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基礎編・理論編

キャリアコンサルタントの行う相談過程6ステップ 2

投稿日:2024年11月17日 更新日:

前回に続き、キャリアコンサルタントが行う相談の6ステップについて、第四ステップ~第六ステップを説明します。

第一ステップ :「自己理解」の支援
第二ステップ :「仕事理解」の支援
第三ステップ :「啓発的経験」の支援
第四ステップ :「意思決定」の支援
第五ステップ :「方策実行」の支援
第六ステップ :「新たな仕事へ適応」の支援

我が国のキャリアコンサルティング技法の礎である、「キャリア・コンサルタント技法等に
関する調査研究報告書」(平成 13 年 厚生労働省)では、次の内容が示されている。
「個人のキャリア形成は、(1)自己理解、(2)仕事理解、(3)啓発的経験(意思決定を行う前
の体験)、(4)キャリア選択に係る意思決定、(5)方策の実行(意思決定したことの実行)、(6)
仕事への適応の6ステップから構成されており、キャリアコンサルティングは、これらステ
ップにおける個人の活動を援助するものである。」
(キャリア形成の6ステップ)
(1) 自己理解:進路や職業・職務、キャリア形成に関して「自分自身」を理解する。
(2) 仕事理解:進路や職業・職務、キャリア・ルートの種類と内容を理解する。
(3) 啓発的経験:選択や意思決定の前に、体験してみる。
(4) キャリア選択に係る意思決定:相談の過程を経て、(選択肢の中から)選択する。
(5) 方策の実行:仕事、就職、進学、キャリア・ルートの選択、能力開発の方向等、意思決
定したことを実行する。
(6) 仕事への適応:それまでの相談を評価し、新しい職務等への適応を行う

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つづいて、相談過程の第四ステップ「意思決定」の支援についてです。第四ステップには、キャリアプランの作成支援、具体的目標設定への支援、能力開発に関する支援と大きく3つの方法があります。
■キャリア・プランの作成支援
相談者の自己理解、仕事理解および啓発的経験をもとに、相談者自身とその家族などとの生活も踏まえて、どのような人生を送りたいのかを考え、長期のライフ・プランをつくり、それをもとに長期のキャリア・プランを作るための支援をすることが求められます。いわば、キャリア・プランニングの支援です。
ここでの「長期」とは、企業で働く若年者の場合には定年時としてもいいでしょう。中・高年者の場合には引退時、つまり働くことを止める時期になります。最終的にはどんな状態になっていたいのか、最終的にはどんな自分でいたいのか、いずれにしても、それぞれの人にとっての一生を考えてみれば、5年あるいは10年は長期とは言えないでしょう。いわば、自分自身のキャリア・ビジョンともいうべきものです。
ここで注意しなければならないことは、長期のプランは長期の見とおしではないという点です。将来のことは誰にも分かりません。逆に、将来のことがすべて分かってしまったら生きていけないかもしれません。長期プランというのは長期目標です。しかも、キャリア目標ですから、いくつかの選択肢があったほうがいいでしょう。なぜなら、目標が1つだけで他に選択の余地がない人生というのはかなり窮屈になるからです。しかも、その目標は将来変更することができます。
いわゆる「先が見えない不安」というのは、自分のゴール(ビジョン)を持っていないことから生じる不安であり、自分でゴールを決めればいいことです。しかも、そのゴールは、前述のように選択の余地があるものであり、かつ変更もありえるものであって、「べき論」ではありません。
■具体的な目標設定への支援
次に、キャリアコンサルタントは相談者の長期キャリアプランをもとに、中期・短期の目標や展望の設定を支援します。ここでいう中期とは5年から10年が妥当でしょう。長期プランを現時点に引き戻して、3年後の目標、5年後の目標、10年後の目標というように大まかなシナリオづくりのような作業になります。ここでも、長期と同様にいくつかの選択肢を用意します。いわば、中期のキャリア・パスを設計する作業ということができます。自分のキャリア・パスは他人から与えられるものではなく、 自分で用意するものだからです。
中期目標ができたら短期の目標設定になります。ここでの短期目標は、中期プランで設定した3年後の目標です。3年後になりたい自分を実現するのが短期目標となります。
■能力開発に関する支援
キャリアコンサルタントが行う第四ステップでの3つ目方法は、設定した目標を達成するための方策を考える支援となります。相談者の設定した短期目標(3年後の自分)を実現するためにやらなければならないこと、つまり短期目標を達成するために必要な自己学習や訓練(研修)などの能力開発に関するリストを作成することができるよう支援します。
ただし、キャリアコンサルタントはここでの能力開発はあまり厳密にとらえる必要はありません。必要とする技能や知識あるいはスキルなどは獲得しなければなりませんが、自分のクセを直すこと、生活習慣を変えること、あるいはメタボ対策を行うことなども、目指す自分を実現するために必要なことであるならば、方策として加えていいでしょう。
ここでの支援は、いわゆる行動計画を作るための支援ということになります。行動計画ですから具体的でなくてはなりません。しかしながら、3年、5年、10年というのはあくまでも一般的な目安であり、実際には相談者の状況に応じた対応が求められます。また、このような支援を行うために適切な情報を提供することも視野に入れておかなければなりません。そのためにも、キャリアコンサルタントはネットワークを持つ必要があります。

次に相談過程の第五ステップ、「方策の実行」の支援について説明します。
目標や計画ができたら、次は具体的に行動に移すための支援をします。また、実行の段階では進捗状況を把握して、きめ細かなフォローが必要になります。
■相談者に対する動機づけ
相談者が実行しようとする短期の目標および行動計画ができたら、それぞれについて相談者の考えと意思を確認し、自分で取り組みを開始できるよう支援します。
この場合の行動計画としては、進路・職業の選択、就職、転職、訓練(研修)の受講などの多岐にわたります。したがって、キャリアコンサルタントとしては、相談内容に応じて的確な対応ができるよう準備しなければなりません。
■方策の実行のマネジメント
相談者が行動計画を実行する際には、その進捗状況を把握しながら、相談者に対して現在の状況を理解させるとともに、今後の進め方や見直し等について、定期的に適切な助言をすることが求められます。その際、行動計画が順調に実行できるように励ましたり、場合によっては環境に働きかけたりといった支援も必要になります。
とくに、職業経験がない人の場合には、きめ細かなフオローアップと支援が求められます。

最後に第六ステップ、「新たな仕事へ適応」の支援について説明します。
このステップは、方策の実行後のフォローアップです。相談者の方策の1つとして職場が変わったような場合、あるいは新たに仕事に就いたという場合には、温かく見守ることが肝要です。
■方策実行後のフォローアップが相談者の成長の力ギ
相談者のキャリア開発・形成の支援をするうえで必要なら、恒常的なキャリア開発・形成への取り組みが実施されるような土壌づくり、環境づくりのために環境に対して働きかける必要もあります。
さらには、相談者の成長を支援するためには、方策の実行後におけるフォローアップが重要であることを十分に理解し、相談者の状況に応じて適切なフォローアップを行うことが重要です。
■適正な時期における相談の終了と相談過程の評価
キャリアコンサルタントの行う成果や目標の達成具合を勘案して、適切と判断できる時点において、相談は終了します。その際には、修了することを相談者に伝え、本人の納得・合意を得たうえで相談を終了します。なぜなら、相談は契約として始まったことだからです。
相談は相談者のための相談ですから、相談者自身が目標の達成度や能力の発揮度、獲得度あるいは行動計画の実施度について、相談者自身が自己評価できるように支援できなければなりません。
同時に、キャリアコンサルタント自身も相談支援の過程と結果について自己評価することができなければなりません。
(つづく)A.K

-基礎編・理論編

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