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実践編・応用編

 ドイツの労働施策について

投稿日:2024年10月1日 更新日:

キャリアコンサルタントが知っていると有益な情報をお伝えします。

日本とドイツは基本的価値を共有し、G7等において国際問題に対し強調して取り組むパートナーです。また、ドイツは日本にとって欧州最大の貿易相手国であり、21世紀に入って日独関係はますます重要なものとなっています。政治経済面での協力はもちろん、文化・学術分野でも市民レベルでの活動が活発に行なわれています。今回は、ドイツの労働施策についてお話しします。

◆雇用・失業対策
■雇用・失業情勢
雇用・失業情勢は、安定した経済成長の下で改善を続けていましたが、2019年末からの景気減速の影響と新型コロナウイルスの感染封じ込め措置により、2020年の労働市場は大きな影響を受け、年平均の登録失業者数は前年比で42万8千人増と大幅に増加しましたた。2021年以降は、コロナ対策の影響を受けつつも雇用情勢が改善し、2022年にはロシアのウクライナ侵略により国内外の経済情勢が不安定化する中でも、労働市場は引き続き堅調に推移しました。ただし6月以降、クライナ避難民があらたに失業者登録の対象となったことで、第2四半期以降の登録失業者数は増加しました。

■実施機関
ドイツ連邦労働・社会省が施策を立案しています。求職者への職業紹介や失業保険制度の運営等の雇用・失業対策は、連邦雇用機関が実施しています。 連邦雇用機関は、自治機能を有した連邦直属の公法上の団体で、州レベルでは10の地域総局、地方レベルでは155の雇用機関(公共職業安定所に相当)と約600 の支所を運営しており、さらに地方自治体と共同で301のジョブセンターを設置しています。

■雇用維持・促進施策
相談及び紹介
雇用機関において、失業者や求職者に対して職業相談、職業紹介、求人・職業訓練に関する情報提供などの包括的な就労支援サービスが、事業主に対しては求人充足等に係る相談など雇用に関する助言等のサービスが行われています。雇用機関が行うこれらの相談や紹介は、無料です。なお、求職者は任意で民間職業紹介を利用することもできます。
民間職業紹介事業者は、営業の届出が必要であり、社会保険加入義務のある仕事を紹介できた場合のみ成功報酬を要求できます。失業者や求職者に対する職業相談においては、職業および個人の特性を確認したのち、雇用機関と求職者の間で、今後の取組内容や計画等を記載した統合協定が結ばれ、これをもとに就労支援が行われます。また、連邦雇用機関では求職者と求人を行う事業主に対して、オンラインでのマッチングサービスを提供するポータルサイトを開設しており、求職者は直接求人情報を検索できるほか、応募プロフィールを匿名で公開することもできます。

●積極的職業統合支援(Aktivierung und berufliche Eingliederung)
失業者、失業の恐れがある求職者、および職業養成訓練希望者を対象に、雇用機関は以下のような支援制度を運営している。
〇求職活動支援制度(Vermittlungsbudget)
社会保険加入義務のある仕事に就くための求職活動に対して、その諸経費を助成するための支援金が支給される。具体的には、面接時等の交通費や転居費、応募に係る諸経費などが支給されるが、詳細な基準は設定されておらず、対象者個人の需要や状況に応じて雇用機関が個別に決定する。支給に際しては、所轄の雇用機関担当者が支援の必要性を認めることが条件となる。
〇積極的職業統合支援制度(Maßnahmen zur Aktivierung und beruflichen Eingliederung)
雇用機関および雇用機関の委託を受けた業者や事業主が提供する各種職業統合支援サービスを受けた場合に助成を受けられる。支援サービスは、①訓練の勧奨又は就職および起業へのサポート、②採用に不利となる事由の改善、③社会保険加入義務のある雇用の紹介、④就労安定化の支援等からなり、対象者のサービス利用費用や旅費などが助成される。支援サービスの実施に関しては、雇用機関が業者等に直接委託する場合と、対象者に「積極的職業紹介クーポン(Aktivierungs- und Vermittlungsgutschein)」を支給する場合とがある。どちらの方法を選択するかは、対象者の適性や当該地域の支援実施状況を考慮して雇用機関が決定する。後者の場合、雇用機関が発行するクーポンには支援の目的や内容が示されており、クーポン所有者は、認定された業者の中から自ら業者を選択し、当該業者での支援サービスを無料で利用することができる。なお、社会保険加入義務のある職業紹介に成功した場合、原則として2,500ユーロ、長期失業者や障害者の場合は最大3,000ユーロの報酬が雇用機関から当該業者に支払われる(雇用契約成立から数えて6週間後に1,250ユーロ、6か月後に残りの額が支払われる)。
〇給付実績
2021年における求職活動支援制度の対象者は約36万7千人、積極的職業統合支援制度の対象者は約101万2千人である。
(出典)厚生労働省 2022年 海外情勢報告 

●就労開始に関する支援
〇統合助成金
長期失業や障害、能力低下、高齢等により、通常の業務に制約のある労働者が採用された場合、その使用者に対して統合助成金が支給されます。支給期間と支給額は、雇用機関が個別に決定します。支給額は、対象となる賃金の最大50%まで、支給期間は最大12か月です。ただし50歳以上の労働者については、2023年末までに支給を開始する場合、最大36か月まで支給可能です。また障害者の場合は、対象となる賃金の最大70%まで、支給期間は最大24か月(重度障害の場合は最大60か月、さらに55歳以上の場合は最大96か月)ですが、12か月経過後(重度障害の場合は24ヶ月経過後)、支給額は毎年10パーセントポイントずつ減少します(ただし対象となる賃金の30%は下回りません)。
〇起業助成金
失業していた労働者が自営的就労を開始する場合、起業助成金が支給されます。ただし、①自営業を行う知識や能力があり、専門機関による審査を経て雇用機関から適切と判断されること、②失業給付を受給しており、就労開始の時点で給付期間が最低150日残っていること、が条件となってます。助成金は、2段階で支給されます。最初の6か月は、直近の失業保険給付額に月額4,800円を上乗せした額が支給されます。営業活動の進捗が順調と審査された場合は、さらに9か月間、上乗せ分の月額4,800円のみ支給されます。
〇給付実績
2021年における統合助成金の受給者数は約9万6千人、起業助成金の受給者数は約2万人です。

●雇用の維持に関する支援
〇操業短縮手当
企業が経済的な理由などにより、一時的に操業短縮を行う場合、一定の前提条件を満たす労働者に対し、雇用機関から操業短縮手当が支給されます。この手当の主要目的は、一時的な労働停止の際、労働者の雇用の継続を可能にして解雇を避けることです。主な財源は失業保険(労使折半)だが、それでもなお財源が不足する場合には一般財源(税金)が投入されます。法律上の支給期間は最長12か月ですが、連邦労働・社会省の省令によって、24か月まで延長することが可能です。支給額については、全額補填ではなく、労働停止に伴う手取り賃金減少分の60%(子がいる場合は67%)が支給されます。
〇季節的操業短縮手当
建設業等の分野では、冬季(12月から翌年3月)は、労働停止が多くなります。季節的操業短縮手当は、これらの労働停止により失われる賃金を補償するものです。支給額については、操業短縮手当に準じてます。
〇移行給付金
移行給付金は、企業経営の変更等による人員調整措置の際、対象となる労働者が、できる限り失業給付を受給せずに次の雇用へ移行するための支援金です。移行給付金には、次の2つが含まれます。

●移行措置助成金
人員整理の対象となる労働者に対して、その解雇予告期間中、再就職支援相談や就職支援セミナー、短期職業訓練等の移行措置を事業主が提供する場合に助成金が支払われます。支給額は移行措置費用の50%で、支援を受ける労働者1人につき40,000円を上限としています。
●移行操業短縮手当
人員整理の結果として労働時間が減少した場合、賃金減少分を補償するための助成金が支給されます。解雇の防止と、新たな雇用に向けた支援がその目的です。支給額は操業短縮手当に準じ、支給期間は最長12か月です。
●破産手当
事業主の破産手続き開始等の場合、その前の3か月の雇用関係において賃金請求権を有する労働者には、未払い賃金に対して破産手当が支給されます。支給額は、当該労働者の手取り賃金相当額で、事業主が支払う割当金を財源としています。2021年の受給者数は約4万7千人。

●ミニジョブ(Mini-Jobs)/ミディジョブ(Midi-Jobs)
雇用機会の拡大を目的として、所得税と社会保険料の労働者負担分を免除するミニジョブ(僅少労働(geringfügige Beschäftigung))という就労形態が認められている。ミニジョブには、①賃金平均月額が450ユーロ以下(2022年10月1日以降は520ユーロ以下)の低賃金労働、②年間の労働日数が3か月以下もしくは合計で70日以下の短期間労働、の2形態が含まれる。①・②ともに、最低賃金や休暇など通常の労働者と同様の権利が認められており、また労災保険も適用される。年金保険に関しては、①は原則適用対象となるため、一定の年金保険料の支払いが発生する(②は適用外)。その他の社会保険(医療、介護、失業)は①・②ともに適用外であり、保険料支払いも免除となる。

なお、事業主は一定の社会保険料や税金等を一括して支払う(額については、ミニジョブの形態等によって異なる)。ミニジョブの従事者数(2022年9月)は、約676万2千人。また、賃金平均月額が450.01ユーロ以上、1,300ユーロ以下(2022年10月1日以降は520.01ユーロ以上、1,600ユーロ以下、2023年1月1日以降は520.01ユーロ以上2,000ユーロ以下)の雇用はミディジョブと呼ばれ、社会保険が適用される。ただし、労働者負担分の保険料については、所得に応じた減額措置がある(事業主は通常の保険料を負担する)。年金保険料については、保険料が減額されても満額支払ったとみなして年金額が計算される。なお、2022年10月以降の法定最低賃金の引き上げに伴い、ミニジョブ・ミディジョブの賃金平均月額上限も上記の通りそれぞれ引き上げられた。
(出典)厚生労働省 2022年 海外情勢報告 

(つづく)Y.H

-実践編・応用編

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