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基礎編・理論編

キャリアコンサルティング実践に留意すべきポイント5項目

投稿日:2024年6月19日 更新日:

キャリアコンサルタントが被支援者、被面談者、あるいは従業員と相談をする場合は、その実践に一定の方法があります。厚生労働省が平成13年に発表した「キャリア・コンサルティング技法等に関する調査研究報告書の概要(労働者のキャリア形成支援のためのキャリア・コンサルティング・マニュアルを作成)はちょっと古いのですが、今でも大変に参考になる資料です。タイトルに「労働者」と呼ばれる言葉に引っ掛かりますが、これは法律用語なので「従業員」と置き換えて理解することがよいと思います。

「キャリア・コンサルティングは、従業員の主体性を重視したキャリア形成についての援助プロセスであり、よりよいキャリア・コンサルティングを行うためには、次の5点に留意する必要があります。

第1点目は、前述したように相談の目的が、従業員のよりよい適応と成長、個人の発達を援助すること、すなわち「育てるための相談」であるということです。このことは、従業員本人の成長する能力という潜在的な力を信頼し、本人が主体的に行うキャリア形成を援助者が側面的に支援する過程であるということを意味しています。
第2点目は、職業・職務の選択、今後のキャリア形成の方向の決定、手段の決定など具体的な目標決定を重視しているということです。
第3点目は、相談やキャリア選択のプロセスがシステマティックに進められる必要があるということです。すなわち、自己理解、仕事理解、啓発的経験、キャリア選択にかかる意思決定、方策の実行、職務への適応といった各ステップを明確にしながら相談を進め、相談が現在どの時点にあるのかを労働者と確認しながら進める必要があります。
第4点目は、キャリア・コンサルティングが本人の主体性を重視した育てるための相談(第1点目の留意点)であることから、企業内におけるだけでなく他の社会的な資源を活用することが効果的であるということです。このためには、相談担当者が社会一般の情報や各種の相談機関等の各分野で行われている相談の内容を知るとともに、それらの機関との連携を十分に図っていくことが必要となります。
第5点目は、従業員が安心して、また、積極的に相談できるような環境整備が重要であるということです。
従業員のキャリア形成ニーズと企業の人材活用ニーズを結びつけるためには、キャリア・コンサルティングの結果について企業側と従業員側が情報を共有することが必要なのは言うまでもありません、しかしながら、ここで留意しなければならないことは、従業員には企業側に知られたくない事情(例えば、昇進などに影響する個人的状況、職場の中での不満等)があるかもしれないということです。
従って、キャリア・コンサルティングを円滑に実施するためには、キャリア・コンサルティングの結果がどのように利用されるのかについて明確なルールを決めておくこと、必要に応じて企業側から一歩距離置いた外部の専門家の活用も検討することなどの配慮が必要です。
また、キャリア・コンサルティングの実施時期も企業内の人事異動スケジュールなども考慮に入れて決める必要があります。

引用 キャリア・コンサルティング技法等に関する調査研究報告書の概要 (mhlw.go.jp)

さらに、相談を始めるにあたって、物理的、精神的両方の意味で場作りを進める必要があります。
ここでは、組織内だけでなく、一般的なキャリア・コンサルティング部屋づくりから始まっての具体的事例を紹介します。

■物理的環境の整備
物理的環境の整備は、キャリアコンサルタントの職業倫理とも関連していることです。相談業務を行う場合、それが1対1でもグループであっても、面接をする場は安全で来談者が安心して相談ができる場所を用意しなければなりません。個室が理想的です。外が見える窓がある場合には、カーテンかブラインドで外が見えないように(外から見えないように)したほうがいいでしょう。部屋には椅子とテーブルを用意し、椅子は来談者が落ち着ける場所に座れるように、最低でも4つはあったほうがいいでしょう。来談者の緊張度が高い場合には正面から向かい合うより、斜めあるいは横に座ったほうが来談者は落ち着きます。外部と遮断された個室が用意できない場合は、パーティションなどで仕切りをつくり、他人からは見えないように配慮しなければなりません。

このような場づくりによってプライバシーを守ることが、キャリアコンサルタントには倫理として課せられています。話していることを他人が聞き取れるような場所は、相談の場所としては不適切です。

■心理的な親和関係(ラポール)の形成
相談を行うにあたって、まずキャリアコンサルタントがしなければならないことは、ラポールの形成です。来談者が話してみようという気持ちにならなければ、相談は始まらないからです。相談したいことがあって相談に来たとしても、実際に相手の顔を見たら話せなくなってしまうことはよくあることです。

挨拶(守秘義務の件を述べることも含む)、笑顔、アイコンタクト、服装などとともに、積極的傾聴のスキルで説明したように、受容的な態度で接することにより、心理的な親和関係をつくることができます。

■キャリア開発・形成およびキャリア・コンサルティングに係る理解の促進
キャリアコンサルタントはキャリア開発・形成は来談者自身の生き方の問題であり、したがって来談者のキャリア開発・形成の主体はあくまでも来談者自身であること、同時に最終的な意思決定は来談者自身に委ねられる(自己決定・自己責任)ことをきちんと伝え、来談者がそれを理解できるように説明しなければなりません。

さらに、キャリアコンサルタントの支援には限界があることなど、キャリアコンサルティングの目的や前提を明確に説明して来談者の理解を得なければなりません。

■相談の目標、範囲等の明確化
キャリアカウンセリングとして相談を引き受けることは一種の契約ですから、キャリアコンサルタントは相談を実施する際には、来談者の相談内容、抱えている問題、置かれた状況などを正確に把握し、整理したうえで、相談の到達目標、相談を行う範囲、相談の緊急度や重要度について、相談者との間に具体的な合意を得なければなりません。

特に、相談内容が複雑で多岐にわたっているような場合には、キャリアコンサルタントは一回の面接では終わらない可能性が高くなります。したがって取り上げる問題あるいは課題を整理し、それにプライオリティをつけて相談を進めること、相談が一回では終わらない可能性があること、などについて来談者の合意を得なければなりません。
(つづく)A.K

-基礎編・理論編

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