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日本と欧州連合(EU)とは、共に世界貿易の担い手であり、二者間の貿易関係は、双方にとって重要です。二国は、戦略的な貿易パートナーであり、2019年2月に発動した日・EU経済連携協定は多くの経済的メリットを生み出しています。また、安全保障から気候変動・エネルギー・デジタル等広範な分野において協力しています。今回は、EU における労働施策についてお話しします。
◆雇用・失業情勢
2022年第1~3四半期のEU全体およびユーロ圏の実質GDP成長率はいずれも1.0%を下回っています。
◆雇用失業対策
■雇用失業情勢
EU27加盟国全体の2022年第1~3四半期の失業率は6.0%強(うち25歳未満は14~15%、25歳~74歳は5.0%強)となっています。25歳未満の若年者の失業率についてEU27加盟国全体でみると、2020年は新型コロナウイルス感染拡大の影響により上昇に転じたものの、その後は低下傾向にあり、2022年第3四半期においては15.1%となっています。国別に見ると多くの国がEU27加盟国全体と同様に推移していますが、2022年第3四半期の若年者失業率を加盟国内で比較すると、もっとも低いドイツが6.2%となっているのに対し、もっとも高いスペイン及びギリシャでは31.4%となっているなど、加盟国内での差が大きくなっています。
■雇用失業対策の基本的な枠組み
●雇用失業対策の策定プロセスと実施のメカニズム
〇雇用失業対策の戦略の立案
欧州連合運営条約は、加盟国とEUが共同で雇用失業対策の戦略を策定する旨規定されています。策定プロセスについては、EU理事会が、雇用政策の立案に際し各加盟国が考慮すべき事項を整理したガイドラインを策定します。
〇雇用・失業対策の実施
雇用対策は各加盟国により実施されているが、その施行状況については、EUによるモニタリング、審査・改善提案のプロセスが条約上規定されている。具体的には、①各加盟国が雇用失業対策の実施状況についての年次報告をまとめ、EU理事会及び欧州委員会に提出、②EU理事会がガイドラインに照らしつつ、加盟国の雇用失業対策の実施状況を審査し、必要に応じ、加盟国に対して改善を提案、③審査結果に基づき、EU理事会と欧州委員会が、ガイドラインの実施状況に係る年次報告を欧州理事会に提出することとされており、中期戦略に沿った雇用失業対策の実施、審査・改善提案、欧州理事会へのフィードバックといったPDCAサイクルが担保されている。また、雇用対策の実施に当たり、EUは、加盟国を支援するとともに、必要に応じ、その取組みを補完しなければならないこととされている。
具体的なあり方としては、①加盟国が実施する雇用対策に係る上記の審査・改善を提案、②雇用対策の審査等を通じて収集した好事例等をとりまとめた政策文書等の発出といった相談業務に加え、③欧州社会基金プラス(ESF+)、欧州グローバル化調整基金(EGAF)等を活用した財政支援が挙げられる。このほか、欧州委員会とEU加盟国、ノルウェー及びアイスランドの公的職業紹介機関が協力して形成したPES(European Network of Public Employment Services )があり、EU圏内での職業紹介や雇用の創出及び促進事業を行っている。特に若年者雇用対策、職業能力の需給のギャップ解消について同ネットワークの働きかけが期待されている。PESはEURES(EURopean Employment Services)と連携し、その機能を強化している。
(出典) 「2022年 海外情勢報告」(本文)|厚生労働省
●対策の基本的な方向性
〇欧州労働機関(EU労働局)の始動
2018年3月、欧州委員会は「欧州社会権の柱」の一環として、他国で就労する場合の権利等のルールの啓発や、求人、職業訓練等の情報提供のほか、国をまたぐ就労に関する各国監督機関の支援、あるいはそうした状況における紛争の仲裁などを目的に、欧州労働機関の設置を提案しました。そして、2019年6月、EU雇用・社会政策・健康・消費者問題相閣僚理事会において創設が決定され、10月より業務を開始しました。
欧州労働機関の主な任務は、①市民や企業に必要な情報やサービスを提供する加盟国の支援、②加盟国間の協力や情報交換の促進及び詐欺等による強制労働や違法労働に対応するための共同検査を通じた加盟国の支援、③加盟国間での紛争発生時に調停を行うことなどです。
〇「欧州社会権の柱」アクションプラン
2021年3月、欧州委員会は、「欧州委員会の柱」の具体的実現に向けたアクションプランを公表しました。これは、2030年までにEUが達成すべき主要な目標を提案するものとなっており、①20~64歳層の就業率を最低でも78%に引き上げること、②最低でも成人の60%が毎年何らかの訓練に参加すること、③貧困リスクや社会的疎外に直面する人口を1,500万人以上削減すること、の3つを大きな目標に掲げています。
■若年者雇用対策
●ユース・ギャランティ
若年者を取り巻く厳しい雇用情勢に対応し、学校から職場への円滑な移行を図る等の観点から、加盟国に対して、「ユース・ギャランティ」の実施を要請している(2013年4月のEU理事会で採択)。
ユース・ギャランティとは、若年者(15歳~24歳)が、卒業または失業後4か月以内に、①良質な雇用、②学業の継続、③インターンシップ、④養成訓練(学校から職場への意向を円滑化するため、企業との雇用関係の下での就業経験と、教育機関等における理論の修得の双方を可能とするデュアル形式の訓練)を支援する取組みである。加盟国が具体的なスキームを設計し、2014年1月から施行している。ユース・ギャランティの実施を促進する観点から、欧州社会基金(ESF)から財政を支援しているほか、若年失業率が25%を超えている加盟国に対しては、EU予算をより多く活用できるよう「若者雇用イニシアティブ」(YEI)という特別な財政支援措置を用意し、2014年~2020年にYEIに総額88億ユーロを投資した。
2014年から欧州委員会がユース・ギャランティを実施して以来、毎年350万人以上の若年者が上記の①~④の支援を受け、これまでにYEIから240万人の若年者が財政支援を受けた。この結果、2014年~2019年の5年間でEUの若年者失業者は230万人減少し、就学・就労・職業訓練のいずれも行っていない非労働力人口のうち15歳~24歳の若年者が占める割合は2012年の13.2%から2018年には10.2%に低下している。しかし、新型コロナウイルス感染拡大により、若年者雇用状況は急速に悪化し、2020年1月には14.7%だったが7月には18.4%にまで上昇した。EUでは「ユース・ギャランティ」をより強化し、15歳から29歳までの若年者に対象を拡大して包括的な就職支援を行った。
2021年以降は、若者雇用イニシアティブは欧州社会基金(ESF)などとともに、欧州社会基金プラス(European Social Fund Plus)に統合されている。ただし、15歳~29歳の若年者のうち学校にも、雇用にも、職業訓練にも参加していない者の割合が2017年~19年において欧州連合の平均を上回っている加盟国については、欧州社会基金プラスの予算の12.5%以上を若年層に使うこととされるなど、引き続き若年者の雇用対策は重視されている。
(出典) 厚生労働省 2022年 海外情勢報告
● 欧州ソリダリティ・コープ
欧州諸国においては、多くの国で若年者の厳しい雇用情勢とそこから繋がる社会的排除、格差拡大のリスクが課題となっています。2016年7月若者の雇用機会の拡大に向け「欧州ソリダリティ・コープ」が創設されました。欧州ソリダリティ・コープは、「若者を集めてより包括的な社会を構築し、脆弱な人々を支援し、社会的課題に対応する。他人を援助し、学び、成長したいと思う若者に刺激的で力強い経験を提供する。」ことを使命としています。
欧州ソリダリティ・コープは、18歳から30歳までの若者を対象に2か月から12か月間、欧州の連帯を強めるためのボランティア活動を促進することや失業対策などの多様な側面を有しています。具体例としては、震災後の学校やコミュニティセンターの再建支援、新たに入国した亡命希望者への支援、森林の植生、清掃することで山火事を防ぐ取組み、コミュニティセンターで障害者と働く等が挙げられています。なお、2017年に欧州委員会により、2020年までに10万人の参加を目指すこと、新たにフランスとイタリアの公共職業サービスによるプロジェクトの支援を行い、最大6千人に労働や訓練を提供することを発表しています。
●EU若年者計画
EU若年者計画とは、2018年11月のEU議会の決議に基づいて、EUの様々な若年者政策を一体化したもので、若年者の社会参加を促進させるために定められました。2017年から2018年にかけて若年者も加えて欧州全体で討議を行い、この計画の11のゴールが次のとおり定められました。
①若年者とEUの連帯
②全てのジェンダーの平等
③包括的な社会
④情報革新及び建設的な対話
⑤メンタルヘルスと幸福
⑥地方の若年者にも主張させる
⑦全ての人に質の良い雇用機会の提供
⑧質の良い教育
⑨全ての人が参加できる場の創出
⑩“Green Europe”の持続化
⑪若年者の組織の形成
EU若年者計画では、若年者がステークホルダーとして自分達の国、地域の政策決定の過程に参加するのと同様にEUの政策決定にも参加することで、自らのビジョンを実現することを目指しています。EUの若年者雇用政策にも影響を及ぼすものと思われています。
(つづく)Y.H