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前回に続き、スウェーデンの労働施策の3回目です。スウェーデンは、「北欧の中の日本」と言われるほど両国の国民性には幾つかの共通点があります。例えば、几帳面で真面目・シャイな我慢強い性格のところです。また、グループ内の和の尊重や謙虚さも日本人に通じるところがあります。社会保障制度が手厚い北欧諸国の中でも、スウェーデンは特に育児に対する支援が手厚く、子供の大学までの教育費や18歳までの医療費が無料で、育児休暇などの制度も充実しています。スウェーデンに進出している日系企業の拠点数は、約160社です。なお、2024年3月に北大西洋条約機構(NATO)に正式加盟しました。
■外国人労働者対策
スウェーデンは、外国からの移民・難民を積極的に受け入れてきており、外国生まれの者は総人口の20.0%(2021年)と高いです。人口推計においても外国生まれの者の寄与により、今後もその増大を見込んでいます。特に難民について、移入後にいかに早期に定着・就労させ、社会統合を図るかが課題となっています。企業及び高度人材をスウェーデンに呼び込む観点から、高度人材である外国人労働者に対する減税措置が講じられています。スウェーデンで雇用されてから3年間、個人所得課税について25%の所得控除が行われるとともに、赴任旅費等事業主からの一定の手当について非課税とされています。事業主が支払賃金に応じて国に納める事業主税についても当該者分について支払賃金の25%を控除したベースで算定されます。対象となる者は高度技術者や執行役員、財務や製造等各部門の専門家です。
2010年12月には、特定の新着移民のための定着活動に関する法律が施行され、これまで居住先の各地方自治体が担ってきた導入支援について、雇用仲介庁(公共職業安定所)が中心となり、地方自治体、社会保険庁、移民庁と連携して実施する新たな仕組みが導入されました。雇用仲介庁による各個人の状況に応じた市民適応化策や就業準備等を盛り込んだ最長2年の「導入計画」の策定、導入計画に基づく活動実施中の国(雇用仲介庁)からの導入手当の支給、求職活動支援等を行う導入ガイドの付与等により、早期定着・就労に向けた支援が行われています。2018年1月からは、早期の社会統合を推進する観点から、教育プログラムへの参加が義務化されるとともに、要件を満たす場合には一般の労働市場プログラムへの参加が可能となりました。
■雇用における平等の確保
差別禁止法(Diskrimineringslag)により、雇用、教育、雇用政策、社会保障制度等の分野における性別、性的自己同一性、外見、民族、宗教、信仰、障害、性的指向、年齢を理由とする直接・間接の差別的取扱いは禁止されている。雇用分野に関しては、使用者に対し、労働者(有期・派遣労働者含む)、求職者、職業実習生に対して上記を理由とした差別的取扱いを禁止するとともに、賃金その他の労働条件等職業生活において平等を確保するための措置を講ずることを求めている。25名以上を雇用する使用者については、3年毎に、賃金その他の労働条件における差別の防止・改善のための調査分析、均等賃金に関するアクションプランの策定、男女平等全般に関する計画の策定を求めている。差別禁止法遵守の監視・監督は中央行政庁の一つである平等オンブズマン(Diskriminerings Ombudsmannen)が担っており、個人からの申立を受けて差別事案を調査し、平等委員会(Nämnden mot diskriminering)への過料の適用の申請や、個人を代理して労働裁判所への提訴を行う。また、パートタイム労働者及び有期契約労働者に係る差別禁止法(Lag om för bud mot diskriminering av deltidsarbetande arbetstagare och arbetstagare med tidsbegräns ada nställning)により、パートタイム労働者及び有期契約労働者について、賃金その他の労働条件についてフルタイム・無期労働者と比べての直接的・間接的差別が禁止されており、違反の契約はその範囲において無効とされる。
(出典)厚生労働省 2022年 海外情勢報告
◆労働条件対策
■制度概要
労働組合・使用者団体等の間では現在約650の労働協約が締結されており、これらの有効期間中は原則として争議行為を行わない義務が課されています。なお、公務員についても1966年以降労働協約締結が認められています。また、使用者は、規模の拡大・縮小、移転など事業の範囲や形態に係る重大な方針の決定や変更に関して事前に労働組合と交渉する義務を負っています。労働時間や安全衛生などの労働環境に係る規制・監督は労働環境庁が担当しており、全国を5つのエリアに区分し、監督・指導等の業務を実施しています。
■最低賃金制度
賃金に関しても労使による決定を基本としており、最低賃金に係る法制度は存在していません。約4,300社の輸出関連企業が会員となっている使用者団体スウェーデンエンジニアリング産業協会と労働者団体スウェーデン産業組合が最初に労働協約を締結し、その後、各産業別に労働協約に適用されていきます。なお、賃金は個人の能力・実績を反映しつつも、基本的に職務を基礎として決定する仕組みが一般的です(同一労働同一賃金)。
“■労働時間制度
労働時間法(Arbetstidslag(1982:673))において規制されている。中央(産業レベル)労働協約による全部又は特定の条項の適用除外、地区(企業・事業所レベル)労働協約による特定の条項の適用除外が可能となっているが、労働時間に関するEU指令(2003/88/EC)よりも不利な内容の合意は無効となる。管理的地位にある労働者や家内労働者、船員、特定の道路交通関係の労働者等については適用除外とされている。労働時間に係る監督は労働環境庁が担っており、資料要求、事業所立入、禁止・履行命令の発出などの権限が付与されている。禁止・履行命令等への違反等に対しては罰金又は1年未満の禁固刑が科される。また、時間外労働に係る違反に関して、使用者は1時間につき物価基礎額の1%相当額を超過労働時間料金(Övertidsavgift)として国に支払わなければならない。”
- 法定労働時間
原則として1週40時間以内です。 - 時間外労働
労働時間を増やす特段の必要性がある場合には、一般時間外労働として、4週間で48時間(カレンダー月で50時間)以内、カレンダー年につき200時間以内でこれを行わせることが可能とされています。また、特別の事情があって別の方法で対応できない場合には、追加的時間外労働として、一般時間外労働に加えてカレンダー年につき最大150時間以内の追加的時間外労働を行わせることが可能とされているます。ただし、一般時間外労働及び追加的時間外労働は4週間で48時間(カレンダー月で50時間)を超えてはならないことになっています。
自然災害や事故発生時等で事業への障害や身体・財産への差し迫った危険が発生している場合には、緊急時間外労働を行わせることが可能です。時間外労働を含む労働時間の合計について、7日間の期間ごとに平均48時間を超えてはならないことになっています。なお、時間外労働の割増賃金や弾力的労働時間制度については法令上の規定はなく、労働協約においてルールが規定されています。
(つづく)Y.H