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前回に続き、安心できる年金制度の確立についてお話しします。少子高齢化は、老後生活を支える年金の支給水準に大きな影響を与えています。それは、年金を負担する現役世代が減少する一方で、年金を受け取る高齢者が増えるためです。国民の多くは、年金制度は今後どうなっていくのか、或いはまた将来自分がどの位年金を受け取ることができるのか、そんな不安を持っています。
●年金積立金の管理、運用
〇年金積立金の管理運用の概要
年金積立金の運用は、「積立金が、被保険者から徴収された保険料の一部であり、かつ、 将来の保険給付の貴重な財源となるものであることに特に留意し、もっぱら被保険者の利益のために、長期的な観点から安全かつ効率的に行う」ことが法律で定められています。 2019(令和元)年の経済前提をもとに、各ケースに対応できる長期の実質的な運用利回り(名目運用利回り-名目賃金上昇率)1.7%を運用目標とし、年金積立金管理運用独立行政法人((以下「GPIF」という。)の中期目標において、「長期的に年金積立金の実質的な運用利回り1.7%を最低限のリスクで確保すること」とされています。これを受けて、複数の資産への分散投資を基本として、長期的な観点からの資産構成割合を定め、市場に与える影響に留意しつつ、年金積立金の管理・運用を行なっています。
〇年金積立金の管理・運用考え方
年金積立金は、おおむね50年程度は取り崩す必要がない資金であるため、市場の一時的な変動に過度にとらわれる必要はなく、様々な資産を長期にわたって保有する「長期運用」により、安定的な収益の獲得を目指している。長期的な運用においては、短期的な市場の動向により資産構成割合を変更するよりも、基本となる資産構成割合(基本ポートフォリオ)を決めて長期間維持していく方が、効率的で良い結果をもたらすとされている。GPIFでは、基本ポートフォリオに基づいて運用を行っており、実際の運用における資産構成割合が基本ポートフォリオからかい離した場合には適時適切に資産の入替え等 (リバランス)を行っている。株式は、短期的な価格変動リスクは債券よりも大きいものの、長期的に見た場合、債券よりも高い収益が期待できることから、株式を適切に組み入れて運用することで、最低限のリスクで年金財政上必要な利回りを確保することを目指している。また、国内だけでなく、外国の様々な種類の資産に分散して投資することで、収益獲得の機会を増やし、世界中の経済活動から収益を得ると同時に、資産分散の効果により、大きな損失が発生する可能性を抑える運用を行っている。
GPIFが重視しているリスクは、「市場の一時的な変動による短期的なリターンの変動 (ブレ幅)」ではなく、「年金財政上必要とされている長期的な収益が得られないこと」であり、GPIFは、短期的なリターンの変動にも配慮しながら、長期的な収益が得られないリスクを抑えることを重視した運用を行っている。(出典)厚生労働省 令和6年版 厚生労働白書
〇年金積立金の運用状況
GPIFの2022(令和4)年度の運用状況は、国内株式の価格上昇や円安の進行等により、収益額+2兆9,536億円(年間)、運用資産額200兆1,328 288億円(2022年度末時点)となり、自主運用を開始した2001(平成13)年度から2022 年度までの累積では、収益額+108兆3,824億円(うち利子・ 配当収入のインカムゲインは47兆527億円)となっています。また、年金積立金全体の実質的な運用利回りは、2001年度以降の22年間の平均で3.68%となり、運用目標(実質的な運用利回り+1.7%)を上回っています。 なお、GPIFの2023(令和5)年度第1四半
■企業年金・個人年金制度の最近の動向
●企業年金・個人年金制度の役割
企業年金・個人年金制度は、国民の高齢期における所得の確保に係る自主的な努力を支 援し、もって公的年金の給付と相まって国民生活の安定と福祉の向上に寄与することを目 的とした制度であり、公的年金に上乗せして加入するものです。多様化する国民の老後生活に対するニーズに対応しつつ、長期化する高齢期の経済基盤の充実を図るためには、老後生活の基本を支える公的年金に加え、企業年金・個人年金の充実が重要です。これらを踏まえ、企業年金・個人年金の更なる普及を図るため、より利用しやすい確定拠出年金(DC)制度や確定給付企業年金(DB)制度の整備に向けた取組みを進めています。
●直近の法令改正と今後の課題
2020年改正法においては、DCの加入可能年齢の引上げや受給開始時期の選択肢の拡 大、DCにおける中小企業向け制度の対象範囲の拡大、企業型DC加入者の個人型DC (iDeCo)加入の要件緩和等を盛り込んだ。
また、2020年改正法の検討規定等や社会保障審議会企業年金・個人年金部会(以下 「企業年金・個人年金部会」という。)での議論を受け、令和3年度税制改正の大綱(2020 (令和2)年12月21日閣議決定)において、DCの拠出限度額について、DB等の他制度 の掛金額の実態を反映し、次の①②の通り、公平できめ細かな算定方法に見直すこととした(2024(令和 6)年12月1日施行)。
①DB制度の加入者の企業型DCの拠出限度額(現行:月額2.75万円)を、月額5.5万円からDBごとの掛金相当額を控除した額とする。
②DB制度の加入者の個人型DCの拠出限度額(現行:月額1.2万円)を、月額5.5万円からDBごとの掛金相当額及び企業型DCの掛金額を控除した額(月額2万円を上限)とする。
私的年金制度については、「資産所得倍増プラン」(2022(令和4)年11月28日新しい資本主義実現会議決定)において、①iDeCoの加入可能年齢を70歳に引き上げること、 ②iDeCoの拠出限度額の引上げ等について、2024年の公的年金の財政検証に併せて結論を得ること、③iDeCo各種手続きの簡素化等を行うこととされたほか、「資産運用立国実現プラン」(2023(令和5)年12月13日新しい資本主義実現会議資産運用立国分科会取りまとめ)においては、DBにおける資産運用力の向上、共同運用の選択肢の拡大及び加入者のための運用の見える化の充実、企業型DCにおける適切な商品選択に向けた制度改善及び加入者のための運用の見える化の充実並びに企業年金を含む私的年金の更なる普及促進等が盛り込まれた。これらも踏まえ、企業年金・個人年金部会では2023年4月より、①国民の様々な働き方やライフコースの選択に対応し、公平かつ中立的に豊かな老後生活の実現を支援することができる私的年金制度の構築、②私的年金制度導入・利用の阻害要因を除去し、より多くの国民が私的年金制度を活用することができる環境整備、③制度の運営状況を検証・見直し、国民の資産形成を促進するための環境整備の3つの視点から次期年金制度改正に向けた議論を開始している。
また、2024年3月28日には、企業年金・個人年金部会でのこれまでの議論に関する中間整理を行ったところである。今後も、私的年金制度全般の改革の方向性について引き議論を行っていく。(出典)厚生労働省 令和6年版 厚生労働白書
■社会保障協定の締結
海外在留邦人等が日本と外国の年金制度等に加入し保険料を二重に負担することを防ぎ、また、両国での年金制度の加入期間を通算できるようにすることを目的として、外国との間で社会保障協定の締結を進めています。現在、23か国との間で協定が発効しており、 トルコ、ポーランド、ベトナム、タイ及びノルウェーとの間で協定の締結に向けた交渉又は協議を行っています。
我が国が社会保障協定を締結するに当たっては、我が国の経済界からの具体的要望の有 無、我が国とその相手国との二国間関係や社会保障制度の違いなどの様々な点を総合的に 考慮した上で、優先度が高いと判断される相手国から順次締結交渉を行うこととしています。今後とも、政府として、社会保障協定の締結に向けた取組みを一層推進していきます。
(つづく)Y.H