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スウェーデンの労働施策の最終回です。スウェーデンは、「北欧の中の日本」と言われるほど両国の国民性には幾つかの共通点があります。例えば、几帳面で真面目・シャイな我慢強い性格のところです。また、グループ内の和の尊重や謙虚さも日本人に通じるところがあります。社会保障制度が手厚い北欧諸国の中でも、スウェーデンは特に育児に対する支援が手厚く、子供の大学までの教育費や18歳までの医療費が無料で、育児休暇などの制度も充実しています。スウェーデンに進出している日系企業の拠点数は、約160社です。なお、2024年3月に北大西洋条約機構(NATO)に正式加盟しました。
■仕事と家庭を両立するための施策
●出産休暇及び育児休暇制度
両親休暇法により、労働者には出産・育児のための休暇が保障されています。当該休暇期間中の所得は、社会保険制度である両親保険制度、一時的両親手当、妊娠手当などにより従前所得の概ね8割が保障されています。出産予定の女性は、産前産後少なくとも7週間ずつ妊娠休暇を取得する権利を有しています。また、両親は、子が18か月に達するまでの間、フルタイムの休暇を取得する権利を有しています。これらは、両親手当の支給に関わらず取得可能です。さらに、両親は、両親手当を満額支給されている間はフルタイムの休暇を、4分の3、2分の1、4分の1又は8分の1支給されている間は、4分の3、2分の1、4分の1又は8分の1の部分休暇を取得する権利を有しています。また、両親手当支給なしで、子が8歳になる前又は小学校1年生を終わるまでの間、最大4分の1の労働時間減少による時短勤務の権利が認められています。
●家族介護(看取り)休暇制度
家族介護休暇に関する法律(Lag(1988:1465)omledighetförnärståendevård)により、労働者には深刻な状態(終末期)の近親者の介護(看取り)のために休暇を取得する権利が保障されている。労働者は、介護される者一人について最大100日間、同休暇を取得することができる。同じ介護される者について複数の者が同時に受給することは不可であるが、受給できる介護者は家族等に限定されておらず、介護者の居住形態(在宅・施設)も問われない。休暇中は社会保険制度による家族介護(看取り)手当(Närståendepenning)が支給される。(出典)厚生労働省 2022年 海外情勢報告
◆労使関係施策
■労使団体
労働者団体、使用者団体は、①産業・企業横断的な全国組織、②産業・職業別の全国組織、③企業・事業所別の支部の3層構造となっている。賃金や労働時間などの労働条件に関する交渉・労働協約締結は①の支援の下、②③のレベルで行われています。①のレベルでの交渉・労働協約締結は労使協調や共同決定等に関して行われています。
- 労働組合員数及び組織率
労働組合員数は331万人(2020年)、全労働者に占める組織率は61%です(2022年第一四半期)。労働組合組織率は1990年代後半には80%台であったが、その後減少傾向にあります。 - 労働者団体
主要な全国組織として、ブルーカラーを代表するLO(労働組合総連合)、ホワイトカラーを代表するTCO(職員組合連合)、大卒の専門職を代表すSACO(専門職労働組合連合)が存在しています。 - 使用者団体
主要な全国組織として、スウェーデン企業者連盟が存在し、49の使用者団体、6万の企業(労働者数約200万人)が加盟しています(2021年現在)。公的部門に関しては、中央府省・行政庁については政府雇用庁が、また、地方自治体については地方自治体連盟が使用者団体としての役割を果たしています。
■労働争議の発生件数等
労働争議は憲法上保障された権利でありますが、共同決定法においては労使間の労働協約の有効期間中は原則として争議行為を行わない義務が課されており、その実施は基本的には新たな労働協約について交渉中の間に限られます。発生の業種や職種により年によって規模にばらつきはありますが、発生件数は少ないです。
■調停庁による仲裁
労働争議を仲裁する機関として、調停庁が存在しています。労働条件や賃金等の労使交渉が行き詰まり労働争議を行う予定の当事者は、一方の当事者及び調停庁に遅くとも実施7日前までに通告しなければならないことになっています。労使紛争が発生した場合、調停庁は調停委員を任命し、両者の仲裁を図ります。なお、調停庁は紛争仲裁以外に、効果的な賃金形成プロセスの促進、賃金・給与統計の収集の役割を担っています。
■労働裁判所
労使紛争・個別労働紛争を扱う専門の司法機関として、労働裁判所が存在する。同裁判所や訴訟手続については労働紛争の訴訟に関する法律(Lag(1974:371)om rättegången iarbetstvister)において規定されている。労働協約に関する紛争、交渉権や団結権に関する紛争、労働協約が適用される者同士の紛争、協約が適用される事業所における紛争については、使用者団体、労働組合又は協約の締結主体である使用者が原告となることを条件として、労働裁判所に提訴が可能であり、その場合労働裁判所が最終審となる(一審制)。なお、提訴を行う前に労使交渉を行うことが求められており、多くの紛争はその段階で解決されている。(出典)厚生労働省 2022年 海外情勢報告
◆最近の動向
■雇用保障年齢引上げ
年金改革に関連し、与野党6政党からなる年金ワーキンググループは、2017年12月に、年金の支給開始年齢の引上げにあわせて、雇用保障年齢を2023年までに69歳に引き上げること等について合意しています。2020年1月から68歳に雇用保障年齢を引き上げ、2023年1月より更に69歳に引き上げられました。また、これに合わせ、同月より、①有期雇用の無期雇用転化規定が適用されない年齢を69歳以上にすること、②解雇に当たって「正当な理由」が不要とされる年齢を69歳以上の労働者とすることが予定されています。
■2022年10月の雇用関連法の改正
2022年の雇用関連の一連の法改正「Flexibility, adaptability and security」において、労働者保護の強化とともに、労働移動を円滑化し、スウェーデンの産業競争力を高めていくための見直しが行われた。有期雇用に関しては、特段の理由なしで有期雇用が可能とされる雇用期間を2年から1年に短縮する改正、解雇規制に関しては、ラストイン・ファーストアウトの原則の適用除外となる労働者の範囲を変更する等の見直しが行われた。また、労働移動に対する支援として、新たな雇用保障協議会制度が2022年10月に開始され、労働協約の対象外となっている労働者についても、過去1年間に週16時間以上就労している場合には、こうした労働移動の支援を受けられることとなった。また、労働移動に備えて教育訓練を行う場合の費用について、その80%を補助(物価基礎額の4.5倍が上限)する制度も開始されている。(出典)厚生労働省 2022年 海外情勢報告
(つづく)Y.H