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労働環境整備の最終回です。労働環境とは、会社で働く従業員を取り巻く環境のことです。事業者には、従業員の健康や安全を守るため、労働環境を整える義務があります。「労働安全衛生法第3条の1」に、以下のように記されています。「快適な職場環境の実現と労働条件の改善を通じて、職場における労働者の安全と健康を確保するようにしなければならない。」労働環境の整備は、従業員の定着や生産性の向上など企業の利益アップにつながるため非常に重要です。
〇経済情勢を踏まえた労働行政等の対応
全ての労働者が安心して働くことができるように、労働基準法等で定める法定労働条件は確保されなければなりません。 このため、労働基準監督署では、各種情報から法定労働条件の遵守の状況に問題があると考えられる事業場に対して監督指導を実施し、労働基準関係法令を遵守するよう指導するとともに、企業倒産等に伴い賃金の支払を受けられないまま退職した労働者の救済を図るため、未払賃金立替払制度により迅速かつ適正な立替払を実施しています。 賃金不払が疑われる事業場に対して、迅速かつ的確に監督指導を実施するとともに、度重なる指導にもかかわらず法令違反を是正しないなど、重大・悪質な事案に対しては厳正に対処しています。 2022(令和4)年中に全国の労働基準監督署の指導により、賃金が支払われ、解決された件数は19,708件であり、対象労働者数は17万5,893人、支払われた賃金の合計額 は約79億5千万円となっています。 2019(平成31)年1月には、裁量労働制の不適正な運用が複数の事業場で認められた企業に対する指導の実施及び企業名の公表の仕組みを定め、裁量労働制の適正な運用を図っています。 また、解雇や雇止め、労働条件の引下げ等については、労働契約法や裁判例等に照らして、適切な取扱いが行われることが重要です。なお、経済上の理由により事業活動の縮小を余儀なくされた事業主に対しては、雇用調整助成金の活用等につて周知を行なっています。
〇若者の「使い捨て」が疑われる企業等への対応策
政府においては、若者の活躍推進の観点から、「『日本再興戦略』改訂2014」(2014(平成26)年6月24日閣議決定)等の中で、若者の「使い捨て」が疑われる企業等への対応策の充実強化を図ることとしている。政府においては、若者の活躍推進の観点から、「『日本再興戦略』改訂2014」(2014(平 成26)年6月24日閣議決定)等の中で、若者の「使い捨て」が疑われる企業等への対応策の充実強化を図ることとしている。 それを受け、厚生労働省では、若者の「使い捨て」が疑われる企業等への対応策の強化として、次のような取組みを行った①2023(令和5)年11月の「過重労
②常設のフリーダイヤル「労働条件相談ほっとライン」を設置(2014年9月)し、労働基準監督署が閉庁している平日夜間、土日・祝日に日本語を含む14カ国語(外国語は令和元年度開始)での相談対応を行うことにより、相談体制の充実を図った
③労働条件ポータルサイト「確かめよう 労働条件」の設置(2014年11月)や、大学・高等学校等でのセミナーの開催(2014年10月開始)により、労働基準法等の周知を行い、情報発信の強化を図った
④新卒応援ハローワーク、わかものハローワークに、職場における悩み等に関する相談に対応する「在職者相談窓口」を設置した。(出典)厚生労働省 令和6年版 厚生労働白書 ”
■最低賃金制度について
日本では労働者の生活の安定や労働力の質的向上、事業の公正な競争の確保に資するこ となどを目的として最低賃金制度を設けています。最低賃金制度は、国が法的強制力をもって賃金の最低額を定め、使用者はその金額以上の賃金を労働者に支払わなければならない こととするものです。 最低賃金には、各都道府県内の全ての使用者及び労働者に適用される地域別最低賃金 (適用労働者数約5,245万人、令和3年経済センサス-活動調査等により算出)と、特定の産業の使用者及び労働者に適用される特定最低賃金(2024(令和6)年4月1日現在、224件。適用労働者数約283万人)があります。 地域別最低賃金は、毎年公労使三者からなる中央最低賃金審議会が、厚生労働大臣の諮問を受け、その年の改定額の目安の答申を行っています。この目安を参考に都道府県労働局に設置された地方最低賃金審議会審議の上、その答申を受け、都道府県労働局長が改正決定を行っています。
2023(令和5)年度の地域別最低賃金は、全国加重平均で対前年度43円引上げの1,004 円となりました。また、特定 最低賃金の全国加重平均額は970円(2024年4月1日現在)となってます。このような最低賃金の引上げを受けて、中小企業・小規模事業者の生産性向上等のための支援を図っています。また、改定された最低賃金については、リーフレット等の配布に加え、インターネットや広報媒体を活用した周知広報などにより労使を始め広く国民に周知徹底を図っています。
■ハラスメント対策の推進
「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法 律」(昭和41年法律第132号)では、職場のパワーハラスメントの定義を、職場において行われる、
①優越的な関係を背景とした言動であって
②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより
③労働者の就業環境を害するもの
の全てを満たすものとするとともに、セクシュアルハラスメントや妊娠・出産等に関するハラスメント、育児休業等に関するハラスメントと同様に、全ての事業主に対して、パワーハラスメントを防止するための雇用管理上の措置を義務付けています。 厚生労働省では、都道府県労働局による事業主への助言・指導等を通じて法の履行確保を図るとともに、啓発用Webサイト「あかるい職場応援団」を活用し、社内研修用資料や啓発動画、裁判事例の掲載等、職場におけるハラスメントの防止・解決に向けた様々な情報を提供しています。さらに2019(令和元)年度からは12月を「職場のハラスメント撲滅月間」と定め、シンポジウムの開催など、集中的な広報を行っています。
さらに、近年増加している顧客等からの著しい迷惑行為(以下「カスタマーハラスメン ト」という。)や就職活動中やインターンシップ中の学生等に対するハラスメント(以下 「就活ハラスメント」という。)の防止を推進するため、カスタマーハラスメント対策企業 マニュアルを活用した企業向け研修動画の作成、また就活ハラスメント防止対策企業事例集や企業向け研修動画の作成を行い、その周知を図っています。
■労働者の健康を確保するための対策の充実
“●ストレスチェック制度の周知・啓発等
労働者の心理的な負担の程度を把握し、セルフケアや職場環境の改善につなげ、メンタルヘルス不調の未然防止の取組みを強化するため、2015(平成27)年よりストレスチェック制度が施行されている。 ストレスチェック制度の運用に当たっての重要な事項(具体的な実施方法、実施体制、不利益な取扱いの禁止等)については、「心理的な負担の程度を把握するための検査及び 面接指導の実施並びに面接指導結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針」等で示 しており、制度の周知などを進めている。さらに、ストレスチェック制度の適切な運用を図るため、実際に事業場においてストレスチェックの導入に携わる人事労務担当者や産業保健スタッフ向けに、より具体的な運用方法等を解説した「労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度実施マニュアル」を作成し周知するほか、独立行政法人労働者健康安全機構における「ストレスチェック制度サポートダイヤル」での相談対応、全国の産業保健総合支援センターにおける研修等を実施している。 このほか、「厚生労働省版ストレスチェック実施プログラム」を作成し、厚生労働省のWebサイトで無料配布するとともに、ストレスチェック制度の実施に係る事業場の工夫例等を周知している。これらの取組みを通じて、ストレスチェック制度の周知・啓発等を進めている。(出典)厚生労働省 令和6年版 厚生労働白書”
●その他メンタルヘルスたいさくの推進
2006(平成18)年に策定された「労働者の心の健康の保持増進のための指針」では、メンタルヘルスケアの基本的な実施方法を示し、この指針に即した取組みが行われるよう事業者に対し指導を行っています。取組方策が分からないなどの理由から取組みが遅れている事業場に対しては、全国の産業保健総合支援センターで事業者からの相談に応じるとともに、事業場を個別に訪問して助言を行うことなどにより、メンタルヘルス不調の未然防止から休業者の職場復帰に至るまでの総合的なメンタルヘルス対策導入についての支援を行っています。 また、働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト「こころの耳」において、事業者、産業保健スタッフ、働く方やその家族に対して、メンタルヘルスに関する最新情報や、事業場のメンタルヘルス対策の取組事例等やセルフケアの方法等の様々な情報を提供しているほか、働く方等からの電話・メール・SNSによる相談を受け付けています。
●過重労働による健康障害を防止するための面接指導等の推進
過重労働による健康障害防止対策については、「過重労働による健康障害防止のための総合対策」(2002(平成14)年2月策定、2020(令和2)年改正)により、事業者が講ずべき措置について指導等を行っています。その中で、労働者の健康管理に関する措置として、労働安全衛生法第66条の8及び第66条の9の規定等に基づき、長時間労働を行った労働者への医師による面接指導等及び面接指導の結果に基づく就業上の措置等の実施の徹底を図っています。
また、2019(平成31)年4月施行の改正労働安全衛生法関係法令により、事業者は、労働者の労働時間の状況を把握しなければならないこととされ、時間外・休日労働時間が80時間を超え、かつ、申出のあった労働者、労働基準法による時間外労働の上限規制が適用されない研究開発業務に従事する労働者又は高度プロフェッショナル制度が適用され、かつ、長時間労働を行った労働者に対して、面接指導を実施しなければならないこととされました。 これら改正法令等の内容を踏まえ、面接指導の実施等を始めとした過重労働による健康障害防止対策を推進しています。 その他、「『過労死等ゼロ』緊急対策」等に基づき、企業の本社(事業場)に対する、メンタルヘルス対策に係る指導を実施するなど、全社的なメンタルヘルス対策の取組みについて指導を行っています。
(つづく)Y.H