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欧州連合の労働施策の3回目です。日本と欧州連合(EU)とは、共に世界貿易の担い手であり、二者間の貿易関係は、双方にとって重要です。二国は、戦略的な貿易パートナーであり、2019年2月に発動した日・EU経済連携協定は多くの経済的メリットを生み出しています。また、安全保障から気候変動・エネルギー・デジタル等広範な分野において協力しています。
■職業能力開発施策
●欧州スキルアジェンダ
2020年3月、欧州委員会は、欧州スキルアジェンダを発表しました。内容は、2025年までの5年間で、気候変動やデジタル化の加速に対応できるような人材育成を行い、労働者の職業能力向上を図る。新型コロナウイルス感染拡大により欧州では100万人の労働者が失業や所得が減少する危機に瀕しており、労働環境が変化する中で新たな職業能力の獲得が必要とされている。特に若年労働者が労働市場に新規参入するには、職業能力を得ることが必要である。ここで取るべきアクションは以下のとおりとされています。
〇労働者の職業能力向上のため、行政、教育訓練機関、産業、事業者団体等が一体となって行動する。
〇これからの欧州で必要とされる職業能力を持つ労働者を確保するため、
・労働者の職業能力向上への意欲を高める。
・EUは加盟国の職業能力向上政策を支援する。
・欧州の大学や学識者からの働きかけを強める。
・労働者の環境ビジネスやデジタルスキルの取得を奨励する。
・化学、技術、工学、数学等の修学者を増加させ、起業家精神を育成し、労働者に横断的な能力をつけさせる。
〇労働者に生涯にわたり教育訓練を受けさせるための道筋、及び動機づけを与える。
〇労働者が教育訓練を受けるための資金提供のシステムを作る。
●成人労働者の職業能力開発
2015年、初等レベルの教育、あるいは訓練修了後、中等レベルに進級していないのは、欧州の25歳~64歳の人口のうちの4分の1以上にあたる6,400万人であった。OECDが実施した国際成人力調査(Programme for the International Assessment of Adult Competencies)では、欧州の16歳~65歳の成人労働者の20~25%が基本的な読み書き、計算、及び日常生活に必要なデジタルスキルを身につけていないとされている。このような能力を習得していなければ、今後、労働者が失業、貧困及び社会的疎外に瀕する可能性が高くなるという危機感から、EU理事会は2016年、「成人労働者に職業能力向上の機会を付与する勧告(勧告2016/C484/01)」を公表した。
この勧告では、初等レベルの教育、あるいは訓練修了後、中等レベルに進級しておらず、ユース・ギャランティの対象にならない成人労働者に読み書き、計算、及びデジタルスキルを習得させ、更に、労働市場と社会参加するにあたって求められる能力を会得させること、その道筋として、①労働者自身のスキルのアセスメント、②整備された、柔軟で、質の高い教育訓練を提案、③習得したスキルについて検証及び認識、という3つの過程を定めるよう勧めている。
2019年2月、この勧告に対する各国の取組について欧州委員会は作業文書(Staff working documents)を公表した。各国ではこの勧告に基づき様々な取組をしており、25歳~64歳の低技能の成人労働力人口は2015年の4,075万人から2018年には3,870万人、失業率は16.3%から12.4%となった。同文書では、今後、労働市場においてより高い職業能力が求められていくので、引き続き低技能労働者のスキルアップが必要であるとしている。
(出典) 厚生労働省 2022年 海外情勢報告
◆労働条件対策
■労働時間指令(指令2003/88/EC、2003年改正)労働者の健康と安全の保護を目的とする指令です。EUに賃金に関する権限は委譲されていません。特定の業種や業務の性格等に応じ適用除外が設けられています。
・週労働時間
時間外労働を含め週48時間以内とされています。ただし、4か月以内の期間を参照期間として、参照期間における平均をとることが許容されています。また、オプトアウト規定が設けられており、①労働者により同意を得て、②48時間を超える労働の記録を保存する、という要件を満たせば、事業主は週48時間労働を超えて労働させられます。ただし、労働者がオプトアウトに同意しないことを理由に事業主は不利益取り扱いをしてはならないことになっています。
・夜間労働
夜間労働者の通常の労働時間が24時間ごとに平均8時間を超えないことになっています。ただし、危険業務以外は変形制が認められています。また夜間労働者の保護として、就業前及び定期健康診断、健康問題を抱える労働者の日昼労働への転換なども求められています。
・休息・休日
24時間ごとに連続11時間以上の休息、7日ごとに連続35時間以上(正当な理由がある場合には、連続24時間以上)の休息を確保しなければならないことになっています。ただし、14日以内の期間を参照期間として、参照期間における平均をとることが許容されています。
・年次有給休暇
4週間以上となっています。
● 雇用条件の透明性及び予見可能性に関する指令(指令2019/1152/EU、2019年成立)
雇用条件通知義務指令(指令91/533/EEC)の規定を改定した指令で、2019年6月に施行された。以前の雇用条件通知義務指令が従来、必ずしも保護対象としてこなかった各種の非典型労働者に適用範囲を拡大するほか、雇用主に新たに提供を義務付ける情報として、試用期間や訓練の提供の有無や内容、時間外労働に関する制度や報酬などの事項を追加、さらに労働者への提供時期についても従来の2か月以内から1週間以内へと短縮している。このほか、使用者の求めに応じて就業が変動的になる労働者については、より安定的な雇用を求める権利や、直前に仕事がキャンセルされた場合に補償を受ける権利などが盛り込まれている。(出典) 厚生労働省 2022年 海外情勢報告
■非正規雇用法制
●パートタイム指令(指令97/81/EC、1997年成立)
パートタイム労働者は、雇用条件に関し、客観的理由に基づき正当化できる場合を除き、パートタイム労働者であるという理由のみにより、比較可能なフルタイム労働者よりも不利な取扱いを受けてはならないことになっています(非差別の原則)。適当な場合には、時間比例の原則が適用されます。事業主は、可能な限り、パートタイム労働からフルタイム労働への転換の希望(その逆の転換の希望も同様)、応募可能なポストに関する情報提供、職業訓練の受講の促進等を考慮しなければならないことになっています。
・有期労働指令(指令1999/70/EC、1999年成立)
事業主は客観的理由に基づき正当化できる場合を除き、有期契約労働者であるという理由のみにより、常用労働者に較べて不利益取扱をしてはならず(非差別の原則)、時間比例の原則を適用しなければならないことになっています。加盟国は、有期労働契約の反復更新による濫用を防止するため、①反復更新を正当化する理由の設定、②通算雇用期間の上限の設定、③契約回数の上限の設定のいずれかの措置を導入しなければなりません。事業主は、常用雇用に移行できるよう、応募可能なポストに関する情報提供を行うとともに、職業訓練機会の提供を促進しなければならないことになっています。
・派遣労働指令(指令2008/104/EC、2008年成立)
派遣労働者の基本的な労働条件は、派遣労働者が当該業務を行うために派遣先に直接雇用されていたならば適用されるものと同等以上でなければならないことになっています(均等待遇の原則)。派遣労働者が派遣先において常用雇用の機会が得られるよう、派遣先における応募可能なポストに関する情報提供を行わなければなりません。加盟国は、派遣労働者が、派遣元事業主が提供する職業訓練機会および派遣先がその雇用する労働者に提供する職業訓練機会に参加しやすくなるよう、適切な措置を講じ、または労使間の対話を促進しなければならないことになっています。
● 海外労働者派遣指令(指令96/71/EC及び指令2018/957/EU、1996年成立2018年改正)
海外派遣労働者(posted worker)は、通常就業する加盟国(送出し国)の企業に雇用され、他の加盟国(受入れ国)に限られた期間だけ派遣されて就業する労働者を指す。海外労働者派遣指令においては、労働時間の上限、休憩期間や有給休暇、賃金率(割増率含む)等に関する最低基準のほか、派遣事業者による労働者供給に関する条件、職場における安全衛生、妊婦や出産直後の女性、児童・若者等の保護、男女間の均等待遇などについて、現地の労働法制の適用を義務付けるほか、地域あるいは職種・業種の全ての企業に適用される労働協約等の適用を定めている。
本指令は2018年6月に改正され、報酬に関する規則の平等な適用(受け入れ国の労働者との均等賃金)を義務付けた。地域あるいは業種別の労使協定についても、広範に適用される代表的な規則であれば、この規制の適用が義務付けられる。また、労働条件の改善策として、賃金から旅費や宿泊費を差し引くことが禁じられ、事業主は国内の規則に即した適切な居住環境を提供しなければならないとされたほか、派遣期間については従来の24か月から12か月に短縮された(6か月間の延長が認められる)。この期間を超えて就労する場合は、通常の労働者と同様に受入れ国の労働法や社会保険制度が適用される。
(出典) 厚生労働省 2022年 海外情勢報告
●EUテレワーク協約(2002年成立)
本協約は労使協約であり、欧州委員会が認定していないため、指令と異なり法的拘束力はありません。保護対象者は雇用契約のあるテレワーク労働者であり、請負や自営業は対象外です。労働者は自発的にテレワークを行う必要があります。事業主はテレワーク労働者に対し、事業所内で働く労働者と同一の雇用条件、職業訓練に係る権利を保証しなければならないことになっています。
(つづく)Y.H