」や、クランボルツの「偶発性学習理論(Happenstance Learning Theory)」も大きな影響を与えると思います。
即ち、各理論で示されるキャリア形成上の課題を個別に抽出した場合には重複する部分が発生することが予測されると同時に、網羅的にキャリア形成上の課題を捉えることが困難であると判断し、各理論の中で取り上げられるキーワードの一つひとつを本事業のキャリア形成上の課題として羅列することは忌避し、労働者等のキャリア形成上のステップの中で生じる課題と個人的特性の両面で整理することが賢明であると思います。
但し、当然に各理論で示されるキャリア発達的上の課題は労働者にとって重要な課題をシンボリックに提示するものであり、その発達を支援することがキャリアコンサルタントの任務であり、理論上のキャリア発達の課題を否定や軽視するものではありません。
「キャリア形成のステップ」は次のように考えられてきました。
我が国のキャリアコンサルティング技法の礎である、「キャリア・コンサルタント技法等に関する調査研究報告書」(平成 13 年 厚生労働省)に次の内容が示されています。 「個人のキャリア形成は、
(1)自己理解、
(2)仕事理解、
(3)啓発的経験(意思決定を行う前 の体験)、
(4)キャリア選択にる意思決定、
(5)方策の実行(意思決定したことの実行)、
(6) 仕事への適応
の6ステップから構成されており、キャリアコンサルティングは、これらステ ップにおける個人の活動を援助するものである。」とされています
●キャリア形成の6ステップ
(1) 自己理解:進路や職業・職務、キャリア形成に関して「自分自身」を理解する。
(2) 仕事理解:進路や職業・職務、キャリア・ルートの種類と内容を理解する。
(3) 啓発的経験:選択や意思決定の前に、体験してみる。
(4) キャリア選択に係る意思決定:相談の過程を経て、(選択肢の中から)選択する。
(5) 方策の実行:仕事、就職、進学、キャリア・ルートの選択、能力開発の方向等、意思決 定したことを実行する。
(6) 仕事への適応:それまでの相談を評価し、新しい職務等への適応を行う。
なお、個人のキャリア形成は、これを長期的に見た場合、上記の6ステップが職業生涯の 節目、節目において繰り返される中で、年齢とともに知識・経験は広がりを見せるとともに、 専門性は深まっていくものとされています。
「労働者等のキャリア形成上の課題」を捉える際、キャリアコンサルティングが6つのステップにおける個人の発達を援助するものであることと、各ステップの理解の程度や達成度合いは労働者個々に差があり、その差がキャリア形成上の課題の柱の一つであるという位置づけになっています。
キャリア形成の6つのステップに加え、労働者等 の一人ひとりの性格・能力といったパーソナリティの側面と周囲(環境)との関係性等、「個人特性」はキャリア形成上の課題のもう一つの柱として重要です。
労働者等のキャリア形成における課題に応じたキャリアコンサルティング技法の開発に関する調査・研究事業 |厚生労働省
(つづく)平林良人