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実践編・応用編

  ドイツの労働施策 4

投稿日:2024年10月8日 更新日:

キャリアコンサルタントが知っていると有益な情報をお伝えします。

前回に続き、ドイツの労働施策についてお話しします。日本とドイツは基本的価値を共有し、G7等において国際問題に対し強調して取り組むパートナーです。また、ドイツは日本にとって欧州最大の貿易相手国であり、21世紀に入って日独関係はますます重要なものとなっています。政治経済面での協力はもちろん、文化・学術分野でも市民レベルでの活動が活発に行なわれています。

■外国人労働者対策
●外国人労働者受入制度の概要
EU/EEA加盟国およびスイス以外からの外国人が90日を超えてドイツに滞在する場合、「滞在法」に基づく滞在許可が必要です。就労目的の滞在の場合、長期滞在許可(滞在期間の定めあり)を取得する必要があり、長期滞在許可の取得から5年が経過し一定の条件を満たすと定住許可(滞在期間の定めなし)を取得できます。滞在許可の取得には、原則として、連邦雇用機関が優先権審査および比較性審査を行い、その就労に同意する必要があります(ただし一定の条件を満たす専門人材に対しては、優先権審査は実施されません。)。許可証の交付は、各州の外国人局(ドイツ連邦内務省の下部機関)が担当しています。2022年3月の外国人労働者数(社会保険加入義務のある被用者で、ドイツ国籍以外の者)は、約482万9千人(対前年同月比で約40万7千人増)です。

ドイツでは近年、失業率が低い状態が続いている一方、熟練労働者不足が深刻化しています。少子高齢化も急速に進展する中、高度な技術を持った人材の確保は、技術系や建設および医療・介護関連など多くの職種で大きな課題となってきています。こうした状況を受けて政府は、国外の高度な専門人材の受入れ促進を目的とした「国外資格の認定に関する法律」や「EUブルーカード法」を制定しました(両法とも2012年に施行)。外国人労働者、中でもEU域外で専門技術を習得した熟練労働者の資格認定を簡素化するとともに、EU域外からの大卒以上の高度人材に対する様々な受入れ措置が緩和されました。その後もグローバル化やデジタル化の進展に伴い、ますます需要が高まる熟練労働者の受入れをさらに強化するため、2019年には「専門人材移民法」が成立し、2020年3月より施行されています。同法は、大卒者などの高学歴者を対象としたブルーカードの優遇措置を、職業訓練を受けた技能労働者にも適用拡大する内容で、より幅広い人材の確保を目指したものとなっています。

●受入分野
〇大卒者または同等の高度技能人材
2012年に施行された「EUブルーカード法」は、2009年に成立した「EU域外出身者の高資格雇用目的の入国・滞在条件に関する理事会指令(指令2009/50/EC)」の国内法整備に該当し、大卒以上の高度人材の受入れ促進のため、ビザ発給や在留許可を優遇する制度である。大学卒業資格に加え、年収要件(毎年変更)も設けられており、2022年は年収56,400ユーロ以上の雇用契約を有していれば取得が可能である。特に専門人材が不足している分野(自然科学、数学、技術職、医師、IT専門家)に関しては、年収要件が低く設定されており、年収43,992ユーロ以上(2022年)で取得が可能である。ブルーカードによる就労にあたって、連邦雇用機関の同意は必要とされず、優先権審査や比較性審査は実施されない。EUブルーカードの有効期間は最大4年。雇用契約期間が4年に満たない場合は、契約期間に3か月を加えた期間がブルーカードの有効期間となる。雇用期間が33か月継続するなど一定の条件を満たすと、無期限滞在許可の申請が可能であるが、十分なドイツ語能力を有する場合は、ブルーカード取得から21か月後に無期限滞在許可を取得できる。

〇職業訓練修了資格を持つ技能労働者
EU/EEA加盟国およびスイス以外の国々(第三国)からの専門人材の受入れを促進するため、2019年に「専門人材移民法」が成立し、2020年3月より施行されている。前述のEUブルーカードが大卒以上の高度人材を対象としているのに対し、同法は対象を「職業訓練修了資格を持つ者」にも適用拡大するもので、より幅広い人材確保を目指す内容となっている。同法の対象となる専門人材とは、第三国出身の「大卒者」と「職業訓練修了者」を指す。認定された技能や資格があり、ドイツにおける雇用契約がある場合は、優先権審査は実施されない。ただし、外国人労働者への適正な労働条件を確保するため、比較性審査については引き続き実施される。なお、職業訓練に参加する場合は引き続き優先権審査も実施される。また同法により、職業資格(職業訓練修了資格)を持つ技能労働者であれば、連邦雇用機関が人材不足と判断した職種に限定せず、あらゆる職種での就労が可能となった。さらに、大卒者と同様、職業資格を持つ技能労働者に対しても、求職活動のための最長6か月のドイツ滞在が認められることとなった(ただし、一定のドイツ語能力があることと生活費を負担できることが条件)。

〇難民等
国際法上又は人道上の理由、あるいは政治的理由に基づいて発給された滞在許可がある場合は就労が認められている。ドイツにおける滞在許可が出る見込みの高い者は、600ユニット(1ユニットは45分)のドイツ語講座と100ユニットのオリエンテーション(生活習慣や法律等に関する講習)からなる統合講座の受講が可能である。ドイツ語講座は欧州言語共通参照枠(CEFR)のB1レベルを目指して実施され、所定の講座数を受けてもこのレベルが達成できない場合は、追加の受講も可能である。2022年4月時点で39万2千人の難民が就労し、そのうちの33万8千人が社会保険加入義務のある仕事に就いている。なお2022年2月のロシアのウクライナ侵略以降、ウクライナからの避難民が急増し、ドイツでも10月初旬時点で100万人超のウクライナ人が戦争難民として登録された。連邦政府はこうしたウクライナ避難民に対する経済支援について、ドイツ在留を許可された難民と同程度とすることを決定し、6月以降は失業給付Ⅱの受給者と同等の処遇を保障している。これにより6月以降、就労可能なウクライナ避難民に対してはジョブセンターが求職活動をサポートし、ドイツ労働市場への統合を支援している。2023年1月時点で、ウクライナ人で就労可能者(Gemeldete erwerbsfaehige Personen)は47万人(2022年2月以降で見ると45万人),登録失業者は18万8千人(同18万人)となっている。(出典)厚生労働省 2022年 海外情勢報告

  • 職業資格の認定
    2012年に施行された「国外資格の認定に関する法律」により、ドイツ国外で取得した学位や職業資格についての認定方法が定められました。認定対象は600職種以上で、その中には「職業訓練法」に基づく国家公認訓練職種も含まれています。これらの職業では、外国の職業資格とドイツ国内の職業資格との同等性を評価するための「同等性評価試験」が行われ、国外資格の内容や訓練期間、職業経験などが審査されます。なお、一部の職種(教師や保育士、エンジニアなど)については州法で規定されており、資格認定も州法に基づいて行われます。2013年には、「欧州資格枠組み」にならい「ドイツ資格枠組み」が導入されました。これにより、取得した資格は8つのレベルに分類されるとともに、資格証明書により証明された資格は欧州各国で承認可能となっています。

■雇用における平等の確保
ドイツでは、EUの「一般雇用均等指令」等の発令を受け、「一般均等待遇法」が2006年8月に施行されました。これにより、雇用や職業訓練等において、人種や民族的背景、宗教や信条、性別、障害、年齢、性的アイデンティティを理由とする差別は原則的に禁止されています。差別があった場合には、連邦非差別局への相談等が可能であり、差別を行った事業主には損害賠償義務が課せられます。職場の意思決定に関与する上層部の男女平等参画を推進するため、「指導的地位における男女平等参加のための法律」(通称「女性クオータ法」)が2016年1月に施行され、一定の上場企業(従業員2,000人超)では、新たに選任される監査役のうち女性を30%以上とすることが義務づけられました。この法律により、監査役会においては女性比率の改善が見られましたが、執行役会における女性役員比率は低水準のままでした。これを受け、女性役員登用のさらなる促進を図るべく、2021年8月に女性クオータ法の改正法が施行されました。監査役会だけでなく執行役会についても女性比率が規定され、上記の上場企業において、執行役員が3名超の場合に少なくとも1名は女性とすること等が義務づけられました。

(つづく)Y.H

(出典)厚生労働省 2022年 海外情勢報告

 

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