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イノベーションとは、全く新しい技術や考え方を取り入れて、新しい価値を生み出し、大きな変化を起こすことをいいます。近年医療業界においてもイノベーションが強く求められています。その背景には、より高度な医療機器が開発される中で、特に疾病の治療機器が海外から輸入されるケースが増えるなど、日本国内における技術の国際競争力不足という問題があります。今回は、医療のイノベーション推進についてお話しします。
◆医療DX等の推進
医療DXの推進は、患者、医療機関、企業、研究者等に様々なメリットをもたらします。 まず、患者へのメリットとして、日常診療のみならず、災害時や救急時も含め、全国いつどの医療機関や薬局にかかっても、必要な医療情報が共有されることが挙げられます。 患者がこれまでに受けた治療や薬、健康診断の情報が、他の医療機関等と共有できるようになることで、切れ目ない、安全で質の高い医療の効率的な提供につながります。 また医療機関の事務効率化としてのメリットもあります。医療機関等のデジタル化が促進されることで、紙の書類作やデータ入力作業などの大幅な削減や、誤入力の減少などを通じた正確な事務処理が期待されます。これにより、残業時間の減少など働き方改革が進み、魅力ある職場づくりにもつながっていきます。
●マイナ保険証の利用促進等
2023年4月から保険医療機関・薬局におけるオンライン資格確認導入の原則義務化を実施するとともに、居宅における資格確認の仕組み等の導入を進めています。また、2023年6月にはマイナンバー法等の一部改正法が成立し、2024(令和6)年12月2日から現行の健康保険証の発行が終了し、マイナ保険証を基本とする仕組みに移行することとしています。これを踏まえ、医療機関・薬局や保険者等の関係者と連携し、マイナ保険証の積極的な利用促進に取り組むとともに、デジタルとアナログの併用期間を設け、全ての方が安心して確実に保険診療を受けられる環境整備に取り組んでいます。
●全国医療情報プラットフォームの構築
オンライン資格確認等システムのネットワークを拡充し、保健・医療・介護の情報を共有できる全国的なプラットフォームの創設に向けて取り組んでいます。 2023年1月から、電子処方箋管理サービスの全国的な運用を開始しています。これまで、医療機関・薬局に対する電子処方箋導入のためのシステム改修費の補助やリフィル処方等の機能拡充、国民・患者向けの周知広報等を行い、導入促進に向けた環境整備に取り組んでいます。全国の医療機関間等で電子カルテ情報を共有する「電子カルテ情報共有サービス」の制度設計やシステム構築にも取り組んでおり、2024年度末から開始予定のモデル事業や、2025(令和7)年度中の本格稼働に向けた取組みを進めています。
●電子カルテ情報の標準化等
異なる医療機関等で電子カルテ情報を交換・共有するためには、各医療機関の電子カルテ情報を標準化させる必要があります。
既に電子カルテを導入している医療機関については、電子カルテシステムを標準規格に改修する必要があり、厚生労働省は、2024年3月から医療情報化支援基金を活用し、改修費用への補助を行っています。また、電子カルテを導入していない診療所等に向けては、クラウドベースの標準型電子カルテを開発・提供していく予定です。既にデジタル庁とともに開発に着手しており、2024年度末には、一部の医療機関での試行的実施を予定しています。
●診療報酬改定DX
現行、2年に一度の診療報酬改定においては、短期間での改定に対応する作業に相当数 のデジタル人材の投入が必要であり、医療機関においても費用負担が大きい。デジタル人 材の有効活用やシステム費用の低減等の観点から、デジタル技術を利活用して、診療報酬 やその改定に関する作業を大幅に効率化することにより、医療保険制度全体の運営コスト削減につなげることを目指す。●医療等情報の二次利用の推進
全国医療情報プラットフォームで共有される医療等情報の利活用を通じた研究開発の促進に向けて、2023年11月に「医療等情報の二次利用に関するワーキンググループ」を設置し、公的DBで仮名化情報を利用・提供する場合の法制的論点、情報連携基盤の整備の方向性に係る論点等についての検討を行っている。また、データの標準化・信頼性確保、情報連携基盤におけるセキュリティ要件等の技術的事項等についても、検討を進めることとしている。(出典)厚生労働省 令和6年版 厚生労働白書
◆医薬品・医療機器開発などに関する基盤整備
●健康・医療戦略について
政府の成長戦略の柱の1つである医薬品・医療機器産業を含む健康・医療関連分野にお いて、革新的な医療技術の実用化を加速するため、2014年7月に、医療分野の研究開発及び健康長寿社会の形成に資する新たな産業活動の創出・活性化に関し、政府が総合的かつ長期的に講ずべき施策を定めた第1期「健康・医療戦略」が閣議決定されました。また、医療分野の研究開発に関する施策について、基本的な方針や政府が集中的かつ計画的に講ずべき施策等を定めた第1期「医療分野研究開発推進計画」が策定され、①医薬品開発、②医療機器開発、③臨床研究中核病院などの革新的な医療技術創出拠点、④再生医療、⑤ゲノム医療、⑥がん、⑦精神・神経疾患、⑧感染症、⑨難病の9分野で重点的に研究支援をしていくこととされました。 2020(令和2)年3月には、第1期終了を受け、2020年度から2024(令和6)年度までの5年間を対象とした第2期「健康・医療戦略」が閣議決定され、また、第2期「医療分野研究開発推進計画」が策定されました。第2期においては、モダリティ等を軸とした6つの統合プロジェクトに再編し、①医薬品プロジェクト、②医療機器・ヘルスケアプロジェクト、③再生・細胞医療・遺伝子治療プロジェクト、④ゲノム・データ基盤プロジェク ト、⑤疾患基礎研究プロジェクト、⑥シーズ開発・研究基盤プロジェクトについて横断的な技術や新たな技術を、多様な疾患領域に効果的・効率的に展開することとなりました。
●研究開発の振興について
各省の医療分野の研究開発関連事業を集約し、基礎段階から実用化まで切れ目のない支 援を実現するため、2015(平成27)年4月に、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED))が設立された。 厚生労働行政に関する研究開発のうち、医療分野の研究開発は、厚生労働省に加え、内閣府、こども家庭庁、総務省、文部科学省、経済産業省の6府省庁に計上された医療分野の研究開発関連予算をAMEDに交付し、AMEDにおいて実施している(2024(令和6) 年度医療研究開発推進事業費補助金等約481億円)。 AMEDにおける医療分野の研究開発として、例えば、以下のような取組みを行っている。
①医薬品プロジェクトにおいては、医療現場のニーズに応える医薬品の実用化を推進する ため、創薬標的の探索から臨床研究に至るまで、モダリティの特徴や性質を考慮した研究開発を行う。また、モダリティに関する基盤的な研究開発を行い、新薬創出を目指す。さらに、創薬研究開発に必要な支援基盤に取り組む。②医療機器・ヘルスケアプロジェクトにおいては、AI・IoT技術や計測技術、ロボティクス技術等を融合的に活用し、診断・治療の高度化や、予防・QOL向上等に資する医 療機器・ヘルスケアに関する研究開発を行う。
③再生・細胞医療・遺伝子治療プロジェクトにおいては、再生・細胞医療・遺伝子治療の実用化に向け、細胞培養・分化誘導等に関する基礎研究、疾患・組織別の非臨床・臨床 研究や製造基盤技術の開発、疾患特異的iPS細胞等を活用した難病等の病態解明・創薬 研究及び必要な基盤構築を行う。また、遺伝子治療について、遺伝子導入技術や遺伝子 編集技術に関する研究開発を行う。さらに、再生・細胞医療と遺伝子治療の一体的な研究開発や臨床研究拠点の整備を進めるとともに、革新的な研究開発・基盤整備を進める。
④ゲノム・データ基盤プロジェクトにおいては、ゲノム・データ基盤の整備・利活用を促進し、ライフステージを俯瞰した疾患の発症・重症化予防、診断、治療等に資する研究開発を推進することで、病態解明を含めたゲノム医療、個別化医療の実現を目指す。
⑤疾患基礎研究プロジェクトにおいては、医療分野の研究開発への応用を目指し、脳機能、免疫、老化等の生命現象の機能解明や、様々な疾患を対象にした疾患メカニズムの解明等のための基礎的な研究開発を行う。⑥シーズ開発・研究基盤プロジェクトにおいては、アカデミアの組織・分野の枠を超えた 研究体制を構築し、新規モダリティの創出に向けた画期的なシーズの創出・育成等の基礎的研究や、国際共同研究を実施する。また、橋渡し研究支援機関や臨床研究中核病院 において、シーズの発掘・移転や質の高い臨床研究・治験の実施のための体制や仕組み を整備するとともに、リバース・トランスレーショナル・リサーチや実証研究基盤の構 築を推進する。
第2期においても、医療分野の研究開発の推進に関係省庁と連携して取り組むこととしている。
なお、医療分野の研究開発以外の厚生労働行政の推進に資する研究については、厚生労 働省が実施している(2024年度厚生労働科学研究費補助金等約91億円)。(出典)厚生労働省 令和6年版 厚生労働白書
(つづく)Y.H