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欧州連合の労働施策の2回目です。日本と欧州連合(EU)とは、共に世界貿易の担い手であり、二者間の貿易関係は、双方にとって重要です。二国は、戦略的な貿易パートナーであり、2019年2月に発動した日・EU経済連携協定は多くの経済的メリットを生み出しています。また、安全保障から気候変動・エネルギー・デジタル等広範な分野において協力しています。
■外国人労働者対策
●概説
少子高齢化による労働力人口の減少に対応し、EU経済圏としての競争力を維持する観点から、移民政策分野における統一的なアプローチが求められていることから、EUには共通移民政策策定の権限が与えられています。ただし、対象となる外国人労働者の条件、受入人数、労働市場への参入可否等については、加盟国に委ねられており、EUとしての政策的な進展は十分見られていません。
2005年、欧州委員会は、「合法的移民に関する政策プラン」を公表し、①高技能労働者、②季節労働者、③企業内転勤者、④研究生、⑤単一許可制度に関する5つの指令を策定することを提案しました。このうち④研究生を除いて成立した指令の概要は以下のとおりです。なお、英国に関してはEUからの完全離脱後、他の非加盟国と同様に180日間以内に90日間以上、EU加盟国内で就労する場合には査証が必要となります。
●EUブルーカード指令(指令2009/50/EC、2009年成立)
高技能を持つ移民労働者を誘導するため、「EUブルーカード」という特別の滞在・労働許可制度を設け、入国手続を簡素化するもの。①対象労働者の年収が、受入国の同等の職以上であり、かつ平均年収の1.5倍(労働力が不足している業種については同1.2倍でも良いとされる)以上となること、②1年以上の労働契約を締結すること、③高度な専門資格を保有すること、が要件である。高技能労働者は、労働条件、社会保障、教育・職業訓練等について内国民と同等の待遇が認められるほか、家族の帯同も可能である。
・季節労働者に関する指令(指令2014/36/EU、2014年成立)
EU域内での季節労働者(主に農業や観光業といった季節による業務の繁閑が多い分野に従事する低技能の労働者)の構造的な不足、季節労働に従事する外国人労働者の劣悪な労働条件、就労許可を得ずに季節労働に従事する外国人労働者の存在といった実態を踏まえ、外国人の季節労働者の保護を強化する観点から制定された。
季節労働者は、一定の滞在期間(年間5~9か月までの間で加盟国が設定。最低一回は更新可能)の下、労働条件、社会保障(失業手当、家族手当を除く)等について内国民と同等の待遇が認められる。また、季節労働者の受入れに当たり、適切な住居を確保することが必要とされ、雇用主が季節労働者に法外な住居費を課していないこと等が求められる。
・企業内転勤者に関する指令(指令2014/66/EU、2014年成立)
EU域外国からEU加盟国内への企業内転勤(EU域外に居住するEU加盟国以外の労働者が、EU域内にある同じ事業主体または事業グループの事業所に一時的に配置転換された結果、入国すること)を促進するため、企業内転勤者およびその家族の入国、居住、勤務等に係る権利を定めた。管理職および専門職は最長3年、研修員は最長1年の滞在期間で、研究者は対象外である。一定の条件の下、滞在期間中に他のEU加盟国へ滞在、勤務することも可能である。企業内転勤者は、労働条件、社会保障、教育・職業訓練等について内国民と同等の待遇が認められるほか、家族の帯同も可能である。
・単一許可指令(指令2011/98/EU、2011年成立)
EUに合法的に入国した亡命、移民外国人に係る滞在許可および労働許可をまとめて申請できるよう、手続を簡素化するとともに、外国人に関する一般的な権利(労働条件、教育・職業訓練、社会保障等について、入国先および滞在先の国民と平等な取扱いを受けること)を規定している。季節労働者、就労ビザで入国した外国人労働者は対象外である。
(出典)厚生労働省 2022年 海外情勢報告
■高齢者雇用対策
●年齢差別の撤廃
アムステルダム条約(1999年発効)113条の「一般的差別禁止」の規定を受け、2000年に「雇用及び職業における均等待遇の一般的枠組みを設定する指令」(指令2000/78/EC)が制定されました。同指令では「均等待遇の原則」として、宗教もしくは信条、障害、年齢または性的志向に関わりなく全ての者に、雇用及び職業(昇進、職業訓練、雇用条件及び特定の組織の成員権を含む)へのアクセスに関する均等待遇を規定しており、加盟国は指令の内容に従って国内法の整備を進め、現在では年齢による雇用差別は禁止されています。
高齢者の社会参加
EUでは高齢者の就業促進だけでなく、社会参加や自立についても取組を行っています。2012年には、「世代間の連帯と活力ある高齢化の推進」の実施を表明しました。これは、年齢を重ねても可能な限り長く自分の生活に責任を負い、経済や社会に貢献すると共に、世代間での理解を促進することを目的としており、以下の6項目が大きな柱になっています。2020年までに平均健康寿命を2年伸ばすとしています。
①労働市場への参加
②各種サービスや活動など社会への参加機会の保障
③社会への意思決定への参加
④IT活用などを含む高齢者の生活改善のための調査や改革の推進
⑤健康促進と病気予防
⑥高齢の貧困者の削減を含む持続可能かつ十分な社会保障システムの調整
■女性労働者対策
●概説
2017年11月20日、男女賃金格差解消のためのアクションプランを発表しました。アクションプランでは、優先事項8分野として、①男女賃金平等原則の適用改善、②職業や業界での男女差別反対、③「見えない天井」の撤廃、④女性の福祉・介護負担の軽減、⑤女性のスキル、努力、責任の評価向上、⑥差別や偏見の可視化、⑦男女賃金格差に関する認知拡大・警告、⑧男女賃金格差を解消するパートナーシップの強化をあげています。
●男女均等指令(指令2006/54/EC、2006年成立)
男女同一賃金指令(1975年)、男女均等待遇指令(1976年)等4つの指令を統合する指令で①同一(価値)労働同一賃金原則をはじめ、②雇用へのアクセス、解雇を含む労働条件に係る男女均等原則、③直接差別、間接差別、セクシャル・ハラスメントを含む各種ハラスメントの禁止、④権利救済の手続等を規定している。
・母性保護指令(指令92/85/EEC、1992年成立)
①産前産後における連続14週間以上の休暇の付与(うち2週間は強制取得)、②休暇期間中の十分な額の手当の保障、③妊婦検診のための有給休暇の取得、④妊娠から産後休業までの間の解雇制限、⑤危険業務・夜間業務への就業制限等を規定している。なお、職場環境が妊娠中あるいは授乳中の労働者の健康及び安全衛生にとって適切かどうか判断するための基準や条件について、2014年及び2019年に改正されている。
・ワークライフバランス指令(指令2019/1158/EU、2019年成立)
従前の育児休業指令(指令2010/18/EU、2010年成立)の内容を拡充しつつ、置換するものとして施行された。①父親に対し、子の出生時に少なくとも10日間の育児休暇(有給)を取得できるようにする、②両親は4か月の有給の育児休暇を取得でき、うち2か月はもう一方の親に移動が出来ない固有の休暇とするほか、パートタイム労働などより柔軟な形で休暇がとれるようにする、③介護者に対し、年5日間の休暇を取得できるようにする、④8歳までの子どもを養育する親や介護者に対して、労働時間の短縮、柔軟な勤務時間を要求する権利を認める、ことなどが盛り込まれている。(出典)厚生労働省 2022年 海外情勢報告
■障害者雇用対策
欧州社会権の柱において、障害者の包摂が示されています。2022年9月に欧州委員会は障害者の就業を通じた社会的包摂と経済的自立を確かなものとするための加盟国の取組を支援することを目的として、障害者雇用パッケージを発表しています。
(つづく)Y.H