キャリアコンサルタントが知っていると有益な情報をお伝えします。
(※なお、英国では2023年2月に省庁再編がおこなわれており、ここでの省庁名は再編前のものである点にご留意いただきたい)
英国は、ヨーロッパ最大の人口を誇る巨大消費市場やビジネスハブとしての優位性を持ち合わせており、英国政府も外国企業への投資を促進するための税制上のインセンティブを提供しています。例えば他の多くの国に比べて、法人税率が低く設定されていることは良く知られています。そうした中、英国に拠点を持つ日系企業は約960社、最も多く進出しているのが製造業で約330社です。今回は、英国の労働施策についてお話しします。
◆経済情勢
2020年の実質GDP成長率はマイナス11.0%と、新型コロナウイルスの影響で大きく落ち込みましたが、2021年は7.6%と大幅なプラス成長となりました。ただし、2022年に入りプラス成長は小幅となり、2022年第3四半期には再びマイナス成長に転じています。
◆雇用、失業対策
■実施機関及び一般雇用対策
1.雇用年金省が主に実施しており、訓練に関連した対策は教育省が実施しています。職業紹介や求職者給付などの給付は、公共職業安定機関であるジョブセンター・プラス(雇用年金省の一組織)が行なっており、ワークコーチと呼ばれる雇用年金省職員がパーソナル・アドバイザーとして窓口業務に従事しています。なお、職業訓練など一部の政策に関してはスコットランド・ウエールズ・北アイルランドの各政府に委譲されています。
2.雇用と健康プログラム
このプログラムは、健康上の問題や障害をもつ者などが安定した職に就くことを支援するもので、北アイルランドを除く地域で2017年11月以降段階的に開始されました。対象となるのは、以下の者です。対象者のうち、②に該当する者は参加が義務付けられていますが、①と③に該当する者の参加は任意です。また、福祉給付等の給付は要件とされていません。
①健康上の問題を持つ者、障害を持つ者
②2年以上失業し、求職者給付または普遍的給付を受けている者
③介護している者や退役軍人、ホームレス、難民、アルコール・ドラッグ依存症の者、DV被害者、ギャングに属する若者、前科のある人などの就職困難層
ジョブセンター・プラスが対象者の就職及び就職後の定着支援を民間業者に委託しています。具体的な支援内容は委託業者に任されており、原則として15か月間経過後仕事が得られない場合には、ジョブセンター・プラスでの求職支援活動に戻ります。
トライアル雇用
週当たり労働時間が16時間以上で雇用期間が13週間以上であることが見込まれる求人について、求職者給付等の給付を受けながら働く機会を求職者に与える制度である。トライアル雇用の期間は、想定される雇用期間が6か月未満の場合最大5日間、同6か月以上の場合は最大30日間とされ、試用される者と事業主であらかじめ合意することとされている。期間中、事業主は賃金を支払う必要はなく、対象者は給付を受け続ける。トライアル雇用の受入れを希望する事業主は、ジョブセンター・プラスとトライアル雇用に関する合意を結ぶ必要があり、トライアル雇用の期間中は当該トライアル雇用参加者以外に当該求人に対する採用候補者がいない状態でなければならない。・ ナショナル・キャリア・サービス
イングランドにおいて、キャリアや学習、就業について情報の提供やアドバイス、ガイダンスを行うサービスで、教育省教育・訓練助成局(Education and Skills Funding Agency)が所管し、民間業者に委託されている。技能に応じた仕事の紹介、教育・訓練の案内、面接スキルの向上や適切な履歴書の書き方など求職活動に関するアドバイスを実施している。(出典) 厚生労働省 2022年 海外情勢報告
- 業種別ワークアカデミー
教育訓練、就労体験、面接を組み合わせた最大6週間にわたる就労支援政策で、イングランドとスコットランドにおいてジョブセンター・プラス、訓練機関及び事業者の連携により実施されています。求職者給付等の失業関連給付を受けている者に対して、地域の労働市場の需要に基づき選定された業種において実施されます。参加は任意ですが、適切な理由なく中断する場合は、給付の支給停止の制裁があります。 - 雇用体験
①18歳~24歳の若年者、②25歳以上で最近働いていない者、に対し原則として2~8週間の間、週25~30時間程度、実際の職場で就業体験を実施します。期間中、受入先は給与を支払う必要はなく、対象者は給付を受け続けることができます。雇用体験への参加は任意ですが、職場において窃盗・暴力行為など懲戒免職に値する行動を行った者に対しては、給付の支給停止の制裁があります。
若年者雇用対策
・ ユースオファー
16歳~24歳で普遍的給付の給付申請者で「集中的求職グループ」の者を対象に行われる。ユースオファーでは、「若年雇用プログラム(Youth Employment Programme)」、「若者ハブ(Youth Hub)」又は「若年雇用可能性コーチ(Youth Employability Coach)」のいずれかの支援を受けることができる。若年雇用プログラムは、①業種別ワークアカデミー、②トレイニーシップ、③雇用体験等の支援が提供される13週間のプログラムである。若者ハブは、多様な就職支援サービスを1か所で受けられるようにしたもので、職業能力開発や、履歴書の書き方、面接対策など就職に役立つスキルの習得といった6か月の就職支援プログラムである。若年雇用可能性コーチは、複雑なニーズや就職の障壁がある人向けに、原則として6か月間、履歴書や面接に向けた支援、雇用可能性に向けた取組等を提供するプログラムである。(出典) 厚生労働省 2022年 海外情勢報告
- 学校支援サービス
イングランドの12歳~18歳の生徒を対象にジョブセンター・プラスが学校の希望に応じて仕事に関する講義等のサービスの提供を行なっています。
内容は主に
①養成訓練やトレイニーシップに関する講義、
②地元企業と学校の関係あっせん、
③生徒に対する職場体験の提供、
④地元の雇用機会に関する講義、などとなっています。
- 国民保険料の免除措置
若年者の雇用促進のため、21歳未満の被用者又は養成訓練制度における25歳未満の訓練生を雇用する事業主は、報酬上限額(週19万3,400円(2022年度))までの国民保険料の事業主負担分が免除されます。
トレイニーシップ
イングランドの16歳~24歳の者で規定資格枠組み(RQF)レベル4以上の資格を持っておらず、フルタイムの職に就いておらず、就業経験が全くない、あるいはほとんどない者を対象とする制度である。6週間~1年間の間、無償で実際の職場で働きながら、必要に応じて英語や数学の学習支援を受けることで、就業や養成訓練への参加を目指す。なお、雇用のためのプラン(Plan for Jobs)の下、2020年9月から2022年7月までの間、新規にトレイニーシップの受入を行った事業主に対して1人当たり1,000ポンド(1事業主あたり10人を上限とする)が補助される時限措置が実施されていた。(出典) 厚生労働省 2022年 海外情勢報告
- ニート対策
学校にも、雇用にも、職業訓練にも参加していない16歳~18歳の若年者の対策として、イングランドにおいては2013年以降、16歳でのフルタイム義務教育の終了後、18歳までの2年間の教育または訓練の継続が義務付けられています。
■高齢者雇用対策
2010年平等法により、年齢を理由とする差別は禁止されています。ただし、例えば正当な目的を達成するために正当な理由がある場合には、違法な差別にはならないとされています。2011年10月1日以降、事業主による標準退職年齢の設定は原則としてできないこととされています。政府は高齢者雇用を促進するため、2017年3月に高齢者雇用の必要性や高齢者がよりよい労働生活を送るために推進するべき施策をとりまとめた指針を公表したほか、高齢者雇用を支援するため必要な情報をまとめたウェブサイトを公開しています。また、政府は「50歳以上の選択」を通じて、高齢者の雇用維持・再訓練・新規雇用の底上げを目指しています。50歳以上の失業者の再就職を支援するため、ジョブセンター・プラスの地域ごとにスタッフを配置し、50歳以上の失業者を雇い入れることのメリットを事業主に広報するなどの活動が行われています。
■障害者雇用対策
障害をもつ者などが安定した職に就くことを支援するプログラムとして雇用と健康プログラム(上記に掲載)が実施されています。 また、就職を支援する取組みとして、各個人に合わせた集中雇用サポートが2019年12月から実施されています。専任のサポートワーカーが、①どのような仕事が可能であるかの特定、②求人に合わせた技能のマッチング、③就職に向けた訓練の紹介、④障害者本人をサポートするネットワークの構築、⑤障害にあわせた仕事の管理、⑥就職後6か月間のサポート、をおこなうもので、通常15か月間提供されます(就職した場合にはこの期間の上限にかかわらず⑥が提供されます)。なお、政府は2017年11月に「生活の改善:雇用、健康、障害の将来」白書を公表しました。同白書では、今後10年間で障害や慢性の健康問題を持つ者の雇用機会を向上させること、数値目標として、今後10年間で障害や慢性の健康問題を持つ者の就業を現在の350万人から450万人に増加させることを掲げています。
(つづく)M.H