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日本と欧州連合(EU)とは、共に世界貿易の担い手であり、二者間の貿易関係は、双方にとって重要です。二国は、戦略的な貿易パートナーであり、2019年2月に発動した日・EU経済連携協定は多くの経済的メリットを生み出しています。また、安全保障から気候変動・エネルギー・デジタル等広範な分野において協力しています。今回は、EU におけるテレワーク規制等についてお話しします。
新型コロナウイルスによるパンデミック以降も、EUにおいてかなりの割合の従業員が何らかの形でテレワークを続けると見込まれいています。文化的・技術的・社会的障壁が軽減され、雇用主と従業員の双方がテレワークに適応してきたことによります。
◆テレワーク規制の枠組み
■概要
EU内には、国によりさまざまなテレワーク規制があります。規制の性質や範囲は多様で、その国における労使関係制度や伝統、慣習の影響を受けています。特定の法がある国から、労働や安全衛生関連法に規制が盛り込まれている国、法定義のない国、ほぼ何も規制がない国など多様です。国レベルで団体交渉が活発なところは、テレワークは法に規定されています。全国レベルの労働協約は、先駆的な法の役割を果たすのみならず、既存法を補完し、企業等における特定のニーズにつながる枠組みを提供しています。ベルギーやフランス、ルクセンブルク等が該当しますが、社会的対話が強固で、法律において社会的パートナーが重要な役割を果たしていることから、テレワーク法規制がより発達しています。これらの国々では、合意が行き渡っており、既存の法律に対する雇用主と従業員代表の満足度が高く、テレワーク取り決めにおいて従業員を保護する規定が含まれています。また、これらの規制により、企業レベルで従業員と全体的な経済活動との双方を保護する規制の実施が促進されることが期待されています。
■EU加盟国間における従業員保護規定の違い
EU加盟国のテレワーク規制は、各国で規制されている項目(テレワーク制度といったテレワークそのもののあり方)がある一方、ごく数か国のみで規制されている項目(労働時間などの付随する事項)があります。以下、主な項目について比較考察します。
●テレワーク制度
テレワーク制度のルールはEU加盟国のほとんどの法律で規定されているが、個々の合意は雇用主と従業員間で、もしくは雇用契約において結ばれなければならない。従業員には合意文書が提供されるが、書面に記載する最低限の内容は国により異なる。なお、労働協約ではより多くの情報を盛り込むことが求められている。テレワーク関連法を持つ国において、これらの義務と、「EUにおける透明で予測可能な労働条件に関する指令(Directive(EU)2019/1152)」の相互作用についてさらなる分析が待たれる。テレワークの自発的原則は、ほぼすべての国において法律で認められている。しかし、従業員がテレワーク利用できる客観的条件(例として、テレワークしやすいかどうか、または専門的カテゴリー)は国の規制では示されていない。テレワーク利用の条件は企業レベルの合意においてより詳しく、作業タスク、家族状況、通勤時間、健康状態、年功序列等を含む。しかし、これはいくつかの国で規定されているテレワーク請求権とは異なる。テレワーク可能な職種の従業員は、請求権を行使してテレワークを請求することができる。この権利は、フランス、リトアニア、ポルトガル、オランダでのみ確立されており、2021年末までにさらに2か国でも法案が作成されている。この法律は、テレワークやフレックス勤務を要求する権利に関するワーク・ライフ・バランス(WLB)指令(Directive(EU)2019/1158)の条項を超えて、従業員が自ら労働場所を決め、それを自らのニーズやウェルビーイングに合わせる可能性をより高めることを目的としている。興味深いことに、従業員がテレワークを拒否する権利は東欧諸国のいくつかで採択されている。これは雇用主が一方的にテレワークを要求する可能性がある、ということを示唆している。
(出典)厚生労働省 2022年 海外情勢報告
- 労働時間の編成
労働時間の編成に関し、いくつかの国(主に中欧、東欧)ではテレワーク取り決めにおける労働時間の規制が事業所構内で行う労働における標準的な労働規則に準拠しています。一方で、労働時間を柔軟に編成できることがテレワーク規制に盛り込まれている国(主に南欧、西欧)もあります。このことから次の2点が導かれます。
・柔軟な労働時間がテレワーク取り決めに共通の特徴となっている加盟国では、労働時間規制が従業員のテレワーク状況に適応していません。
・テレワーク取り決めの労働時間に関する課題に国レベルの規制(あるいは部門別労働協約)でどう対処するかについては、欧州内で意見が分かれています。
●安全衛生
十分な労働安全衛生上の条件が保障されているかといったリスク評価や調査は、従業員宅のプライバシー権と衝突する可能性がある。一部の国では(ベルギー、クロアチア、ドイツ、ギリシャ、オランダ、スペイン)、テレワークを許可する前提として、リスク評価に関する規制を設けている。こうした国ですら、リスク評価を実施する方法や、従業員のリモート職場を監視する方法にはさまざまなアプローチがある。特に規制を持たない国では、労働安全衛生のEU枠組み協定が当てはまるにしても、リスク評価がどのように行われるかは未知数である。リスク評価条項は企業レベルの労働協約においてより発達しており、国の規制がなくてもリスク回避の一般的原則をテレワーク環境に適用している企業があることを示している。自宅で働く際の労働環境が適切ではないと報告する従業員はかなりの割合に上る(不十分な設備、身体的・精神的な問題を含む)。多くの国では、精神的なリスクを規制しており、とりわけ「孤立」に重点を置いている。より柔軟なテレワーク協定を採用することが孤立問題の改善につながる。孤立問題に対処するために部分的テレワーク(ハイブリッドワーク)を取り入れることで、リモートワークの柔軟性と上司・同僚との対面の交流との間で非常によいバランスがとれる。
近年の調査では、激務、時間外労働、不規則な勤務スケジュールの観点から、テレワークをする従業員にさらなる精神的リスクがあることが明らかになってきた。このリスク対応は部門別合意においては発達しているようだが、国の法律ではただ推奨しているに過ぎない。
(出典)厚生労働省 2022年 海外情勢報告
- 団体交渉権
テレワーク規制がある国の半数において、従業員の団体交渉権が保護されています。その目的は国により異なりますが、労使間の情報共有と相談が行われ、従業員代表権が確保されるよう条件整備することにあります。 - その他
ジェンダー平等への後押しとなるワーク・ライフ・バランスの条項を除けば、各国の法律ではジェンダー平等の観点はどこにも含まれていません。ジェンダー平等の条項はわずかに部門別労働協約にのみ見られます。女性が定期的に自宅でテレワークする場合、キャリアアップの潜在的なリスクがある上、介護・家事・有給の仕事の負担が重なっているため、法は不十分に思われます。他に、もう1つの重大な点として、持病や障害のある従業員を労働市場に取り込むためのテレワークの可能性があります。ごく少数の部門別労働協約または企業レベルの労働協約のみが、この点について言及しています。
◆テレワークの可能性と課題
欧州の全体像を見ると、数か国はテレワークの国レベルの規制を改定していますが、すべての国がそうではありません。このばらつきはテレワーク普及や労使関係モデル、社会的対話の役割や柔軟な働き方の既存の文化と関係しています。欧州では将来的に、規制の出所、規制内容、さまざまな雇用や労働条件の規制において、テレワークの取り組み方法が多様化する可能性があります。これらの違いにもかかわらず、テレワーク利用許可、法律における定義の改定等について、多数の国で共通の課題が明らかになっています。
国レベルの基準は最低限であるため、社会的対話の発達したすべての国では雇用や労働条件を適応させるために部門別、企業別の労使合意に依拠しています。全体として、パンデミックでの働き方において、テレワークは多大な可能性をもたらしました。テレワークにより従業員の労働状況と生活状況が改善され、従業員は労働時間とプライベートや家族との時間とのバランスを図ることができました。また、通勤時間を節約し、職場の生産性に悪影響を及ぼすことなく仕事の自律性や柔軟性をより高められました。しかし、テレワークをする従業員にとって、さまざまな課題も出てきました。例として、孤立感、長時間労働の課題が挙げられます。さらに、多くの雇用者はマネジメント、スタッフ支援、チームワークやコミュニケーション促進の課題に直面しました。テレワークの今後の発展を監視することが、テレワークのリスクを特定し悪影響を防ぐために重要となります。また、テレワークの台頭によりパンデミック以降、賃金格差・雇用格差がさらに問題となっています。テレワークがより高給で、より高度な職業で行われたためであり、テレワーク利用可能な従業員とそうでない従業員との間に不平等が生じました。テレワークが可能な従業員はより安定した仕事に就き、より高い賃金を得ています。政策立案者はテレワークできる者とできない者の間に公平な条件を確保する責務があります。
(つづく)Y.H