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少子高齢化は、老後生活を支える年金の支給水準に大きな影響を与えています。それは、年金を負担する現役世代が減少する一方で、年金を受け取る高齢者が増えるためです。国民の多くは、年金制度は今後どうなっていくのか、或いはまた将来自分がどの位年金を受け取ることができるのか、そんな不安を持っています。今回は、安心できる年金制度の確立についてお話しします。
公的年金制度は、現役世代の保険料負担により、その時々の高齢世代の年金給付をまかなう世代間扶養である賦課方式を基本とした仕組みで運営されています。賃金や物の変化を年金額に反映させながら、生涯にわたって年金が支給される制度として設計されており、必要なときに給付を受けることができる保険として機能しています。 また2004(平成16)年の年金制度改革により中長期的に持続可能な運営を図るための財政フレームワークが導入されました。具体的には、基礎年金国庫負担割合の引上げと積立金の活用により保険料の段階的な引上げ幅を極力抑えた上で、保険料の上限を固定し、その保険料収入の範囲内で年金給付をまかなうことができるよう、給付水準について、前年度よりも年金の名目額を下げずに賃金・物価上昇の範囲内で自動的に調整する仕組み(マクロ経済スライド)が導入されました。
2024(令和6)年度の保険料水準は、厚生年金保険料率が18.3%、国民年金保険料が 16,980円となっています。一方、同年度の給付水準は、厚生年金(夫婦2人分の老齢基礎 年金を含む年金額が月額230,483円、国民年金1人分の老齢基礎年金額が68,000円となっています。
◆持続可能な安心できる年金制度の運営
■持続可能で安定的な公的年金制度の確立
●公的年金財政検証と今後の見通し
年金制度では、少なくとも5年に一度、将来の人口や経済の前提を設定した上で、長期的な年金財政の見通しやスライド調整期間の見通しを作成し、年金財政の健全性を検証する「財政検証」を行っています。 2019年財政検証では、どのような経済状況の下でどのような年金財政の姿になるのかということを幅広く示し、また、一定の制度改正を仮定したオプション試算を行っています。その結果、持続可能性や年金水準の確保のためにどのような対応があり得るのかなどを検証しました。 この結果、経済成長と労働参加が進むケースでは、今の年金制度の下で、将来的に所得代替率50%の給付水準が確保できることが確認されました。また、オプション試算の結果、被用者保険の更なる適用拡大、就労期間・加入期間の延長、受給開始時期の選択肢の拡大といった制度改正を行うことが年金の給付水準を確保する上でプラスの効果を持つことも同時に確認されています。 次回の財政検証は、2024(令和6)年夏頃に行うこととしており、これを受 けて行うこととなる次期年金制度改正に向け、社会経済や労働市場の変化に対応した制度の在り方について、社会保障審議会年金部会で議論を深めていきます。
●公的年金制度の最近の動向
〇2020(令和2)年改正法と今後の課題
2019(令和元)年財政検証の結果や社会保障審議会年金部会での議論を踏まえ、被用者保険の適用拡大、受給開始時期の選択肢の拡大、在職老齢年金制度の見直し等を盛り込んだ「年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法律」(令和2年法律第40号。以下「2020年改正法」という。)が第201回通常国会において成立しました。
a)被用者保険の適用拡大
短時間労働者に対する被用者保険の適用について、2022(令和4)年10月に100人超 規模の企業まで適用範囲を拡大し、また、5人以上の個人事業所の適用業種に弁護士・税理士等の士業を追加しました。2024(令和6)年10月には、50人超規模の企業まで適用範囲 を拡大することとしています。 適用拡大には、これまで国民年金・国民健康保険に加入していた人が被用者保険の適用を受けることにより、基礎年金に加えて報酬比例の厚生年金が支給されることに加え、障害厚生年金には、障害等級3級や障害手当金も用意されているといった大きなメリットがあります。また、医療保険においても傷病手当金や出産手当金が支給されます。
b)働き方の多様化や高齢期の長期化・就労拡大に伴う年金制度の見直し
在職中の年金受給の在り方の見直しの一環として、就労を継続したことの効果を早期に年金額に反映して実感していただけるよう、65歳以上の在職中の老齢厚生年金受給者について、年金額を毎年10月に改定する在職定時改定制度を導入しました。 また、60~64歳に支給される特別支給の老齢厚生年金を対象とした在職老齢年金制度 (低在老)の支給停止の基準額を、28万円から65歳以上の在職老齢年金制度(高在老)と同じ47万円に引き上げました。年金の受給開始時期の選択肢については、60歳から70歳の間となっていたものを、60歳から75歳の間に拡大しました。
c)今後の課題
2020年改正法の検討規定や附帯決議には、今後の課題として、被用者保険の更なる適用拡大や、公的年金の所得再分配機能の強化、育児期間における国民年金保険料の免除等が盛り込まれた。 被用者保険の適用範囲については、本来、被用者である者には被用者保険を適用することが原則であり、被用者にふさわしい保障を短時間労働者の方々にも適用し、働き方や雇用の選択を歪めない制度を構築するため、まずは2024年10月に50人超の規模まで、という2020年改正法で定めた適用拡大を着実に進めることが必要である。このため、被用者保険の適用拡大に向けた制度の周知や企業への専門家派遣、中小企業事業主への助成等の施策の施策を通じて円滑な施行に向けた環境整備を引き続き行う。さらに、「全世代型社会保障構築を目指す改革の道筋(改革工程)について」(2023(令和5)年12月22日閣議決定)においては、「全世代型社会保障構築会議報告書」(2022年 12月16日全世代型社会保障構築会議決定)で早急に実現を図るべき等と指摘された、短時間労働者への被用者保険の適用に関する企業規模要件の撤廃や、常時5人以上を使用する個人事業所の非適用業種の解消について、2024年末の結論に向けて引き続き検討することとされている。また、2019年の財政検証結果では、経済成長と労働参加の進むケースでは引き続き、所得代替率50%以上を確保できることが確認された一方で、厚生年金の2階部分と比較して、基礎年金のマクロ経済スライドの調整期間が長期化し、基礎年金の給付水準が低下していくことが示されている。基礎年金は、所得の多寡にかかわらず一定の年金額を保障する所得再分配機能を有する給付であり、この機能を将来にわたって維持することは重要である。 これらの点を含め、次期制度改正に向けて、現役期、家族、高齢期といったライフコースと年金制度の関わりの切り口から社会保障審議会年金部会等において議論を行っており、2024年夏頃に予定されている財政検証を踏まえて、さらなる議論を進めていく。 加えて、「こども未来戦略」(2023年12月22日閣議決定)においては、自営業・フリーランス等の育児期間中の経済的な給付に相当する支援措置として、国民年金の第1号被保険者について育児期間に係る保険料免除措置を創設することとし、2026(令和8)年までの実施を目指すこととされている。
(出典)厚生労働省 令和6年版 厚生労働白書
〇2024(令和6)年度の年金額改定
年金額は、物価変動率や名目手取り賃金変動率に応じて、毎年度改定を行う仕組みとなっています。物価変動率が名目手取り賃金変動率を上回る場合は、支え手である現役世代の負担能力に応じた給付とする観点から、名目手取り賃金変動率を用いて改定することが法律で定められています。このため、2024年度の年金額は、名目手取り賃金変動率 (3.1%)を用いて改定します。 また、2024年度のマクロ経済スライドによる調整(▲0.4%)が行われいています。よって、2024年度の年金額の改定率は、2.7%となっています。
●年金生活者支援給付金について
年金を受給しながら生活をしている高齢者や障害者などの中で、年金を含めても所得が低い方々を支援するため、月額5,000円を基準とし、年金に上乗せして支給する「年金生活者支援給付金制度」が、2019(令和元)年10月より施行されました。年金生活者支援給付金は、消費税率を10%に引き上げた財源を基に支給されています(2024(令和6)年度の支給基準額は、月額5,310円)。
(つづく)Y.H