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前回に続き、持続可能な医療・介護の実現についてお話します。少子高齢化によって、ますます労働力の減少が進んでいます。医療・介護も例外ではなく、将来的に医師や看護師、介護従事者が減っていくことは避けられません。つまり、社会と同じく需要と供給のバランスが崩れてしまう可能性があります。このバランスをどう保っていくかが、医療・介護業界の課題です。また、医療費も今後増える一方であり、税金が減ってしまえば、必然的に社会保障費の確保が難しくなってきます。
■医療費適正化
国及び都道府県は、高齢期における適切な医療の確保を図るため、医療費適正化計画を 策定しています。 2024(令和6)年度からの第4期医療費適正化基本方針には、これまで取り組んできた特定健診・保健指導の実施率の向上、後発医薬品の使用促進や医薬品の適正使用(重複投薬、多剤投与の適正化)等に加え、新たな取組目標として、複合的なニーズを有する高齢者への医療・介護の効果的・効率的な提供や、医療資源の効果的・効率的な活用を加え、既存の目標についても、デジタル等を活用した効果的な取組みを推進するとともに、計画の実効性の確保のため、都道府県が関係者と連携するための体制を構築することを盛りこみました。これに即して、都道府県は第4期医療費適正化計画(2024年度から2029(令 和11)年度)を策定し、取組目標の達成に向けて、保険者協議会等と連携しながら取組みを進めています。
■診療報酬・薬価改定
令和6年度診療報酬改定では、物価高騰・賃金上昇、経営の状況、人材確保の必要性、 患者負担・保険料負担の影響を踏まえ、ポスト2025年のあるべき医療・介護の提供体制を見据えつつ、DX等の社会経済の新たな流れも取り込んだ上で、効果的・効率的で質の高い医療サービスの実現に向けた取組みを進める観点から、診療報酬の改定率をプラス 0.88%とした。 改定に当たっては、「令和6年度診療報酬改定の基本方針」に示された ①現下の雇用情勢も踏まえた人材確保・働き方改革等の推進 ②ポスト2025を見据えた地域包括ケアシステムの深化・推進や医療DXを含めた医療機能の分化・強化、連携の推進 ③安心・安全で質の高い医療の推進 ④効率化・適正化を通じた医療保険制度の安定性・持続可能性の向上 の4つの視点を柱とした上で、具体的には次のような見直しを行った。(出典)厚生労働省 令和6年版 厚生労働白書
〇現下の雇用情勢も踏まえた人材確保・働き方改革等の推進
看護職員、病院薬剤師その他の医療関係職種について、賃上げを実施していくため、新たな評価を行うとともに、40歳未満の勤務医師、事務職員等の賃上げに資する措置として、入院基本料等の評価を見直しました。
〇安心・安全で質の高い医療の推進
三次救急医療機関等に救急搬送された患者について連携する他の医療機関でも対応が可能と判断する場合に連携する他の医療機関に看護師等が同乗の上で転院搬送する場合の 評価を新設しました。 歯科については、回復期医療・慢性期医療を担う病院における歯科の機能を評価し、リハビリテーション、栄養管理及び口腔管理の一体的な取組みを推進する観点から、口腔機 能管理に係る評価を新設しました。 調剤については、地域におけるかかりつけ機能に応じて薬局を適切に評価する観点から、薬局の体制に係る評価の在り方を見直すとともに、地域の医薬品供給拠点としての役割を担い、地域医療に貢献する薬局の整備を進めていく観点から、夜間・休日対応を含めた、薬局における体制に係る評価を見直しました。
■薬価改定
ドラッグ・ラグ/ドラッグ・ロスの解消を実現するため、革新的新薬のイノベーションの適切な評価を推進するための薬価上の措置を行うこととし、具体的には、革新的新薬を日本へ迅速に導入した場合を評価することとしたほか、 新薬創出・適応外薬解消等促進加算の見直し(革新的新薬の特許期間中の薬価維持)を行いました。後発品を中心とした安定供給の課題を解消するため、後発品企業の産業構造の転換を促すとともに、医療上必要性の高い品目の安定供給の確保につなげるための薬価上の措置を行うこととし、具体的には、企業の安定供給体制等を評価し、評価結果を薬価制度において活用することとしたほか、基礎的医薬品の対象拡大や不採算品再算定の特例的な適用を行いました
◆質の高い介護保険制度
■介護保健制度の現状と目指す姿
2000(平成12)年4月に社会全体で高齢者介護を支える仕組みとして創設された介護保険制度は2024(令和6)年で25年目を迎えた。 介護保険制度は着実に社会に定着してきており、介護サービスの利用者は2000年4月の149万人から2023(令和5)年4月には524万人と約3.5倍になっている。あわせて 介護費用も増大しており、2000年度の約3.6兆円から、2022(令和4)年度には約11.4 兆円となり、高齢化が更に進行する2040(令和22)年には約25.8兆円になると推計されている。また介護費用の増大に伴い、制度創設時に全国平均3,000円程度であった介護保険料は、第8期介護保険事業計画期間(2021(令和3)年度から2023年度)におい ては、全国平均6,014円になっており、2040年には約9,200円になると見込まれている。 また、いわゆる団塊ジュニア世代の全員が65歳以上となる2040年頃を見通すと、85 歳以上人口が急増し、認知機能が低下した高齢者や要介護高齢者が更に増加する一方、生産年齢人口が急減することが見込まれている。 さらに、都市部と地方では高齢化の進み方が大きく異なるなど、これまで以上にそれぞれの地域の特性や実情に応じた対応が必要となる中で、このような社会構造の変化や高齢者のニーズに応えるために、地域包括ケアシステムの深化・推進を目指している。 こうした中で、「介護保険制度の見直しに関する意見」(2022年12月社会保障審議会介護保険部会)等を踏まえ、第211回通常国会において「全世代対応型の持続可能な社会保障制度を構築するための健康保険法等の一部を改正する法律」が成立し、地域包括支援センターの体制整備、介護サービス事業所等の生産性向上に向けた取組みの強化等について2024年度から順次施行している。 これらを踏まえ、2024年度からの第9期介護保険事業(支援)計画の基本指針においては、以下のような事項を盛り込んでいる。①各地域の中長期的な介護ニーズ等を踏まえた介護サービス基盤の計画的な整備
②地域包括ケアシステムの深化・推進に向けた取組(多様な主体による介護予防・日常生活支援総合事業の充実の推進、ヤングケアラ―を含めた家族介護者の支援、高齢者虐待防止対策の推進、住まいと生活の一体的支援、医療・介護の情報基盤の一体的な整備、保険者機能の一層の強化等)
③地域包括ケアシステムを支える介護人材確保及び介護現場の生産性向上の推進(出典)厚生労働省 令和6年版 厚生労働白書
■地域包括ケアシステムの構築
●介護予防・健康づくりの推進
介護予防は、高齢者が要介護状態等になることの予防又は要介護状態等の軽減若しくは悪化の防止を目的として行うものです。 機能回復訓練などの高齢者本人へのアプローチだけではなく、地域づくりなどの高齢者本人を取り巻く環境へのアプローチも含めたバランスのとれたアプローチを行うことが重要との考えに基づき、年齢や心身の状況等によって分け隔てることなく、住民主体の通いの場を充実させ、人と人とのつながりを通じて、参加者や通いの場が継続的に拡大していくような地域づくりを市町村が中心となって推進しています。 通いの場がある市町村は、62.2%(2013(平成25)年度)から97.6%(2022(令和 4)年度)となり、通いの場の箇所数は43,154か所(2013年度)から145,641か所 (2022年度)へと増加の傾向にあります。また、高齢者人口に占める参加者の割合は6.2% (2022年度)であり、都道府県別にみると地域差がある状況です。 このため、厚生労働省では、全国で取組みを更に広げていく観点から、通いの場の好事例の紹介や、企業、団体、自治体等における介護予防・高齢者生活支援に資する優れた活動等の奨励・普及を目的とした表彰等を行っています。
●自立支援・重度化防止に向けた取組み
制度の持続可能性を維持するためには、市町村の保険者機能を強化し、高齢者の自立支援・重度化防止に向 けた取組みを推進することが重要です。 このため、全市町村が保険者機能を発揮し、自立支援・重度化防止に取り組むよう、
①データに基づく課題分析と対応
②適切な指標による実績評価
③取組み実績に応じた市町村・都道府県に対する財政的インセンティブの付与
という仕組みを「地域包括ケアシステムの強化のための介護保険法等の一部を改正する法 律」(平成29年法律第52号。以下「地域包括ケア強化法」という。)により制度化することとしました。 また、市町村の人員体制やノウハウの蓄積等の状況は地域によって様々であるため、厚生労働省や都道府県が積極的かつ丁寧に支援していくことが必要です。具体的には、都道府県が市町村を支援することを法律上に明記し、都道府県による市町村職員に対する研修の実施、医療職等の派遣に関する関係団体との調整等を行うこ都としました。
さらに、財政支援策として、2018(平成30)年度より保険者機能強化推進交付金が、2020(令和2)年度にはその上乗せとして介護保険保険者努力支援交付金が創設された。 これらの交付金は、保険者等が取り組むべき事項に関して客観的な指標を設定し、その評価結果に応じて交付されています。各保険者等には、当該交付金も活用し、高齢者の自立支援、重度化防止等の取組みを一層進めていくことが期待されます。
(つづく)Y.H