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スウェーデンは、「北欧の中の日本」と言われるほど両国の国民性には幾つかの共通点があります。例えば、几帳面で真面目・シャイな我慢強い性格のところです。また、グループ内の和の尊重や謙虚さも日本人に通じるところがあります。社会保障制度が手厚い北欧諸国の中でも、スウェーデンは特に育児に対する支援が手厚く、子供の大学までの教育費や18歳までの医療費が無料で、育児休暇などの制度も充実しています。スウェーデンに進出している日系企業の拠点数は、約160社です。なお、2024年3月に北大西洋条約機構(NATO)に正式加盟しました。今回は、スウェーデンの労働施策についてお話しします。
◆雇用・失業対策
■雇用・失業情勢
2020年の新型コロナウイルス感染症の影響により雇用・失業情勢が悪化(失業率は2019年の6.8%から2020年に8.3%に上昇)。2021年以降の経済成長の局面においても改善は見られず、2021年の失業者数(学生・雇用訓練中の者を含む)は48.9万人、失業率は8.8%となっています。また、若年失業率(15歳~24歳)は24.8%であり、他の欧州諸国と同様その対策が課題となっています。また、欧州難民危機を受けて大量に流入した新着難民等の労働市場への統合が大きな課題となっており、2021年におけるスウェーデン生まれの者の失業率が5.4%である一方で、外国生まれの者の失業率は19.5%となっています。なお、就業者数について部門別に見ると、2021年で国(行政実務を担う行政庁(エージェンシー)を含む)が7.5%、県(レギオン。医療、交通等担当)と市(コミューン。教育、福祉等担当)が25.9%となっており、これらを合計した公的部門が全体の約3割と大きな比重を占めています。
■基本的方向性
スウェーデンの福祉国家モデルは人々が可能な限り労働市場に入って就労し経済成長に寄与することがその前提・基礎となっています。税制や社会保障制度を、個々人の就労を促進・支援する形で整備するとともに、「完全雇用」を政策目標として、失業者に対しては社会保険給付や失業手当により一定の所得を保障しつつ、求職支援や職業訓練、事業主への助成等を行う積極的労働市場政策を展開し、その労働市場への早期復帰と市場が求める人材の供給(競争力の高い産業分野への人材の移転)に注力してきました。
社会民主党政権では、スウェーデンの失業率を2020年までにEU域内で最低水準にすることを目標として掲げ、特に若年失業者対策等に重点を置きつつ、雇用対策を講じ、事業主に対する様々な補助制度に関して、新着難民を雇用した事業主を対象に加える等の支援の強化を図りましたが、失業率の改善には至りませんでした。
■一般雇用対策
“●失業者への支援
雇用仲介庁が全国に公共職業安定所を設置し、失業者に対する求職活動支援、労働市場プログラム等のサービスを提供している。失業者が公共職業安定所に登録すると、まずは職員と失業者共同で職業復帰計画を作成する。その後、同計画を踏まえつつ、職業紹介はもとより、ガイダンスやカウンセリングなどの雇用準備支援や、技能習得のための職業訓練、職場実習(インターンシップ)、起業支援などの数週間から6か月程度の労働市場プログラムの提供が行われる。16歳から24歳までの若年者に対しては、特別の若年者雇用保障プログラム(Jobbgaranti för ungdomar)において職業訓練や職業相談等が提供されている。また失業保険給付期間満了後、14か月以上再就職できない長期失業者等に対しては、雇用能力開発保障プログラム(Jobb-och utvecklingsgranti:JUG)が提供されている。雇用仲介庁が提供する各種プログラム受講中は社会保険庁(Försäkringskassan)から活動支援手当(Aktivitetsstöd)又は能力開発手当(Utvecklingsersättning)が支給される(財源は事業主が負担する労働市場税等)。支給金額は、25歳以上の場合、失業手当の受給資格を満たしている者には失業手当相当額が、失業手当の受給資格を満たしていない者には日額223クローナが活動支援手当として支給される(最長450日間)。18歳以上24歳以下の場合、失業手当の受給資格を満たしている者には活動支援手当として失業手当相当額が、失業手当の受給資格を満たしていない者には能力開発手当として日額168クローナ(高卒未満の者は日額57クローナ)が支給される。活動支援手当支給期間中は、失業手当は支給されず、同期間は失業手当の受給期間から差し引かれる。なお、活動支援手当は課税対象となる給付(年金額の算定根拠となる給付)であるが、能力開発手当は課税対象とならない。
なお、雇用仲介サービスについては、2019年11月に民営化の方針が発表された。民間事業者が全国に定着するまで公共職業安定所によるサービス提供が一時的に続けられることとされており、2020年から順次着手することとしていたが、2019年12月に野党らの反発を受け2023年以降への延期の方針が示されている。一方、2020年4月より「習得とマッチング」(Rusta och matcha)プログラムを開始し、民間事業者を活用した就職困難者に対する職業訓練や職業紹介等のサービスを積極的に行っている。
(出典) 厚生労働省 2022年 海外情勢報告 ”
- 事業者への助成を通じた支援
長期失業者や新着難民の雇用を促進させるため、無期・有期を問わずこれらの者を採用した事業主に対する補助が行われています。ニュースタートジョブ制度においては、一定期間離職していた者を雇用した事業主に対して、当該労働者への支払賃金に係る事業主税(2022年は31.42%)を基礎に算定された金額の補助が税口座を通じて行われています。支払賃金月304,600円が算定にあたっての上限額として設定されています。対象となる労働者の離職期間や補助の水準・期間などは離職者の年齢によって区分されています。なお、2022年1月から、55歳以上の労働者への補助期間を2倍とする見直しが実施されました。そのほか、訓練付雇用を行う事業主に対する助成制度を2014年より実施しています。 - 労働移動支援
次の就職先を探すため、労働者の相談や職業紹介等の支援を事業者及び労働者に対して提供する雇用保障協議会が、労使協約に基づいて設置されています(事業主は労働者の給与の一定割合を同協議会に対して拠出)。人員削減や健康上の理由により離職が予定されている労働者や有期雇用の労働者は、離職前から次の就職先を探すための相談や紹介を受けることが可能となっています。また、労働者に対する解雇手当も雇用保障協議会から支払われています。
給付額は協議会によって異なるものの、失業手当との調整がなされ、失業手当の上限額を超える部分の補足として支払われます。主な雇用保障協議会は、約110万人のホワイトカラー労働者を対象としたTRR、約200万人のブルーカラー労働者を対象としたTSL等があります。2022年10月より新たな雇用保障協議会制度が開始され、労働協約の対象外となっている労働者(スウェーデンの労働者全体の約1割)についても、過去1年間に週16時間以上就労している場合には、こうした労働移動の支援を受けられる制度が開始されました。また、同時に、労働移動に備えて教育訓練を行う場合の費用について、その80%を補助(物価基礎額の4.5倍が上限)する制度も開始されています。
以上
(つづく)Y.H
(出典) 厚生労働省 2022年 海外情勢報告