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前回に続き、ドイツの社会保障施策の2回目です。日本とドイツは基本的価値を共有し、G7等において国際問題に対し強調して取り組むパートナーです。また、ドイツは日本にとって欧州最大の貿易相手国であり、21世紀に入って日独関係はますます重要なものとなっています。政治経済面での協力はもちろん、文化・学術分野でも市民レベルでの活動が活発に行なわれています。
◆社会福祉施策
■全般
社会福祉施策は、補完性の原則に基づき制度設計されています。具体的には、民間サービスの独立性とその公的サービスに対する優先性が連邦基本法で定められており、社会保障については、まず社会保険で国民のリスクに対応し、それでも対応できない場合に初めて社会福祉の対象とするという構造になっています。また、公的部門の役割分担についても、まず基礎的自治体(日本の市町村に相当)が一義的な権限と責任を有することとされています。
■こども家庭施策
連邦家族・高齢者・女性・青少年省が所管しており、各州及び市単位で実施されています。
- 母性手当
公的医療保険に被保険者本人として義務加入又は任意加入し、かつ、傷病手当金の請求権を持つ女性は、保護期間(就労禁止期間;原則として出産前6週間、出産後8週間)にわたり、1日につき保護期間の開始前3か月間(週給の場合、13週間)の平均手取り日額を受給することができます。
●児童手当(Kindergeld)・児童控除(Kinderfreibetrag)・児童加算(Kinderzuschlag)
子どものいる家庭といない家庭間の負担調整を行うために、子どものいる家庭は児童手当(原則として給与に対する所得税の源泉徴収額から税額控除される方法で支給)又は児童控除を受けることができる。児童手当は、原則として所得の多寡にかかわらず、18歳未満(教育期間中の子どもについては25歳未満、失業中の子どもについては21歳未満、25歳到達前に障害を負ったことにより就労困難になった子どもについては無期限)のすべての子どもを対象に支払われる。2022年までは何子目かによって支給額に差を設けていたものの、2023年1月以降、全ての子どもについて月額250ユーロとされている。児童控除は、児童1人当たり年額2,810ユーロ(夫婦で子どもを養育する場合、それぞれが控除の対象となるため控除額は5,620ユーロ)の「児童扶養控除」と、年額1,464ユーロ(夫婦の場合2,928ユーロ)の「養育教育控除」となっている(したがって、夫婦合計で8,388ユーロ)(2022年現在)。このほか、養育にかかった費用については、2012年以降は親子の置かれた境遇に関わらず、課税対象から除外された。児童加算は、低所得の親に対して児童手当に加算して支給される給付である。受給要件は、
①当該子どもが児童手当の支給対象であり、
②両親の所得が900ユーロ(ひとり親の場合600ユーロ)以上であり、
③この給付を受けることで失業給付Ⅱや社会扶助の受給が不要になること、
である。給付額は児童1人につき250ユーロが上限となっている(2021年現在)。
(出典)厚生労働省 2022年 海外情勢報告
- 保育所整備
従来より女性の就業率が高い旧東独地域に比して、旧西独地域の方が保育所の整備が遅れているのが特徴です。3歳未満の児童に係る保育所の利用率は、2022年3月1日現在、全独で35.5%(2021年3月1日現在34.4%)、旧西独地域で31.8%、旧東独地域で53.3%であり、3歳以上6歳未満の児童に係る保育所の利用率は、2022年3月1日現在、全独で91.7%(同91.9%)、旧西独地域で91.2%、旧東独地域で93.9%です。 - 育児期間中の社会保険
年金計算上の評価措置として、児童養育期間が認められており、子どもを養育している者(両親の一方のみ)は、子どもが生まれてから3年間、保険料を支払うことなしに公的年金制度の強制加入者となり、また、その間の平均報酬相当額に対する保険料を支払ったものとして評価されます。 - 出生率
2021年、ドイツ合計特殊出生率は2017年以来久しぶりに上昇し1.58(2020年は1.53)で、出生数は約79.5万人でした。このうち、ドイツに市民権を有する女性の合計特殊出生率は1.49、その他の女性の合計特殊出生率は2.01です。また、女性にとって最初の子供の場合には、出生時の年齢は、母親が30.5歳、父親が33.3歳です。
◆最近の動向
■直近の医療分野における動き
●病院改革の検討
ドイツの全病院について専門的かつ大規模な病院から、基本的な手術や救急対応を中心とした病院まで3段階(詳細には5段階)に区分しています。各階層には設備、人員等に関する基準を設けるとともに、併せて、各階層の病院が実施することのできる治療群を定めてます。特定の治療を行う上で人員や技術、設備等が不十分な病院が当該治療を行なう場合には、診療報酬を請求できない仕組みとなっています。また、従来の包括払い方式の診療報酬の一部を、病院の規模等に応じた固定的な維持費としての給付に宛て、特に小児科や産婦人科についてはその割合が高くなるように設定されています。。救急時に、救急隊等に対して適切な医療アドバイスや遠隔医療支援等を実施する統合コントロールセンターを全国的に設置しています。また、総合救急センターを包括的な救急病院に設置し、患者の症状と病院の状況に応じて適切な治療施設への割り当て等を行なうことになっています。
●老齢年金
公的年金を強化し、最低年金額である48%を恒久的に維持する。今次立法期間においては、保険料率を20%より引き上げることはしない。給付額と保険料率の水準を長期的に安定させるため、まずは2022年に、ドイツ年金制度に対して100億ユーロの資金を政府予算から投入する。また、限定的な方法により積立金を株式市場で運用する。世代間の公平性や保険料の安定性を確保するため、2022年以降の年金額の調整を行う前に、年金額を算定する際のいわゆる調整効果を適時に再度稼働させる。年金分割について未婚のカップルにも利用を認める。
自営業者のための年金保険
自営業者の負担を軽減するため、ミニジョブ以上の働き方に対する法定保険料を厳密に所得に応じて設定する。年金制度に加入していない全ての新規自営業者に対して、選択の自由を保障しつつ、老齢年金制度への加入義務を導入する。 (出典)厚生労働省 2022年 海外情勢報告
医療分野におけるデジタル化
医療分野におけるデジタル化の推進により、医薬品、治療薬、補助器具の処方をはじめ、テレビ会議、遠隔診察、遠隔モニタリング、遠隔救急医療などの遠隔医療サービスを可能にしています。電子患者ファイルと電子処方箋の導入及び有益な利用を加速し、すべての関係者を早急にテレマティクス・インフラストラクチュア(ドイツの医療デジタルシステム)に接続することになっています。
(つづく)Y.H