キャリアコンサルタントが知っていると有益な情報をお伝えします。
前回に続き、労働環境の整備についてお話しします。労働環境とは、会社で働く従業員を取り巻く環境のことです。事業者には、従業員の健康や安全を守るため、労働環境を整える義務があります。「労働安全衛生法第3条の1」に、以下のように記されています。「快適な職場環境の実現と労働条件の改善を通じて、職場における労働者の安全と健康を確保するようにしなければならない。」労働環境の整備は、従業員の定着や生産性の向上など企業の利益アップにつながるため非常に重要です。
■職業生涯を通じたキャリア形成支援の一層の推進
●キャリアコンサルティングの活用促進
〇キャリアコンサルティングの概要
キャリアコンサルティングとは「労働者の職業の選択、職業生活設計又は職業能力の開発及び向上に関する相談に応じ、助言及び指導を行うこと」をいい、ハローワークなどの需給調整機関や、企業、学校などの多くの現場で実施されています。 人生100年時代を迎え職業人生の長期化や働き方の多様化、雇用慣行の変化などにより雇用の選択機会が増す中で、これまで以上に働く者自らが職業生活設計を行うなど主体的なキャリア形成への意識に高まりが見られます。キャリア形成支援の重要性や社会からの期待が一層高まる中で、キャリアコンサルティングは、キャリア形成に関する労働市場のインフラとしての役割も担っています。
●キャリアコンサルティングの普及促進
キャリアコンサルティングを担うキャリアコンサルタントについては、2016(平成 28)年4月、職業選択や職業能力開発に関する相談・助言を行う専門家としてキャリアコンサルタント登録制度を法定化し、キャリアコンサルタントを登録制の名称独占資格として位置づけるとともに、守秘義務、信用失墜行為の禁止義務を課しました。また、5年ごとの更新に当たって必要な講習の受講を義務づけるなどにより資質の確保を図っています。 また、企業におけるキャリアコンサルティングの実施を推進するため、企業内で定期的にキャリアコンサルティングを受ける仕組みである「セルフ・キャリアドック」の普及促進や、グッドキャリア企業アワードの実施などを行っています。 このほか、キャリアコンサルティングの有用性を広め、キャリアコンサルタントの質量両面での充実を図るため、2008(平成20)年12月よりキャリアコンサルティング職種技能検定試験を実施しています。当該検定試験に合格したキャリアコンサルティング技能士 (1級・2級)は、その能力の水準がキャリアコンサルタントより上位の資格として位置づけられています
●ジョブ・カード制度の推進
2008(平成20)年度創設したジョブ・カード制度については、「新ジョブ・カード制度推進計画」を策定し、2015(平成27)年10月から、個人のキャリアアップや、多様な人材の円滑な就職等を促進するために、「生涯を通じたキャリア・プランニング」及び 「職業能力証明」の機能を担うツールとして、キャリアコンサルティング等の個人への相談支援のもと、求職活動、職業能力開発などの各場面において活用するよう、普及促進を行なっています。
2024(令和6)年4月より、キャリア形成・リスキリング推進事業を実施(キャリア形成・学び直し支援センター事業を拡充)し、各都道府県に「キャリア形成・リスキリング支援センター」を設置し、訓練受講希望者や、直ちに求職活動を行わないがキャリアについて相談したい人を含め、個人に対する相談支援を実施しています。
●職業能力評価制度の整備
〇技能検定の制度の適用
「技能検定制度」は、労働者の有する技能の程度を検定し、これを公証する国家検定制度であり、合格した者は、「技能士」と称することができます。職業能力開発促進法に基づき1959(昭和34)年から実施され、ものづくり労働者を始めとする労働者の技能習得意欲を増進させるとともに、労働者の社会的地位の向上に重要な役割を果たしています。 技能検定は、2024(令和6)年4月1日現在で、131職種について実施されておりおり、 2022(令和4)年度には全国で約87.0万人の受検申請があり、約36.0万人が合格し、検定制度開始からの累計で延べ約837万人が技能士となっています。 なお、若者が技能検定を受検しやすい環境を整備するため、ものづくり分野の技能検定の2級又は3級の実技試験を受検する25歳未満の在職者に対して、最大9,000円を支援する措置を実施しています。
〇団体等検定制度の創設
団体等検定制度は、事業主等が、その事業に関連する職種について雇用する労働者の有する職業能力の程度を評価するために行う検定であって、技能振興上奨励すべき一定の基準を満たすものを厚生労働大臣が認定する社内検定認定制度を推進してきたところです(2024(令和6)年4月1日時点で、46事業主等115職種が認定)。 また、令和6年3月より、当該事業主等が雇用する労働者以外の者も対象として行う検定であって、労働市場において通用力があり、企業内における処遇改善の目安になるものを厚生労働大臣が認定する団体等検定制度を創設しました。
〇職業能力評価基準
職業能力が適切に評価される社会基盤づくりとして、職業能力を客観的に評価する「職業能力評価基準」を「job tag(職業情報提供サイト(日本版O-NET))」に掲載するとともに、職業能力評価基準やポータブルスキル見える化ツールの活用に係る教材を作成 し、厚生労働省ホームページに掲載していています。
■国と地方自治体が連携した雇用対策の推進
憲法に定められた勤労権の保障のため、全国ネットワークを通じて、職業相談・職業紹 介、雇用保険制度の運営、雇用対策を一体的に実施し、セーフティネットとしての役割を果たす国と、地域の抱えるそれぞれの課題について、無料職業紹介事業(地方版ハローワーク)を含む各種の雇用対策を独自に実施する地方自治体が、それぞれの強みを活かし、相乗効果を発揮しながら一体となって雇用対策を行うことで、住民サービスの更なる強化を目指すことが重要である。 国と地方自治体との連携をより強固にするため、国と地方自治体による「雇用対策協 定」の締結が進んでいる。2023(令和5)年度には、新たに26市4町と締結し、2024 (令和6)年4月1日現在、298自治体となっている。またハローワークが行っている無料職業紹介と、地方自治体が行っている福祉に関する相談等を同運営施設においてワンス トップで実施する取組み(「一体的実施事業」)を進めている(2024年4月現在、34道府県153市区町)■生産性向上に資する人材育成の強化
人手不足の深刻化や技術革新の進展の中で、中小企業等が事業展開を図るためには、従 業員の育成等により労働生産性を高めていくことが必要となっている。このため、2017 (平成29)年度から、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構が運営する公共職業 能力開発施設内に「生産性向上人材育成支援センター」を設置し、中小企業等の人材育成 に関する相談支援から、課題に合わせた「人材育成プラン」の提案、職業訓練の実施まで を一貫して行っている。 また、2022(令和4)年度からは、生産性向上人材育成支援センター内に「中小企業 等DX人材育成支援コーナー」を設け、中小企業等からの「デジタル対応に係る人材育成 の悩み」等にかかる相談に対応するとともに、提供する職業訓練のうちDXに対応した訓 練を拡充する等により、中小企業等のDXに対応するための人材育成を総合的に推進している。
(出典)厚生労働省 令和6年版 厚生労働白書
◆良質な労働環境の確保等
■労働条件の確保改善
全ての労働者が適法な労働条件の下で安心して働くことができるよう、事業主等の法令遵守に対する意識をより一層高めていくことが必要であります このため、法定労働条件の履行確保を図るための監督指導等を行うとともに、申告・相談がなされた場合には、申告・相談者が置かれている状況に十分配慮し、その解決のため迅速かつ的確な対応を図っています。また、企業倒産、事業場閉鎖等の場合であっても、賃金不払等が発生しないようにするため、賃金・退職金の支払、社内預金の保全等についても早い段階から的確な対応を行っています。
“〇労働時間に関する法定基準等の遵守
労働基準監督署では、「時間外労働・休日労働に関する労使協定」(以下「36協定」と いう。)について、労働基準法等の法令及び「労働基準法第36条第1項の協定で定める労 働時間の延長及び休日の労働について留意すべき事項等に関する指針」に適合したものと なるよう、指導を行っている。 また、
①2016(平成28)年4月からは、
・月100時間超の残業を把握した全ての事業場等に対する監督指導の徹底(2015(平成27)年1月から実施)について、月80時間超の残業を把握した全ての事業場等に対象を拡大
・東京労働局及び大阪労働局に設置していた複数の労働局にまたがる過重労働に係る事 案等に対応する特別チーム(通称「かとく」、2015(平成27)年4月に設置)に加 え、全ての労働局に長時間労働に関する監督指導等を専門とする担当官を新たに任命するとともに、厚生労働省本省に過重労働に関する広域捜査の指導調整を行う対策班(2017(平成29)年4月からは「過重労働特別対策室」)を設置②2016(平成28)年12月に決定された「『過労死等ゼロ』緊急対策」に基づき、2017 (平成29)年1月から、
・使用者向けの新たな「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する ガイドライン」による労働時間の適正把握の徹底
・長時間労働等に係る企業本社に対する指導
・企業名公表制度(違法な長時間労働が複数の事業場で行われた企業について、その事 実を広く社会に情報提供することにより、他の企業における遵法意識を啓発する等の観点から、都道府県労働局長が企業の経営トップに対し指導し、その企業名を公表する制度)の強化③2018(平成30)年4月から、全ての労働基準監督署において、「労働時間改善指導・ 援助チーム」を編成し、
・長時間労働の是正及び過重労働による健康障害の防止を重点とした監督指導
・「労働時間相談・支援コーナー」を設置し、法令に関する知識や労務管理体制が必ずしも十分でないと考えられる中小規模の事業場に対して、法制度の周知を中心とした きめ細やかな支援などの取組みを順次実施している。 さらに、賃金不払残業の解消を図るためには、各企業において労働時間を適正に把握する必要があることから、ガイドラインを幅広く周知・徹底するとともに的確な監督指導等を実施している。
(出典)厚生労働省 令和6年版 厚生労働白書
(つづく)Y.H