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実践編・応用編

海外進出日本企業で働く人々_イギリス_労働施策 4

投稿日:2024年7月3日 更新日:

キャリアコンサルタントが知っていると有益な情報をお伝えします。

前回に続き、英国の労働施策の4回目です。英国は、ヨーロッパ最大の人口を誇る巨大消費市場やビジネスハブとしての優位性を持ち合わせており、英国政府も外国企業への投資を促進するための税制上のインセンティブを提供しています。例えば他の多くの国に比べて、法人税率が低く設定されていることは良く知られています。そうした中、英国に拠点を持つ日系企業は約960社、最も多く進出しているのが製造業で約330社です。

◆解雇規制
■個人的理由による解雇(普通解雇)
1996年雇用権利法により、不当に解雇されない権利が認められています。

  • 解雇予告
    被用者による暴力や窃盗などの不法行為を理由とした場合を除き、事業主が被用者の解雇を行う場合には、①勤続期間が1か月以上2年未満の者の場合は1週間、②勤続期間が2年以上12年未満の者の場合は勤続年数×1週間で計算した期間、③勤続期間が12年以上の者の場合は12週間の予告期間が必要です。
  • 解雇手続
    勤続期間が2年以上の被用者が解雇事由の開示を要求した場合には、2週間以内に書面により開示しなければなりません。出産休暇中の被用者を解雇する場合には、被用者からの要求の有無、勤続期間に関わらず解雇理由を書面で開示しなければならないことになっています。

判断基準
労働組合員資格や活動、妊娠や出産、安全衛生活動、制定法上の権利の主張等を理由とする解雇は自動的に不公正解雇(Automatic unfair dismissal)とされる。これ以外の場合であって、解雇が、①被用者の職業的な能力や資格に関するものであること、②被用者の非行に関するものであること、③被用者が剰員であること、④被用者をその仕事に就かせることが法律上の定めに違反すること、⑤その他解雇を正当化できる実質的な理由であること、のいずれかに基づくことを事業主が証明し、かつ事業主の取った行動・対応が合理性を有すると認められる場合には、解雇の公正さが認められる。(出典)厚生労働省 2022年 海外情勢報告

  • 救済
    勤続2年以上の被用者は、不公正解雇について雇用審判所へ不服申立てを行うことができます。雇用審判所へ不服申立てを行う前に、助言あっせん仲裁機構で訴訟前調停手続を行うこととされています。雇用審判所は、不公正解雇と認められる場合には、①職場復帰または再雇用の命令、②補償金などといった救済を与えます。

■経済的理由による解雇(整理解雇)
1992年労働組合労働関係法及び1996年雇用権利法により、一定の規制がなされています。

被用者代表との協議
90日以内に同一の事業所(establishment)において20人以上の解雇を行う場合には、事業主は労働組合等と事前に協議を行わなければならない。具体的には、
①同一の事業所において100人以上の被用者を解雇しようとする場合には、最初の解雇が実施される日より45日以上前に、
②同一の事業所において20人~99人の被用者を解雇しようとする場合には、最初の解雇が実施される日より30日以上前に、
独立し、かつ事業主により承認された、当該被用者が加入する労働組合(ない場合には被用者代表または被用者本人)と協議を行うことが義務付けられている。
事業主は労働組合等との協議に際し、①解雇の理由、②解雇予定人数とその種類、③選別の方法、④解雇の実施方法、⑤剰員整理手当の額の算出方法について、書面にて通知しなければならない。

(出典)厚生労働省 2022年 海外情勢報告

  • 政府機関に対する整理解雇の届出
    20人以上の解雇を行う場合には、剰員整理手当サービスに対して、①同一の事業所において100人以上の被用者を解雇しようとする場合には、最初の解雇が実施される日より45日以上前に、②同一の事業所において20人~99人の被用者を解雇しようとする場合には、最初の解雇が実施される日より30日以上前に、届出を行わなければなりません。なお、当該届出は、個別の被用者に解雇通知が送付される前に行われる必要があります。
  • 剰員整理手当
    1996年雇用権利法における被用者は、事業主に対して剰員整理手当を請求することができます。ただし、同手当の権利が発生するのは、勤続期間が2年以上の場合のみです。法定額は、
    ①22歳未満の勤続期間1年につき0.5週間分の賃金相当額
    ②22歳以上40歳以下の勤続期間1年につき1週間分の賃金相当額
    ③41歳以上の勤続期間1年につき1.5週間分の賃金相当額
    を合計した額となっています。ただし法定額については、算出に用いる賃金相当額の上限として週114,200円、総額の上限として3,426,000円(それぞれ2022年4月6日以降の額)が設定されています。

◆仕事と家庭を両立するための施策
■概要
1996年雇用権利法における被用者は、出産休暇・父親休暇・両親共有休暇(出産休暇の代わりに取得可能)・親休暇といった休暇を取得することができます。出産給付等の給付については、1996年雇用権利法における地位によらず、被用者として第1種国民保険料を納付していた場合に受け取ることが可能です。また、子を持つ親には児童手当が支給されます。

■出産時の母親に対する休暇・給付
●出産休暇
母親が1996年雇用権利法における被用者である場合、最大52週間60の出産休暇が認められています。

  • 法定出産給付
    出産予定週の15週間前の時点で同じ事業主に連続して26週以上雇用されており、かつ賃金要件を満たしている場合には、法定出産給付の対象となります。法定出産給付が支給される期間は最長39週間となっており、最初の6週間は平均賃金の90%が、残りの33週間は週31,332円(2022年度)が事業主から支払われます。なお、事業主は法定出産給付の支払い分について、税、国民保険料の支払いから控除することができます。
  • 出産手当
    法定出産給付の受給要件を満たさない場合、出産予定日までの66週間のうち26週間就労しているか、自営業者で国民保険料の納付要件を満たしている場合で、13週間以上週6,000円以上の収入がある場合、ジョブセンター・プラスを通じて出産手当を受給できます。出産手当の給付期間及び支給額は、39週間、週31,332円(2022年度)です。

■父親休暇・父親給付
●法定父親休暇
母親の配偶者・パートナーは、出産予定週の15週間前の時点で同じ事業主に1996年雇用権利法における被用者として連続して26週以上雇用されている場合、出産後8週間以内に1週間または連続した2週間の法定父親休暇を取得できます。

  • 法定父親給付
    出産予定週の15週間前の時点で同じ事業主に連続して26週以上雇用されている場合で賃金要件を満たす場合対象となり、週31,332円(2022年度)を事業主から受け取ることができます。

■両親共有休暇・給付
ー両親共有休暇(Shared Parental Leave)
子の出生後2週間68以降、母親が取得または受給できる出産休暇の代わりとして、パートナーが交互または同時に、最小1週間単位で最大50週まで両親共有休暇を取得できる。両親とも出産予定日の15週間前の時点で同じ事業主に1996年雇用権利法における被用者として26週間以上雇用されており、かつ休暇取得開始時に同じ事業主に雇用され続けている場合、両親共有休暇を共に取得できる。

ー両親共有給付(Shared Parental Pay)
両親共に、出産予定日の15週間前の時点で同じ事業主に26週間以上雇用され、かつ同じ事業主に雇用され続けており、かつ賃金要件を満たす場合には、法定出産給付の代わりに最大37週分の両親共有給付を受けることができます。給付期間は、法定出産給付の残余期間、事業主からの給付額は週156.66ポンド(2022年度)となっている。
(出典)厚生労働省 2022年 海外情勢報告

■親休暇
対象者は、1年以上継続して1996年雇用権利法における被用者として雇用され、かつ子に対して責任を有する者です。実親、養親を問いません(ただし、里親は対象とならない)。休業期間は、1人の子につき、子が18歳となるまでの間の18週間です。ただし、1人につき1年間に最大4週間までとされ、取得は原則として1週間単位となります。休業給付はありません。

■児童手当
16歳未満の子(一定の訓練または教育を受けている子の場合20歳未満)を持つ親に支給されます。2022年度の児童手当は、週あたり第1子4,360円、第2子以降1人につき2,890円。両親の所得のうち高い額が年額1千万円を超える場合、その超過額2万円ごとに児童手当の1%相当額が課税されます。

(つづく)Y.H

 

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