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海外進出日本企業で働く人々_スウェーデン_社会保障施策

投稿日:2024年7月17日 更新日:

キャリアコンサルタントが知っていると有益な情報をお伝えします。

スウェーデンは、「北欧の中の日本」と言われるほど両国の国民性には幾つかの共通点があります。例えば、几帳面で真面目・シャイな我慢強い性格のところです。また、グループ内の和の尊重や謙虚さも日本人に通じるところがあります。社会保障制度が手厚い北欧諸国の中でも、スウェーデンは特に育児に対する支援が手厚く、子供の大学までの教育費や18歳までの医療費が無料で、育児休暇などの制度も充実しています。スウェーデンに進出している日系企業の拠点数は、約160社です。なお、2024年3月に北大西洋条約機構(NATO)に正式加盟しました。今回は、スウェーデンの社会保障施策についてお話しします。

■社会保険制度
● 概要
社会保険の範囲は、日本とは異なり、年金など社会保険料で費用が賄われる給付だけでなく、児童手当、住宅手当など一般財源で費用が賄われる各種の手当も含んで用いられています。また、労災保険も含みますが、失業保険は含まれません。給付内容は現金給付が中心であり、日本の医療保険や介護保険のように、主としてサービス費用を賄うための制度ではありません。

社会保険制度は、自営業者を含めて基本的に職域の別なく、スウェーデンに居住する全住民に適用されます。また、給付水準は所得制限を設けず、従前賃金の一定水準を保障するという形態が多いです。なお、社会保険庁は給付の支給に係る事務のみを取り扱い、社会保険料の徴収事務は国税庁が国税、地方税などの徴税と一括して実施しています。社会保険給付は、その対象によって、①家族・児童への経済的保障、②傷病・障害に対する経済的保障、③高齢者への経済的保障の3つに分類されます。日本の状況と比較すると、社会保険給付全体のうち①の占める割合が高いことが特徴的です。なお、2011年1月、社会保険法典が施行され、31の社会保険関係の法律が一つに統合されました。これは、概念・用語の整理、制度の透明性・わかりやすさの向上を目的とし、各制度の支給内容等を変更するものではありません。

  •  家族・児童への経済的保障
    〇両親保険
    育児期間中の経済的支援策として、育児休業期間中の所得保障を行う両親保険制度があります。両親保険の財源は使用者の保険料(両親保険料)です。両親保険の給付は、妊娠手当、両親手当、一時的両親手当から成り立っています。

(妊娠手当)
女性が妊娠により身体的に負担がかかる仕事に就くことができない場合で配置転換もできない場合に、出産予定日の60日前から11日前までの間支給されます(従前所得の80%相当額(日額上限11,727円))。

(両親手当)
子の出生・養子縁組に際し育児休業をした期間について合計480日間支給される。父親・母親はそれぞれ240日間の受給権を有するが、そのうち各90日間(いわゆる「パパ月・ママ月」)を除けば、父親・母親間で受給権を移転できる。出産10日前(父親など妊娠していない方の保護者は、子育てセミナーの参加や妊娠しているパートナーの見舞いなどの場合において出産60日前から取得可能)から子が4歳になるまで受給することが可能であり、その支給額は480日間のうちの390日間までは従前所得の80%相当額(日額上限1,027クローナ。従前年収が低い場合は最低保障額として日額250クローナ)が支給される。残り90日間については年収に関わりなく一律日額180クローナが支給される(金額はいずれも2022年)。なお、学校行事への参加等子が成長した後の両親の休暇取得ニーズに対応するとともに、両親によるケアの必要性の高い幼児期に両親手当の大部分を受給するようにするため、2014年1月1日以降に生まれた子については、受給期限は12歳になるまで又は小学校の第5学年を修了するまでに延長され、4歳以降に受給可能な日数は最大96日間とされた。両親手当は、勤務時間を短縮(パートタイム勤務)して通常の勤務時間の4分の1、2分の1、4分の3又は8分の7だけを勤務した場合に、4分の3、2分の1、4分の1又は8分の1の支給額を受給することも可能である。また、2012年からは子が0歳の間、30日間は両親が同時に両親手当を受給することが可能となった。なお、390日のうち「パパ月・ママ月」分を超えて両親のそれぞれが取得した育児休業日数をもとに、1日当たり50クローナ、最大計10,500クローナを両親手当に上乗せして支給する均等ボーナス(Jämställdhetsbonus)は、男性の育児休業取得日数の増加に十分な効果をあげていないとして、2017年1月に廃止された。
(一時的両親手当)
原則として生後8か月以上12歳未満の子の看護や通常子をみている者が病気である場合の休業期間について子1人当たり年120日間まで支給(両親手当と同額)される。ただし、通常子をみている者の病気を理由とした休業補償については年60日間が上限。このほか、出産後、子が自宅に居住し始めてから60日を経過するまでの間、父親は、出産の付き添い又は別の子の世話等のための10日間の休業(1/4日、1/2日、3/4日の部分的な休業も可能であるため、20日間の半日休業等も可能)の権利が付与されており、同期間にも一時的両親手当の受給が認められている。なお、多子の場合は、子一人につき10日間の休業となり、養子縁組の場合は、両親それぞれ5日間の休業となる。

(出典)厚生労働省 2022年 海外情勢報告

〇児童手当
児童手当、延長児童手当、付加的児童手当(多子加算)からなり、基本的に国内に居住する16歳未満の子を持つ親は、子1人当たり月額19,037円の児童手当を受けることができます。延長児童手当は、子が16歳を過ぎても義務教育相当の学校に通っている間(最長18歳まで)支給されます。さらに、複数の子を持つ親に対しては、子の人数分の基礎手当に加えて、人数が増えるごとに多子加算(第2子2,284円、第3子8,833円、第4子15,382円、第5子以降19,037円)が加算されます。例えば、子が3人の場合、基礎手当57,111円(19,037円×3人)に、多子加算11,117円(2,284円+8,833円)が支給されます。

〇 住宅手当
子のいる家庭と18歳以上28歳以下の子のいない若年者を対象に、子の数、住居の大きさ、所得に応じた額を支給するものであって、所得制限があります。約8.8万件が女性の単親又は独身世帯(平均月額37,343円)、約2.9万件が男性の単親又は独身世帯(同23,789円)、約3.9万件が夫婦同居家庭(同37,313円)に支給されており(2021年12月)、母子・父子家庭に対する経済的支援の制度として機能しています。また、支給額ベースで見た場合、約61%が女性の単親又は独身世帯向けです。

〇 その他
離婚した一方の親があらかじめ合意した養育費を支払わない場合に、社会保険制度から支給(立替払)する養育費補助、児童が傷病、障害のために特別な介護などが必要な場合に支給される障害児介護手当があります。養育費補助の月額上限は、7歳までの児童に対する上限は25,479円、7歳から14歳までの児童に対する上限は27,764円、15歳以上の児童に対する上限は33,856円(いずれも2022年)となっています。
以上
(つづく)Y.H

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