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実践編・応用編

医療のイノベーション推進 2

投稿日:2024年12月13日 更新日:

キャリアコンサルタントが知っていると有益な情報をお伝えします。

前回に引き続き、医療のイノベーション推進についてお話しします。イノベーションとは、全く新しい技術や考え方を取り入れて、新しい価値を生み出し、大きな変化を起こすことをいいます。近年医療業界においてもイノベーションが強く求められています。その背景には、より高度な医療機器が開発される中で、特に疾病の治療機器が海外から輸入されるケースが増えるなど、日本国内における技術の国際競争力不足という問題があります。

■次世代医療基盤法
匿名加工された医療情報の安全・適正な利活用を通じて、健康・医療に関する先端的研究開発や基盤整備や新産業創出を促進するため、「「医療分野の研究開発に資するための匿名加工医療情報及び仮名加工医療情報に関する法律」。) が2018(平成30)年5月に施行されました。2024(令和6)年2月現在、三つの認定事業者 において約350万人分の医療情報を収集して、40件の利活用実績につなげています。また、 2023(令和5)年5月には、「医療分野の研究開発に資するための匿名加工医療情報に関する法律の一部を改正する法律」が公布、2024年4月に施行され、健康・医療分野の研究開発の更なる促進を図るため、仮名加工医療情報の取扱いについての規律が定められたほか、匿名加工医療情報を利用することができる状態で提供するための仕組みの創設等が行われた。

■研究者等が守るべき倫理指針について
医学研究の分野では、研究を適切に実施する上で、個人情報保護を含む研究対象者保護 の観点から研究者等が守るべき倫理指針として、「人を対象とする医学系研究に関する倫 理指針(医学系指針)」、「ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針(ゲノム指針)」「遺伝子治療等臨床研究に関する指針(遺伝子治療指針)」等の各種指針を定めてきた。これらの指針については、医学研究を取り巻く環境の変化等に応じ、必要な見直しを行っている。近年、ヒトゲノム・遺伝子解析技術の進展に伴い、医学系指針及びゲノム指針の双方が適用される研究が増加してきたこと等を踏まえ、2021(令和3)年6月、両指針を統合 した「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針(生命・医学系指針)」(令和3年文部科学省・厚生労働省・経済産業省告示第1号)を施行した。 また、デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律(令和3年法律第 37号)の一部の規定が2023(令和5)年4月1日に施行されること等を踏まえ、各指針の見直しを行い、2023年3月27日付けで「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針の一部を改正する件」(令和5年文部科学省・厚生労働省・経済産業省告示第1号)及び「遺伝子治療等臨床研究に関する指針の一部を改正する件(令和5年厚生労働省告示103号)」を告示した(ともに同年7年1日に施行)。(出典)厚生労働省 令和6年版 厚生労働白書”

◆医療関連産業の活性化
■革新的な医薬品・医療機器等の創出
●厚生労働省では2021(令和3)年9月 13日に「医薬品ビジョン2021」を策定しました。当ビジョンにおいては、「革新的創薬」、「後発医品」、「医薬品流通」を3本の柱として、「経済安全保障」の視点を加えた産業政策を展開していくこととしています。 また、厚生労働省では、日本の医療水準の維持及び向上のために必要な「革新的な医薬品や医療ニーズの高い医薬品の日本への早期上市」、「医薬品の安定供給」を確保する観点から、現状の課題を踏まえ、流通や薬価制度、産業構造の検証などの幅広い議論を行うため、2022(令和4)年8月に「医薬品の迅速・安定供給実現に向けた総合対策に関する有識者検討会」を立ち上げました。本検討会における2023(令和5)年6月の報告を踏まえ、各会議体において様々な施策の検討を進めています。 2024(令和6)年度税制改正では、研究開発拠点としての立地競争力を強化し、民間による無形資産投資を後押しすることを目的として、国内で自ら研究開発した特許権等から生じるライセンス等の所得に対して30%を所得控除する「イノベーション拠点税制(イノベーションボックス税制)」を創設することとしています。2025(令和7)年4月に施行予定であり、医薬品産業においても、本税制の積極的な活用が期待されています。また、少子高齢社会の中で限りある医療資源を有効活用するとともに、国民の健康づく りを促進する観点から、セルフメディケーション(自主服薬)を推進することが重要であ り、「セルフメディケーション税制」について、制度の利便性向上や国民への普及啓発に取り組んでいます。

●創薬力の強化
医療用医薬品の売上額世界上位の品目のうち日本起源のものが減少し、日本起源の品目 の世界市場におけるシェア(売上高)についても低下するなど、我が国の創薬力に関する課題が指摘されている。創薬力の強化に向けては、起業家、アカデミア、行政、投資家などが相互に協力しながら、スタートアップの立ち上げと成長を支える「エコシステム」を構築することが重要である。政府としては、2023(令和5)年12月に「創薬力の向上により国民に最新の医薬品を迅速に届けるための構想会議」を立ち上げ、我が国の医薬品産業の国際競争力の低下といった課題への対応を含めて議論を行っている。その議論を踏まえつつ、厚生労働省においても、人材・資金について国際的な連携を通じて日本に呼びこむこと等により、研究から開発への橋渡しなどで創薬エコシステムの活性化を図るための施策を検討している。

(出典)厚生労働省 令和6年版 厚生労働白書

●臨床研究に対する信頼性確保への取組み
2013(平成25)年以降、臨床研究においてデータの操作や利益相反行為という複数の 不正事案が発覚したことを契機に、厚生労働省では、研究の信頼性確保のため、2015 (平成27)年4月、従来の研究倫理指針にモニタリング・監査等に関する規定を新設した 「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」(平成26年文部科学省・厚生労働省告示 第3号)を施行した(2021(令和3)年6月より医学系指針とゲノム指針は生命・医学系 指針に統合されている、詳細は第5章第2節4を参照)。 また、未承認・適応外の医薬品等の評価を行う臨床研究を実施する場合の必要な手続、臨床研究に関する資金等の提供に関する情報の公表の義務等を定めた「臨床研究法」(平成29年法律第16号)を2018(平成30)年4月から施行した。同法の附則に基づき、施行後5年に係る見直しの検討を2021年1月から開始し、2022(令和4)年6月に公表した「臨床研究法施行5年後の見直しに係る検討のとりまとめ」を踏まえ、「再生医療等の安全性の確保等に関する法律及び臨床研究法の一部を改正する法律案」を第213回国会に提出した。 臨床研究法に規定る臨床研究については、実施計画等を厚生労働省が整備するデータ ベース(jRCT)に記録し、公表することが定められている。また、「医薬品、医療機器 等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律等の一部を改正する法律」(令和元年法律第63号)の施行に伴い、2020(令和2)年9月から治験の実施状況等についても公表が義務づけられたことを受け、治験の実施状況等についてもjRCTにおいて公表している。さらに、jRCT及び民間のデータベースに登録された臨床研究等のデータは「臨床研究情報ポータルサイト」(Web上に公開)において統合検索が可能であり、国民・患者は、現在どのような臨床研究等が進行しているか、自身が検索した臨床研究等に参加できるかどうか等を確認することができる。

●緊急承認制度の導入
新型コロナウイルス感染症の感染拡大等を踏まえ、緊急時に新たな医薬品等を速やかに薬事承認する新たな仕組みが必要として、2022(令和4)年5月の「医薬品、医療機器 等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律等の一部を改正する法律」(令和4年法律第47号)の施行により、「緊急承認制度」が創設されました。本制度は、緊急時に、安全性の確認を前提に、医薬品等の有効性が推定されたときに、条件や期限付きの承認を与えることができる仕組みであり、2022年11月には、新型コロナウイルス感染症に対する国産の抗ウイルス薬について適用された。

●医療機器の研究開発及び普及の促進に関する基本計画
医療機器の研究開発及び普及の促進に関する基本計画(医療機器基本計画)は、2014 (平成26)年に成立した「国民が受ける医療の質の向上のための医療機器の研究開発及び普及の促進に関する法律」(医療機器促進法)に基づき、我が国の医療の質の向上のため、 医療機器政策に特化し、各段階に応じた関係省庁の各種施策を網羅した政府として初めての基本計画である。 その後、医療機器産業を取り巻く環境が変化していること等を踏まえ、プログラム医療 機器の研究開発の促進や医療機器の安定供給といった新たな論点を取り入れ、第二期医療 機器基本計画として、2022(令和4)年5月31日に改定されました。第二期医療機器基本計画においては、①医療機器の研究開発の中心地としての我が国の地位の確立、②革新的な 医療機器が世界に先駆けて我が国に上市される魅力的な環境の構築、③国民に必要な医療機器へのアクセシビリティの確保を基本方針として定めるとともに、医療機器関係者が取 り組むべき事項について定めています。
(つづく)Y.H

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