キャリアコンサルタントの相談実施における留意事項について説明します。
故木村周氏は著書『キャリアカウンセリング(改訂新版)』のなかで、キャリアガイダンスとキャリアカウンセリングについて、その他広く行われているガイダンスやカウンセリングと比較して、その特徴を述べています。
■キャリアコンサルタントの相談の特徴
①問題行動の除去や治療ではなく、個人のよりよい適応や成長、あるいは発達を援助することに重点を置く。
②進路の選択、職業選択、キャリアルートの決定などの具体的な目標達成を目指すことを援助する。
③特定の理論や手法にとらわれず、さまざまな理論や手法を使用する。
④6つのステップ(キャリアガイダンスの6分野)を基本とする。
⑤カウンセリングにおけるシステマティック・アプローチをモデルとし、キャリアコンサルティングのアプローチとしては折衷的である。
⑥力ウンセリング的なかかわり方を基本とするが、他にもコンサルテーション、関係者間の調整、教育も重視する。
⑦キャリアコンサルタントは、企業、学校、職業紹介機関、および職業能力開発機関において相談を行う。出典 木村周『キャリアカウンセリング(改訂新版)』
面接を効果的に行うためには、力ウンセリングの基本である積極的傾聴(アクティブ・リスニング)の理論を学び、そのうえで訓練を受け、スキルとして正しく習得しなければなりません。
■「聞く」と「聴く」の違い
キャリアコンサルタントが積極的傾聴とはどういうことかを理解するには、まず「聞くこと」 と「聴くこと」の違いを理解しなければなりません。簡単に言えば 「聞く」というのは単に聞こえているということであり、相手が言わんとすることに耳を傾けること。相手の話を理解しようとして耳を傾けるのが「聴く」ということです。したがって、聞くという行動は受動的であり、聞くときにはあまりエネルギーを使いませんが、聴くという行動は能動的であり、エネルギーを必要とします。
また、話には「事実(ことがら)」、「計画(欲求・希望・要望・願望)」、「感情(気持ち)」という3つの要素(話の3要素)があり、キャリアコンサルタントはその3つのうちのどれを自分のメッセージとして伝えようとするか認識する必要があります。それを正確に理解することが「聴く」 ということです。話し手の話がよく分からないときは、話し手がこの3要素を意識せずに話している場合、話し手のメッセージがこの3要素のうちのどれかが分からない場合、あるいはどの要素かがわかっても内容がわからないなど、さまざまな場合があります。この分からなさを確かめることは、聴き手の自己理解でもあります。
■ラポールの構築(関係構築)
相談場面では、来談者がキャリアコンサルタントを信頼して話す気にならなければ始まりません。そのため、まずは信頼関係を構築しなければなりません。その信頼関係をラポールといいます。相談はラポールの構築から始まります。そのためには、領いたり、あいづちを打ったりすることが効果的です。相手の話をきちんと聴いていなければ、うなずいたり、あいづちを打ったりすることができません。うなずいたり、あいづちを打つたりすることは、相手の話を聴いていることの証でもあります。
■パラフレージング
キャリアコンサルタントは、話し手が伝えようとしているメッセージが、話の3要素のうちのどれかを正確に理解するために、話の区切りで相手が言ったことを確認する必要があります。その際、相手が言ったことを一言一句そのまま繰り返すことをエコーイングといい、相手が言ったことを自分のことばに置き換えて返すことをパラフレージングといいます。
パラフレージングをすることにより、聴き手の理解が正しいかどうかを確認することができ、同時に話し手にとっては、自分が言ったことが相手に正しく伝わったかどうかを確認することができます。さらには、話し手にとっては自分の表現と違う表現で返してもらうことによって、新たな気づきにつながる可能性もあります。
■積極的傾聴の3つの条件
キャリアコンサルタントは、相手の言わんとしていることを正確に理解しようとするには、うなずき、あいづち、エコーイング、パラフレージングなどを的確に行えるようにならなければなりません。また、積極的傾聴ができるための条件が3つあります。それは、受容的態度、共感的理解、自己一致です。
①受容的態度
受容とは、相手の話を評価や解釈や判断を加えずに、ありのまま受け入れることです。たとえ、相手の話が間違っていようと、自分の考えと異なっていようと、あるいはまどろっこしい話だろうと、いったんそのまま受け取るということです。面談におけるクライエントとのやりとりはキャッチボールのようなものですが、その際に相手が投げてきたボールが曲がっていようが、まっすぐであろうが、右にそれていようが、左にそれていようが、あるいは高すぎても低すぎても、きちんと受け取るのが受容です。相手が投げてきたボールが、自分にとって受け取り難いボールなので受け取らないというのは普通の日常会話です。どんなボールでも受け取れるスキルが傾聴のスキルです。もちろん、受容はキャリアコンサルタント自身にもあてはまります。つまり、自分自身をありのまま受け入れることを自己受容といいますが、自己受容ができていなければ相手を受容することもできないからです。
②共感的理解
共感的理解とは、相手の話を自分の枠組みで理解するのではなく、相手の枠組みで理解することです。人間は誰でもその人なりの枠組み(Frame of Reference)を持っています。それは、その人の価値基準であったり、人生観であったり、キャリア観であったり、人間観であったり、経験であったり、さまざまです。それらは1人ひとり異なります。それが「その人らしさ」であり、多様性でもあります。話し手は、自分の枠組みで判断したこと、あるいは感じたことを話します。したがって、相手の気持ちや考えを正確に理解するというのは、相手の枠組みでその気持ちや考えを理解するということであり、それができなければ、キャリアコンサルタントは相手のことを正しく理解することはできません。
その際、パラフレージングは、相手の枠組みを確認するうえで、すなわち共感的に理解するうえで非常に効果を発揮します。しかし、そのためには受容が前提になります。相手の枠組みを受け入れることができなければ、共感的に理解することはできないからです。
③自己―致
自己一致とは、自分に対して誠実であることです。自己不一致の場合を考えみると理解しやすいので、自己不一致の例をあげてみます。
これは、誰かに同意を求められたときに、嫌な顔をしながら「いいですよ」と言っているような場合です。つまり、自分の気持ちと言動がー致していません。面接において、キャリアコンサルタントがこのように自分の気持ちに対して不誠実な言動をとってしまうと、来談者は混乱してしまいます。どちらのメッセージを受け取ればいいのかわからないからです。このように、表情や態度と言動がまったく逆のメッセージを送ることをニ重拘束(ダブル・バインド)といいます。
二重拘束は極端な例ですが、自己不一致はまったく逆のメッセージを送る場合のみとは限りません。本当に言いたいことを言っていないという場合も自己不一致です。自分自身の気持ちや感情を受容できていなければキャリアコンサルタントが自己一致していないことになり、来談者にとって的確なフィードバックにもなりません。したがって、来談者の自己理解を深めるうえでも効果的な面接にはならなくなってしまいます。
このように、受容、共感的理解、自己一致はそれぞれが独立したものではなく、関連しています。この3つが自分の中で統合されてはじめて、来談者中心となります。リスニング・トレーニング(傾聴訓練)のねらいはここにあります。
労働者等のキャリア形成における課題に応じたキャリアコンサルティング技法の開発に関する調査・研究事業 |厚生労働省
(つづく)平林良人