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実践編・応用編

海外進出日本企業で働く人々_イギリス_労働施策 5

投稿日:2024年7月15日 更新日:

キャリアコンサルタントが知っていると有益な情報をお伝えします。

英国の労働施策を紹介してきましたが、今回が最終回です。英国は、ヨーロッパ最大の人口を誇る巨大消費市場やビジネスハブとしての優位性を持ち合わせており、英国政府も外国企業への投資を促進するための税制上のインセンティブを提供しています。例えば他の多くの国に比べて、法人税率が低く設定されていることは良く知られています。そうした中、英国に拠点を持つ日系企業は約960社、最も多く進出しているのが製造業で約330社です。

◆労働組合員数及び組織率
組織率は、男性よりも女性が高い割合で推移しています。部門別の組織率の差は大きく、2021年の公的部門の組織率は50.1%である一方、民間部門は12.8%でした。

  • 労働者団体
    最大の労働者団体は、1868年設立の英国労働組合会議です。加入組合数は48、組合員数は約550万人とされています。
  • 使用者団体
    最大の使用者団体は、1965年設立の英国産業連盟です。

◆最近の動向
■労働者性を巡る指針の公表
雇用権利法及び税・国民保険制度における労働者と自営業者の区分をどのようにするかが大きな論点となっています。2018年に行われたパブリックコメントの結果を受けて、2022年7月にビジネス・エネルギー・産業戦略省は就業者の労働法における法的地位についての方針文書及びガイダンスを公表しました。また、Uberなどのプラットフォーム労働者に対する最低賃金の適用にあたり、労働時間に関するガイダンスも公表されました。

  • 雇用権利法における就業者の法的地位についての方針文書
    雇用権利法における被用者、労働者、自営業者の3区分については、大多数の者に対して機能しているとの見方を示し、一部の就業者にとっての曖昧さに対処するために新たな枠組みを作ることの利益は、法改正によって生じ得る追加的なコストや不確実性に比して小さいこと、また具体的にどのような形で法改正を行うかについて、パブリックコメントの中で関係者の意見の一致が見られなかったことから、新たな法改正は行わないことを示しました。一方で、適用される区分についてより透明性を高めるために、雇用権利法における法的地位に関するガイダンスを公表しました。
  • 雇用権利法における就業者の法的地位に関するガイダンス
    雇用権利法における就業者の法的地位に関して、判断基準の明確化をはかることを目的に、人事や法律の専門家等向け、就業者向け、事業主向けの三種のガイダンスが、上記方針文書とあわせて公表されました。法的地位をめぐる判例等の蓄積を踏まえて、主な判断要素などを具体的な事例を交えて説明するとともに、被用者や労働者に保障される権利を列挙しています。特に、就業者向け及び事業者向けのガイダンスは以下のとおりで、被用者の可能性が高い場合、労働者の可能性が高い場合、自営業者の可能性が高い場合についてそれぞれ列挙されています。

“○被用者(employee)の可能性が高い場合
・雇用主、管理者または監督者がおり、当該就業者の仕事量や、就業者がどのように仕事を遂行すべきかについて広範な管理権限がある。
・就業者は休暇を取得しているのでない限り、定期的に就業することが要求されている。
・就業者に対して最低限の労働時間数働くことが求められている。就業者は労働時間分の報酬を支払われることを期待している。
・就業者は事業主から仕事が継続的に提供されることが期待できる。事業主は仕事を提供する義務があり、就業者側には仕事として提供された労働を実施する義務がある。
・就業者自ら仕事を行うために雇用されており(自身による役務の提供)、就業者のために仕事を行う他者を派遣すること(代替要員の派遣)については限られた権限しかない。
・就業者は仕事のために自らの装備を提供または使用しない。就業者は賃金として支払いを受けており、就業者自身の金銭的リスクは限定的である。(例えば仕事の完遂ではなく決まった労働時間働くことに対して報酬が支払われている。)
・税制・国民保険の適用において被用者として扱われており、就業者の報酬に対して源泉徴収が行われている。

〇労働者(worker)の可能性が高い場合
・就業者は仕事の場所、時間、分量について相当の裁量を持っている。通常は仕事を受けられる状態であることを義務付けられていない。就業者は同意した仕事について労働を実施する。
・就業者が仕事に従事している間は一定程度事業主の管理下に置かれる。(例えば、小包の配達において推奨経路に従うことを求められる、利用者から評価を受け低評価の場合にはペナルティが課される、業務中の制服着用が義務づけられている、顧客に笑顔で対応する旨指示されている、等)
・就業者が事業主のために実施する仕事は多くの場合臨時的である。(例えば、仕事があまり定型的でなく、定期的な、保証された労働時間がない)
・就業者の仕事に対する報酬は、就業者と事業主の交渉によってではなく、事業主によって設定されている。
・就業者自ら仕事を行うために雇用されており(自身による役務の提供)、就業者のために仕事を行う他者を派遣すること(代替要員の派遣)について限られた権限しかないか、実際上の権限がない。
・就業者の業務が事業主の事業と不可分である。(チームの他のメンバーを支援している、事業主による懲戒手続きが適用されうる、など。)
・自らを自営業者と考える人々がするような、就業者自らが自身のサービスについて積極的に営業活動を行う傾向がない。

〇自営業者(self-employed)の可能性が高い場合
・就業者が自らの仕事の時間、場所、方法について相当の裁量を持っている。
・就業者は事業の成否について責任があり、金銭的な損失・利益を得る可能性がある。
・自分のために仕事を行う他者を制限なく派遣することができる。(自身でサービスを提供しなくともよい。)
・就業者は仕事の報酬について交渉することができる。(例えば、複数の顧客のために働くことができ、異なる対価を請求することができる。)
・就業者自身が、事業のための資産や運営費、必要な器具や装備を購入している。就業者が行う仕事が顧客事業主の事業と不可分ではない。(例えば、顧客事業主の会社の電子メールアドレスを持たない、顧客事業主の会社の懲戒手続きの対象とならないなど。)また、料金や価格が気に入らなければ就業者は仕事を断ることができる。

本ガイダンスはあくまで参考としての情報であり、法令を変更するものではない。

(出典)厚生労働省 2022年 海外情勢報告

  • プラットフォーム労働者の労働時間に関するガイダンス
    プラットフォーム労働に関しては、労働者とみなされた場合に労働時間の範囲をどこまでとするかが問題となっていました。政府は、最低賃金制度の算定方法に関するガイダンスに追加の説明を設けることで、明確化を試みています。労働時間とみなされる可能性が高い時間として、以下の例を挙げています。
    – 労働者がアプリないしプラットフォームにログインすることを義務付けられている時間。例えば事業主が労働者に対して、特定の時間・時間数においてアプリないしプラットフォームにログインすることを指示または要求する場合に、労働者がログインしている時間。
    – 労働者が特定の場所(例えば需要が高い夜の繁華街)にいることを指示又は要求する場合に、労働者がその要件を満たしている時間。
    – 労働者が事業主のための業務を実施している時間。これにはフィードバックの提供や、アプリないしプラットフォームのデータの更新、その他要求される事務的作業を行っている時間が含まれます。
    – 労働者が業務を請け負った後、待機している時間。これには顧客がピックアップ地点に到着するまで労働者が待機している時間や、注文された料理が調理中であり、料理ができあがるまでに待機している時間、顧客を補助している時間などが含まれます。
    – 労働者がピックアップ地点まで移動している時間など、仕事の請負・割り当てが行われた後、労働者が業務の開始地点まで移動するために要する時間。
    – 労働者がピックアップ地点までの移動において足止めされている時間。仕事の請負・割り当てが行われた後、労働者がピックアップ地点に移動する際に車両の故障や交通渋滞などにより遅滞が生じた場合が含まれます。
    – その仕事がキャンセルまたは別の者に割り当てられた場合には、キャンセル・再割り当てが行われるまでの時間が含まれます。
    – 労働者が顧客や物品に対する責任を負っている時間。一方で、労働者が排他的に一つのプラットフォームの仕事に従事している場合には、他のプラットフォームにおける労働時間とはみなされない可能性が高いとしています。■柔軟な働き方の拡大を巡る動き
    現在雇用期間26週間以上の被用者には柔軟な働き方を要求する権利が認められています。雇用主は、申請を合理的に取り扱い、原則3ヶ月以内に返答しなければならないとされています。2022年12月、政府は柔軟な働き方について拡大する方針を示しました。主な内容は以下のとおりです。
    – 現在は、柔軟な働き方を要求する権利がある者を雇用期間が26週間以上の被用者としていますが、これを全ての被用者に拡大すること。
    – 雇用主に対し、被用者からの要求を拒否する前に被用者と代替措置がないか話し合いの場を持つことを義務づけること。
    – 被用者に対し、柔軟な働き方を要求する権利を12か月当たり2回認めること。
    – 雇用主は2か月以内に返答しなければいけない(現行の3か月以内から短縮)こと。
    – 被用者に従来求められていた、自らが柔軟な働き方を行うことによる雇用主に対する影響の 説明義務を廃止すること。

    2023年3月現在、改正内容を盛り込んだ法案が上院で審議中です。

    (つづく)Y.H

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