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前回に続き、スウェーデンの労働施策の4回目です。スウェーデンは、「北欧の中の日本」と言われるほど両国の国民性には幾つかの共通点があります。例えば、几帳面で真面目・シャイな我慢強い性格のところです。また、グループ内の和の尊重や謙虚さも日本人に通じるところがあります。社会保障制度が手厚い北欧諸国の中でも、スウェーデンは特に育児に対する支援が手厚く、子供の大学までの教育費や18歳までの医療費が無料で、育児休暇などの制度も充実しています。スウェーデンに進出している日系企業の拠点数は、約160社です。なお、2024年3月に北大西洋条約機構(NATO)に正式加盟しました。
- 夜間労働
夜間労働者とは、1日の労働時間のうち3時間以上又は年間労働時間の3分の1以上を22時から6時までの夜間に就労する労働者のことをいいます。夜間労働者の通常の労働時間は4か月以内の参照期間中24時間ごとに平均8時間を超えてはならず、また、特別な危険・重い心身の負担が伴う業務を行う場合は24時間ごとに8時間を超えてはならないとされています。 - 休息・休日
全ての労働者には毎日の休息期間として、原則として24時間ごとに深夜0時から5時までの時間帯を含む11時間以上の連続した休息時間が確保されなければなりません。また、毎週の休息期間として、原則として7日間ごとに可能な限り週末を含む36時間以上の連続した休息時間が確保されることになっています。なお、使用者は労働者が5時間以上連続して労働することがないような形で、適切な休憩時間を提供することとされています。 - 年次有給休暇
労働者には1年間で25日の年次休暇を取得する権利が保障されています。年次休暇の期間中は休暇手当が支給されます。別段の合意がない限り、労働者は夏期(6月~8月)に少なくとも4週間の休暇期間となるよう年次休暇を取得する権利を有しています。20日を超える年次有給休暇については、翌年以降最大5年後まで繰り越しが可能とされています。また、25日を超える年次有給休暇の繰り越し分について消化されなかった分については相当の休暇手当が支給されます。
■有期雇用契約
雇用保護法(Lag(1982:80)om anställningsskydd)上、雇用契約は期間の定めのない契約が原則とされるが、①有期雇用とする特段の理由なしでの有期雇用が可能とされているほか、②臨時的代替雇用(育休等による不在等への一時的補充)、③季節雇用(農業や観光業等)について有期契約による雇用が認められている。有期雇用は期間満了をもって自動的に雇用が終了するが、①については、同一使用者に5年間で合計1年(2022年10月に2年から1年に短縮する改正が行われた。また、同じ月に3つ以上の有期雇用契約があった場合には、各雇用契約の間の期間もカウントされる。)以上当該形態で雇用された場合、または、合計1年以上形態を問わず有期雇用(68歳(2023年以降69歳)以上の者に関する雇用を除く)として雇用され、契約終了日から6か月以内に別の有期雇用契約が締結された場合、②については、同一使用者に5年間で合計2年以上当該形態で雇用された場合に無期契約に転化することとされている。なお、試用期間については6か月が上限とされており、期間満了までに何ら今後に関する通告がない場合には期間の定めのない契約に転化される。
(出典)厚生労働省 2022年 海外情勢報告
■派遣労働
2021年時点で102,000人が派遣会社に雇用されています。派遣労働者と正規労働者間の均等待遇等を目的とするEUの派遣労働指令(2008年11月成立)を受けて、新たに労働者派遣に関する法律が制定されました(2013年1月1日施行)。同法において、派遣会社に対し、派遣時の労働時間・賃金等の均等待遇の確保や、①派遣労働者が派遣先企業に雇用されることを妨げないこと、②派遣労働者から派遣に対する対価を徴収することの禁止、を規定しているほか、派遣先企業に対し、共用施設の利用についての均等待遇の確保や正規従業員の求人に関する情報提供を義務付けています。
■労災保険制度
労災補償は、社会保険制度の一環として位置付けられており、社会保険法典において規定されています。主たる給付として、労働者(自営業者を含む)が就業に起因して疾病を負い稼働能力が恒久的に減退した場合には、従来所得を保障するための労災保険年金が、また、当該疾病が原因で死亡した場合には、遺族に対して労災保険遺族年金及び葬祭料が支給されます。身体的な疾病のみならず、精神障害や自殺も対象となります。なお、就業に起因して疾病を負い稼働能力が一時的に減退した場合には、一般的な社会保障制度としての疾病手当が支給されます。
■解雇規制
●概要
雇用保護法においてルールが規定されています。解雇には「正当な理由」(客観的根拠)が必要であり、これがない解雇は無効とされています。ただし、争訟の結果解雇無効とされた場合にも、使用者は労働者に一定の補償金を支払うことで雇用契約を終了することが可能となっています。解雇に際しては、配置転換努力、雇用期間に応じた一定期間前の書面による通告などが必要とされます。病気や障害は原則として「正当な理由」にならないが、一方で業務不足による整理解雇は「正当な理由」となり得ます。ただし、事前に労働組合との交渉が必要となっています。また、解雇に関しても労使自治を基本とし、労働者個人よりも労働組合が中核的な役割を果たしています。
- 個人的理由に基づく解雇(普通解雇)に係る要件・手続
使用者が解雇労働者に別の業務を与えることが合理的な場合、「正当な理由」は存在しないものとされており、使用者には配置転換に努めることが求められています。解雇通告は書面により、原則個々の労働者に対して直接に行わなければならず、無効・補償を争うための手続、再雇用優先権の有無について記載が必要です。また、使用者は労働者の求めに応じて解雇理由を明らかにする義務を負います。労働者の勤続期間に応じて1~6か月の解雇予告期間をとることが必要で、また、使用者はあらかじめ解雇通告の2週間前までに解雇労働者及び加入している労働組合に事前の情報提供を行わなければなりません。本人及び労働組合は通告を受けてから1週間以内に使用者と協議する権利を有し、この場合協議が終了するまでは解雇通告を行うことができません。なお、労働者に重度の義務違反があった場合には、即時解雇が可能です。この場合でも使用者は解雇通告とは別に1週間前までに本人及び加入労働組合に情報提供をする必要があります。
●経済的理由に基づく解雇(整理解雇)に係る要件・手続
業務不足は「正当な理由」となり得、整理解雇も一定の手続の下認められている。配置転換努力や書面による手続を要することは普通解雇と同様である。整理解雇の場合、使用者は事前に関係の地区レベルの労働組合(合意に達しない場合は中央(産業)レベル)と交渉を行うことが求められる。解雇労働者の選定に当たっては、一定のルールに則り勤続期間の短い者(勤続期間が同じ場合は年齢の若い者)を優先させなければならない(ラストイン・ファーストアウト)。なお、将来の事業活動のために特に重要な者を最大3名まで当該ルールの適用除外とすることが認められている。また、整理解雇された労働者については雇用契約終了後から9か月以内の再雇用について優先権が付与される。再雇用優先権についても、従前の勤続期間の長い者(勤続期間が同じ場合は年齢の高い者)が優先される。ラストイン・ファーストアウトや再雇用優先権については、労働協約により変更が認められている。また、雇用保障年齢(68歳。2023年以降は69歳)以上の労働者はその対象とならない。なお、特定雇用促進法(Lag(1974:13)omvissaanställningsfrämjandeåtgärder)に基づき、使用者は整理解雇を行う場合には原則として解雇規模に応じて2か月、4か月又は6か月以上前に雇用仲介庁に届け出なければならないこととされている。
(出典)厚生労働省 2022年 海外情勢報告●救済
共同決定法において、労働協約が有効である間は労働紛争について裁判所に提訴する前に労使交渉を行わなければならないこととされており、解雇の有効性を争う場合についても、一般的にはまずは労働組合が使用者と交渉を行うこととなる。不調の場合、労働組合は労働裁判所(公労使で構成・一審制。)に提訴することができる。当該労働者が組合員でない場合や労働組合が交渉や提訴を行わない(事案として取り上げない)場合、解雇労働者は地方裁判所に提訴することができる。この場合、控訴は労働裁判所に対して行うこととなる。解雇の有効性を争う訴訟は紛争のごく一部であり、紛争の多くは労働組合と使用者間の交渉により、多くの場合使用者側が補償金を支払って解決されている。係争終了までの間は原則として雇用は継続されることとなる(即時解雇の場合は裁判所の命令による)。解雇無効となれば当該労働者は職場に復帰することとなるが、この場合であっても、使用者は労働者に対して補償金を支払うことにより雇用契約を終了させることが認められている。同補償金は勤続期間に応じて定められており、勤続期間が5年未満の場合16か月分の給与、同5年以上10年未満の場合24か月分の給与、同10年以上の場合32か月分の給与相当となっている。
(出典)厚生労働省 2022年 海外情勢報告
以上
(つづく)Y.H