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前回に続き、持続可能な医療・介護の実現についてお話します。少子高齢化によって、ますます労働力の減少が進んでいます。医療・介護も例外ではなく、将来的に医師や看護師、介護従事者が減っていくことは避けられません。つまり、社会と同じく需要と供給のバランスが崩れてしまう可能性があります。このバランスをどう保っていくかが、医療・介護業界の課題です。また、医療費も今後増える一方であり、税金が減ってしまえば、必然的に社会保障費の確保が難しくなってきます。
〇歯科医師の確保
2021(令和3)年2月から開催されている「歯科医療提供体制等に関する検討会」では、今後の歯科医療のニーズを踏まえ、歯科医療の提供体制の構築等に関する必要な事項について検討されています。 「第8次医療計画等に関する検討会」においても歯科医師の確保の必要性が指摘されており、医療計画作成指針において、地域における歯科医療従事者の配置状況の把握を行った上で、医科歯科連携における歯科の果たす役割を認識し、病院の規模や機能に応じて地域の歯科医療従事者を病院において活用することや、病院と歯科診療所等の連携を推進することなど、地域の実情を踏まえた取組みを推進すること等が考えられる旨盛り込まれています。
〇薬剤師の確保
これまで、地域ごとの薬剤師の比較には人口10万人対薬剤師数が用いられてきましたが、 医療需要に基づき、地域ごと、病院・薬局の業態ごとの薬剤師数の多寡を統一的・客観的 に把握できる「薬剤師偏在指標」を2023年6月に策定しました。また、各都道府県が薬剤師 確保策を検討する際の参考となるよう、「薬剤師確保計画ガイドライン」を発出しました。さ らに、地域医療介護総合確保基金の事業例として、「地域包括ケアの拠点となる病院・薬局における薬剤師の確保支援」を位置づけ、薬剤師修学資金貸与を行うために必要な経費や、都道府県が指定する病院へ薬剤師派遣を行うための経費として活用できるようにするなどの取組みを行っています。
〇看護職員の確保
看護職員の確保対策を推進してきたことにより、その就業者数は着実に増加(2020(令和2)年には約173.4万人が就業)していますが、少子高齢化の進行に伴って、現役世代(担い手)が急減する一方、看護ニーズが増大する中で、看護職員の確保対策の強化が求められています。 看護職員の人材確保に関しては、「看護師等の人材確保の促進に関する法律」に基づき、国、地方自治体、国の指定する中央ナースセンター、各都道府県の指定する都道府県ナースセンターが連携して、①新規養成、②定着促進、③復職支援を柱とした取組みを進めています。
◆安定的で持続可能な医療保険制度の実現
■医療保険制度改革の推進
我が国は、国民皆保険制度の下で世界最高レベルの平均寿命と保健医療水準を実現して きました。一方で、今後を展望すると、いわゆる団塊の世代が2025(令和7)年までに全て75歳以上となり、また、生産年齢人口の減少が加速するなど、本格的な「少子高齢化・人口減少時代」を迎える中で、人口動態の変化や経済社会の変容を見据えつつ、全ての世代が公平に支え合い、持続可能な社会保障制度を構築することが重要です。
●こども・子育て支援
〇出産育児一時金に対する後期高齢者医療制度からの支援金の導入
出産育児一時金については、出産費用が年々上昇する中で、平均的な標準費用が全て賄えるよう、2023(令和5)年4月より、42万円から50万円に大幅に増額しました。この出産育児一時金に要する費用は、原則として現役世代の被保険者が自ら支払う保険料で負担することとされていましたが、後期高齢者医療制度の創設前は、高齢者世代も、出産育児一時金を含め、こどもの医療費について負担していました。このため、今般、子育てを社会全体で支援する観点から、後期高齢者医療制度が出産育児一時金に要する費用の一部を支援する仕組みを2024(令和6)年度から導入することとしました。
●高齢者医療制度の見直し
〇後期高齢者医療制度における後期高齢者負担率の見直し
高齢者人口は2040(令和22)年をピークに増え続け、特に、2025(令和7)年までに団塊の世代が全て後期高齢者となる。後期高齢者の保険料が、後期高齢者医療制度の創設以来1.2倍の伸びに止まっているのに対し、現役世代の負担する支援金が1.7倍になっている状況を踏まえ、現役世代の負担上昇の抑制を図りつつ、負担能力に応じて、全ての世代で、増加する医療費を公平に支え合う仕組みが必要である。このため、後期高齢者1人当たり保険料と現役世代1人当たり後期高齢者支援金の伸び率が同じになるよう後期高齢者医療における高齢者の保険料負担割合を2024(令和6)年度から見直すこととした。 後期高齢者の保険料は、所得にかかわらず低所得の方も負担する定額部分(均等割)と所得に応じて負担する定率部分(所得割)により賦課する仕組みであり、制度改正による、2024年度からの新たな負担に関しては、
・均等割と所得割の比率を見直すことで、約6割の方(年金収入153万円相当以下の方) については、制度改正に伴う負担の増加が生じないようにするとともに、
・さらに約12%の方(年金収入211万円相当以下の方)についても、2024年度は制度改正に伴う負担の増加が生じないようにすること等の配慮を行っている。〇被用者保険における負担能力に応じた格差是正の強化
前期高齢者の医療給付費負担については、前期高齢者の偏在による負担の不均衡を是正 するため、前期高齢者の加入者数に応じて、保険者間で費用負担の調整(前期財政調整) を行っている。 今般、世代間のみならず世代内でも負担能力に応じた仕組みを強化する観点から、被用者保険者間では、現行の「加入者数に応じた調整」に加え、部分的(範囲は1/3)に「報酬水準に応じた調整」を2024年度から導入することとした。 こうした見直しや、高齢者負担率の見直しとあわせて、現役世代の負担をできる限り抑制し、企業の賃上げ努力を促進する形で、健保組合等を対象として実施されている既存の支援を見直すとともに、更なる支援を行うこととした。 具体的には、
・高齢者医療運営円滑化等補助金について、賃上げ等により一定以上報酬水準が引き上 がった健康保険組合に対する補助を創設するなど、拠出金負担の更なる軽減
・健康保険組合連合会が実施する健保組合に対する高額医療交付金事業について、財政的 支援の制度化を行うことによる事業規模の拡充
・特別負担調整への国費充当の拡大による、負担軽減対象となる保険者の範囲の拡大を行なうこととした。(出典)厚生労働省 令和6年版 厚生労働白書
■予防・健康づくり
●保険者による予防・健康づくり支援の取組み
〇取組みの見える化
健康寿命の延伸と医療費の適正化を図るため、2015(平成27)年7月に、民間主導の日本健康会議が発足し、保険者の予防・健康づくりの取組みの「見える化」や先進事例の「横展開」を進めています。取組みの最終年度である2020(令和2)年度には多くの宣言で目標を達成しました。2021(令和3)年度には新たに「健康づくりに取り組む5つの実行宣言2025」を策定し、コミュニティの結びつき、一人ひとりの健康管理、デジタル技術等の活用に力点を置いた予防・健康づくりを推進することをコンセプトとして、第二期日本健康会議の活動を開始しています。
〇高齢者に特性を踏まえた保健事業の推進
高齢者に対する保健事業を、加齢に伴い心身機能が低下する等の高齢者の特性を踏まえ たものとするためには、市民に身近な市町村が中心となり、介護保険の地域支援事業や国 民健康保険の保健事業と後期高齢者の保健事業を一体的に実施することが重要である。 そのため、2020年4月に施行された「医療保険制度の適正かつ効率的な運営を図るための健康保険法等の一部を改正する法律」により、これら3つの事業を一体的に実施すための体制整備等を行った。具体的には、都道府県後期高齢者医療広域連合が各市町村に保健事業の実施を委託して、市町村の医療専門職が地域の健康課題を整理・分析した上 で、「高齢者の特性を踏まえた保健事業ガイドライン第2版」や当該ガイドライン補足版 を参考に、高齢者の個別支援や介護予防の通いの場等に関与する取組み等を開始、2023 (令和5)年度には、1,396市町村(全体の約80%)で事業を実施している。 こうした取組みを推進するため、2020年度より、各市町村に①事業全体の企画・調整等を行う医療専門職、②高齢者の個別支援や通いの場等への関与等を行う医療専門職を配置する費用見ついて、後期高齢者医療の特別調整交付金により支援している。(出典)厚生労働省 令和6年版 厚生労働白書
〇データ等を活用した予防・健康づくりの効果検証の実施
2020年度から2022年度まで、データ等を活用した予防・健康づくりに関するエビデンスを確認・蓄積するための大規模実証を実施しました。2023年度以降は、その結果を踏まえ、保険者等による適切な予防・健康づくりのための取組みの実施を促進しています。
(つづく)Y.H