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前回に続き、ドイツの労働施策についてお話しします。日本とドイツは基本的価値を共有し、G7等において国際問題に対し強調して取り組むパートナーです。また、ドイツは日本にとって欧州最大の貿易相手国であり、21世紀に入って日独関係はますます重要なものとなっています。政治経済面での協力はもちろん、文化・学術分野でも市民レベルでの活動が活発に行なわれています。
■労働安全衛生制度
労働安全衛生に関しては、立法とその施行状況の監督が国の責務と定められています。監督業務は、①各州政府の労働保護官署、②全国ドイツ労災保険組合と傘下の同業者組合、による二重構造で運営されています。
●州政府による労働安全衛生の推進
労働安全衛生分野の体系的法律として、1996年に「労働安全衛生改善のための労働保護措置に関する法律(労働保護法)」が制定されました。各州の事業所監督を担う営業監督官は、一般企業だけでなく行政機関等にも立ち入り、営業上の書類の閲覧検査や、作業状況および健康への危険因子の調査を行い、改善を命ずることができます。
●労災保険組合による労働安全衛生の推進
労災保険の保険者は、業種別及び地域別に組織された同業者組合(労災保険組合)や災害金庫等です。労災保険組合は、保険料の徴収、労働災害および職業病に対する治療やリハビリテーションの提供、補償の給付等を行います。労働安全衛生分野では、労働災害や職業病の予防のための団体規則の制定や監督、過料の徴収など、予防的な活動を自律的に行っています。なお労災保険組合は、国の監督当局である連邦社会保険庁と連邦労働・社会省の監督下にあり、当局は労災保険組合が法を遵守し責任を果たしているかを監督しています。
■ 労災保険制度
●概要
労働者の労働災害及び職業病のほか、農業従事者等の一部の自営業者、幼稚園や学校に通う子供、学生、ボランティアなど幅広い対象者について、その活動中の事故等が補償されます。労災保険全体の2021年の被保険者数は約6,310万人(前年6,420万人)で、そのうち子供や学生が約1,772万人(前年1,768万人)でした。2021年の労働災害件数は前年より増加しましたが(2021年:約97万7千件、2020年:約91万3千件)、前年から続く新型コロナウイルス感染拡大の影響により、引き続きコロナ前の水準を大幅に下回りました。労働者1,000人当たりの労災発生件数は19.78件で、こちらも前年(18.45件)より増加しました。
●制度対象者の例外
自営業者は原則として適用対象外ですが、自営農業者、沿岸漁業の漁師、保健・福祉分野の自営業者は例外として適用されます。また適用対象外である他の自営業者も、たいていの場合は、自らの業種を管轄する同業者保険組合で任意加入することができます。
●保険事故
保険事故には、労働災害と職業病が含まれます。
〇労働災害
労働災害とは、保険の対象となっている業務(被保険業務)を遂行中に被保険者が受けた災害を指します。なお、被保険業務を遂行するための場所の移動も被保険業務に含まれ、被保険業務と直接関連のない場所の移動(例えば、被保険者の業務遂行のために、子供の保育を場所の移動を必要とする他人に依頼する場合など)についても被保険業務に含まれます。
〇職業病
職業病とは、被保険者が被保険業務を原因として罹患した疾患を指します。
●申告の義務
被保険者が死亡した場合、又は負傷により3日を超えて就労不能になった場合には、事業主は、これらの事故等を認識してから3日以内に同業者組合に報告しなければならないことになっています。
■解雇規制
「民法典」において、解雇予告期間について定めているほか、「解雇保護法」において、一般的な解雇規制を規定しています。
●民法典での解雇予告期間
雇用関係の解消には、原則として、暦月の15日又は月末を期日とする4週間の予告期間が必要となります。使用者側からの解雇の場合には、以下の通り、勤続年数に応じた解雇予告期間が設定されていますが、解雇予告期間の終了まで雇用関係を継続できない重大な理由がある場合には、労使双方からの即時の関係解消が可能です。
●解雇保護法
〇一般的解雇保護(allgemeiner Kündigungsschutz)
・社会的正当性のない解雇
同一の事業所で6か月を超えて就労している労働者の場合、雇用関係の解消には、社会的に正当性のある理由が必要となる。社会的に正当性があると認められるのは、労働者本人に起因する理由がある場合や、経営上の差し迫った事情により雇用の継続が困難である場合で、これらに該当しない理由は社会的正当性がないとみなされ、雇用関係の解消は法的に無効となる。なお、上記を含む一般的解雇保護は、労働者10人以下の事業所には適用されない。
・事業所委員会への異議申出
ドイツ企業の従業員は選挙で選ばれた事業所委員会の代表を通して意思表明する権利を与えられている。労働者が解雇に社会的正当性がないと判断する場合、労働者は、解雇予告から1週間以内に当該事業所に設置された事業所委員会に異議申出を行うことができる。事業所委員会が当該異議申出の正当性を認めた場合、事業所委員会は、労働者と事業主が話し合いで解決に至るよう努力しなければならない。また、当該異議申出に関する委員会の判断に対して、労働者及び事業主側から要求があった場合は、事業所委員会はこれを書面にて開示しなければならない。
・労働裁判所への訴え
労働者が、解雇に社会的正当性がないこと、又は法的に無効であることを訴えたい場合は、書面による解雇予告を受理してから3週間以内に、労働裁判所に対して雇用関係存続の確認訴訟を起こさなければならない。
・労働裁判所の判決による雇用関係の解消
労働裁判所が当該解雇によって雇用関係は解消されないとの判断を下したにもかかわらず雇用の継続が期待できない場合、労働裁判所は、労働者側の申請を受けて雇用関係を解消し、使用者側に相応の補償金の支払いを命じる。また、事業目的に資する労使間の協力関係が期待できない場合、労働裁判所は、使用者側の申請を受けて同様の決定を労働者側に下す。なお労働者及び使用者は、雇用関係解消のための申請を、控訴審の最終口頭弁論終結時まで行うことができる。補償金は、当該労働者の月給12か月分を上限とする。ただし、当該労働者が①50歳以上で勤続15年以上の場合は月給15か月分、②55歳以上で勤続20年以上の場合は月給18か月分を上限とする。
〇届出義務のある解雇(anzeigepflichtige Entlassungen)
・雇用機関への届出
使用者が以下の解雇を30日以内に行う場合は、雇用機関に対して、事前に解雇の届出を行わなければならない。なお、解雇の届出から2か月の間は、雇用機関が解雇の無効を決定することができる。②21名以上59名以下の労働者を雇用する事業所において、6名以上を解雇する場合②60名以上499名以下の労働者を雇用する事業所において、常時雇用する労働者の10%もしくは26名以上を解雇する場合③500名以上の労働者を雇用する事業所において、30名以上を解雇する場合
・事業所委員会への情報提供
上記aの解雇を計画している使用者は、事業所委員会に対し、以下の項目について書面での情報提供を行う必要がある。また使用者と事業所委員会は、解雇の回避や影響の緩和について協議しなければならない。①解雇を行う理由、②解雇される労働者の数と職種、③常時雇用される労働者の数と職種、④解雇を行う時期、⑤解雇の人選基準、⑥退職一時金がある場合の算定基準
(出典)厚生労働省 2022年 海外情勢報告
(つづく)Y.H