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前回に続き、スウェーデンの社会保障施策の2回目です。スウェーデンは、「北欧の中の日本」と言われるほど両国の国民性には幾つかの共通点があります。例えば、几帳面で真面目・シャイな我慢強い性格のところです。また、グループ内の和の尊重や謙虚さも日本人に通じるところがあります。社会保障制度が手厚い北欧諸国の中でも、スウェーデンは特に育児に対する支援が手厚く、子供の大学までの教育費や18歳までの医療費が無料で、育児休暇などの制度も充実しています。スウェーデンに進出している日系企業の拠点数は、約160社です。またコミューンとは、日本の市町村に当たるものです。なお、2024年3月に北大西洋条約機構(NATO)に正式加盟しました。
■傷病・障害に対する経済的保障
●疾病手当等
労働者が傷病にかかったとき、原則として初日を除き最初の14日間については、雇用主から傷病給与(Sjuklön)を受け、それ以降は社会保険事務所から疾病手当を受けることとなる。(従前所得の80%相当額(日額上限1,027クローナ)(2022年))疾病手当の受給開始後1年を経過した場合には、就業能力が減退しているものの職場復帰が可能と見込まれる例外的な場合のみ最大550日間支給延長(延長疾病手当: Förlängd sjukpenning)が認められるものであったが、2016年2月より受給期間の上限が撤廃され、最大364日は従前所得の80%相当額が給付され、その後は申請すれば従前所得の75%相当額(日額上限963クローナ(2022年))が給付されることとなった(ただし、傷病が重篤である場合には、引き続き80%相当額が給付される)。この他の傷病にかかった場合に支給される社会保険給付として、職業復帰のためのリハビリを行っている者に疾病手当受給期間の範囲で疾病手当と同水準及び追加費用分を支給するリハビリ手当(Rehabiliteringspenning)、歯科治療に係る給付がある。
●活動補償金(Aktivitetsersättning)及び傷病補償年金(Sjukersättning)
老齢年金制度の改革によって旧基礎年金・付加年金(ATP)が廃止されたことに伴い、2003年1月から障害年金制度が抜本的に改正された。改正後は、医療的な理由により1年以上にわたり就業能力を4分の1以上失った者は、19歳~29歳の場合には活動補償金、30~64歳の場合には傷病補償年金を受給できることとなった。活動補償金は3年以内の有期給付であるが、傷病補償年金は障害の状況に応じて無期限で支給される。2017年2月からは、19歳~29歳であっても、完全に就業能力を失っている場合には傷病補償年金を受給できることとされた。なお、傷病補償年金については、長期受給者の就業を促すため、3年毎の検定の結果、就業能力が回復したと社会保険事務所が判断した場合、その一部又は全部の受給権を消滅させることとなった(従前受給者のための経過措置が設けられている)。いずれの給付も従前所得がある場合は従前所得の64.7%相当額(月額上限19,531クローナ)、従前所得がない又は低い場合は最低保障額が年齢に応じて月額9,982から10,988クローナと定められている。
(出典)厚生労働省 2022年 海外情勢報告
●その他
障害による追加費用を補償する追加費用手当、障害者の自動車購入・改造等の費用を補償する自動車補助、近親者の介護のために休業する場合の所得を保障する家族介護手当、業務上の災害により就業能力が恒久的に減退した場合に、活動補償金・傷病補償年金の上乗せ給付として、従前所得に応じた額を支給する労災補償などがあります。
■高齢者に対する経済的保障
老齢年金、遺族年金のほか、老齢年金の受給額が低額な者などのための年金受給者住宅手当、年金受給者特別住宅手当、高齢者生計費補助などがあります。
●老齢年金
1999年の制度改正により、賦課方式で運営される所得比例年金と積立方式で運営される確定拠出型のプレミアム年金を組み合わせた仕組みに再編されました。年金額が一定水準に満たない者には、国の税財源による保証年金制度が設けられています。また、2021年9月からは、新たな高齢者向けの所得保障として補足年金が導入されました。この補足年金は、所得比例年金の月額が140,466円から265,306円までの者に対して支給されるます。ただし、この支給要件として算定される所得比例年金額は、65歳から支給された場合における金額であり、繰上げ又は繰下げ受給による年金額の変化は考慮されていません。
■公衆衛生施策
●保健施策
2021年のスウェーデン国民の平均余命(出生時)は男性81.2歳・女性84.8歳、乳幼児死亡率は千人当たり1.85人となっており、世界最高水準の健康・衛生状態を誇っています。一方、公衆衛生上の課題に対応する目標として、政府が2003年に策定し、2008年に更新した「新たな公衆衛生政策」があります。この中では、「社会への参加と働きかけ」「(国民各人の)経済的・社会的条件」「児童・若者の発育環境」「職場における健康」「環境・製品」「保健医療サービスにおける健康推進方策」「疾病拡大の防止」「性・リプロダクティブ・ヘルス」「身体的運動」「食習慣・食べ物」「たばこ、麻薬、 薬物、賭博」という11の重点分野を設定しています。 2014年には、公衆衛生に関する科学的知見の蓄積と普及、感染症等の公衆衛上の脅威からの国民の保護等を目的として、公衆衛生庁が設置されました(国立公衆衛 生研究所及び感染症研究所を統合)。
●医療施設
医療提供は、レギオンによる公営サービスが中心であり、このため伝統的に医療機関の役割分担が明確になっていた。具体的には、特に高度先進的な医療を提供する 圏域病院(regionsjukhus)が全国7つの保健医療圏に計7つ(いずれも大学病院)あり、 またレーン(一つのレギオンが設置される地理的範囲)ごとに当該レーン全体をカバーす るレーン病院(länssjukhus)と、レギオン内を複数の地区に分けてカバーするレーン地区 病院 (länsdelssjukhus)があり、さらにプライマリケアを担当する計1,178の地域医療 センター(vårdcentraler:うち民間事業者の経営によるものが530)がある(2021年)。 ただし、近年では効率化のために一部の地域で医療機関の機能的な専門分化を図 っているために、医療機関間の階層的な役割分担は次第に以前に比べて曖昧になっ てきている。1991年当時、ランスティング(現レギオン)に属する病床数は全国で約9 4,000床(人口千人当たり10.8床)であったが、2020年には約21,200床(同 2.0床)まで減少しており、1992年に実施されたエーデル改革で約31,000床が 福祉施設としてコミューンに移管されたことや1995年の精神保健福祉改革による影 響を考慮しても、1990年代以降病床数が相当程度縮減されている。
(出典)厚生労働省 2022年 海外情勢報告
●医療従事者
職種の専門分化が進んでいるのが特徴です。例えば看護師については、地域医療、 小児科、外科、老年科、救急などの診療分野ごとに専門看護師資格が設けられています。医療従事者数は、全体で約45万人(2021年)となっており、職種や地域による差はあるものの総じて不足しており、人材の量的確保及び資質の向上が重要な課題となっています。
(つづく)Y.H