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実践編・応用編

海外進出日本企業で働く人々_イギリス_社会保障施策 2

投稿日:2024年6月13日 更新日:

キャリアコンサルタントが知っていると有益な情報をお伝えします。

前回に続き、英国の社会保障施策の2回目です。英国は、ヨーロッパ最大の人口を誇る巨大消費市場やビジネスハブとしての優位性を持ち合わせており、英国政府も外国企業への投資を促進するための税制上のインセンティブを提供しています。例えば他の多くの国に比べて、法人税率が低く設定されていることは良く知られています。そうした中、英国に拠点を持つ日系企業は約960社、最も多く進出しているのが製造業で約330社です。

■公衆衛生施策
1.地域保健サービス
地域保健サービスは、病院サービス、一般家庭医サービスと並ぶ国民保健サービスの柱の一つです。従来は、各地域に設置されていたプライマリ・ケア・トラスト(PCT)が地域保健サービスを提供していましたが、2012年国民保健サービス改革法により、多くの地域保健サービスの提供は、2013年4月から地方自治体の責務とされ、それまでPCTに雇用されていた保健師等の多くは地方自治体に移籍しました。保健師は、疾病予防や健康指導に当たり、地域看護師は、患者の自宅を訪問して包帯の交換、注射、投薬管理を行ないます。また、一般家庭医サービスにおいても、一般家庭医が予防活動等に積極的に関わることが促進されており、地域保健サービスに従事する保健師等と一般家庭医は診療施設を共有したり、連絡したりしながらサービス提供に当たっています。こうした地域保健サービス、一般家庭医サービスとして、健康診断、事後指導等による母子保健サービス、学校保健サービスや、訪問看護師による訪問、保健指導、看護サービスの提供等による老人保健サービス、障害者保健サービス、精神保健サービスのほか、予防接種、家族計画の指導等が実施されています。

  • 医療施設
    国民保健サービスにおいて、英国に合法的に居住する者は、国籍にかかわらず、一般家庭医に登録することができます(短期訪問で24時間以上3か月未満の滞在となる場合、一時患者として登録可能)。救急医療の場合を除き、あらかじめ登録した一般家庭医の診察を受けた上で、必要に応じ、専門医を受診し、入院等する仕組みとなっています。医療施設は、主に一般家庭医の開設する診療所と国民保健サービス病院から成り立っています。

3.医療従事者
医師として診療に従事するためには、全国医事協議会に登録する必要があります。また、看護師又は助産師としての業務に従事するためには、看護師・助産師協議会に登録する必要があります。医師の登録数は359,393人(2023年3月)、看護師・助産師の登録数は771,445人(2022年9月)となっています。英国の国民保健サービス病院等で働いている医師は141,536人、看護師・保健師・助産師は392,173人(2022年11月)、また、プライマリ・ケアで働く一般家庭医は45,902人、看護師は23,358人となっています(2022年12月)。

 

4.薬事
医薬品の承認は、医薬品医療製品規制庁(MHRA)が実施している。また、MHRAにより、必須薬品についてのアクセスを加速するためのEAMS(Early Access Medicine Scheme)という仕組みが設けられている。薬剤師や薬局に関する規制・監督は、全国薬事評議会(General Pharmaceutical Council)が実施している。医薬分業が徹底されており、一般家庭医が原則一般名で処方した薬を、薬局で調剤する仕組みとなっている。

医薬品は、要処方せん薬、薬局のみで販売できる薬、一般店で販売できる薬に3分類されている。医薬品を入手しやすくするよう、要処方せん薬を処方せんが不要な薬に変更する方針が進められており、解熱鎮痛剤等については、一般店で販売されている。また、2005年4月より、NHS処方せん取扱い薬局についても制限を緩和して大規模販売店等が参入しやすくなったほか、薬剤師による処方、相談指導する場合の報酬の評価など、薬剤師の役割の見直しについても検討が進められ、薬剤師による処方が可能な薬剤の種類が増加し、相談指導に係る報酬の評価基準も改訂され、薬剤師が様々な事項の相談にのることができるようになった。他方、薬剤師の対面販売は義務付けられておらず、薬剤師の関与の下、処方せん薬のオンライン販売も実施されている。なお、MHRAで承認された医薬品がNHSに採用されるためには、別途NICE(国立医療技術評価機構)によって推奨される必要がある。

(出典)厚生労働省 2022年 海外情勢報告

■公的扶助制度
1.概要
現金給付は、拠出制給付(退職年金等)、所得調査なしの非拠出制給付(障害手当等)及び所得調査付きの所得関連給付(所得補助等)に分類され、このうち所得関連給付が公的扶助に相当します。具体的には、所得調査制求職者給付、給付付き税額控除である児童税額控除、就労税額控除等がありますが、これらは多くの場合、後述の普遍的給付制度が置き換えるようになっています。

2.普遍的給付制度
2010年~2015年保守党・自民党連立政権下において、福祉給付への依存を排し、真に支援が必要な者に対して給付を行うとともに、複雑な福祉関連給付の簡素化を行うとの観点から、就労税額控除、児童税額控除、住宅給付、所得補助、所得調査制の求職者給付及び雇用・支援給付を統合した普遍的給付制度を創設しました。雇用年金省は、2024年末までに普遍的給付に統合される全ての給付制度を廃止し、普遍的給付制度へ移行することとしています。

■社会福祉制度
1.高齢者を含む保健福祉サービス
(1)概要
保健医療サービスは国営の国民保健サービスが、福祉サービスは地方自治体が、それぞれその提供に責務を負う仕組みとなっています。福祉サービスについては、地方自治体が個々のサービスごとに申請を個別審査し、当該サービスが必要と判定された利用者に公営のサービスを直接提供する仕組みが採用されてきました。しかし、サッチャー政権の民活・市場競争原理に基づく改革により、1993年以降、地方自治体がケアマネジメントを行うことにより申請者個々の福祉ニーズを総合的に評価し、望ましいサービスの質及び量を具体的に決定した上で、これを最も効率的に提供できる供給者を競争で選び、契約によってサービスを提供する方式が採用されました。これにより福祉分野にも競争が導入され、地方自治体福祉部局の組織も、ケアマネジメント及びサービス調達の決定を行う部門、直営サービスを提供する部門、不服審査や監査を行う部門の3部門に再編され、従来主流であった自治体直営のサービスが縮小し、民間サービスへの移行が進んでいます。

 

(2)高齢者介護
一般に、英国における介護(Social care)支援は、地方自治体から提供される。具体的に支援を受ける手順は、日本の制度に類似している面もあり、概ね以下のような流れで行われる。
・まず、介護施設への入居や介護者による補助など、介護支援を受けようとする者は、地方自治体の実施するニーズ評価(Needs assessment)を受ける必要がある。ニーズ評価では、地方自治体のソーシャル・ワーカー等により、洗濯や料理、着替え等の日常的な生活をこなせるかどうかが確認される。
・ニーズ評価によって支援が必要であると判断された場合、財務評価(Means test)を受けて、地方自治体が支援に要する費用を負担するかどうか確認されることとなる。なお、ニーズ評価の結果、支援が不要と判断された場合でも、地方自治体は地域で受けられるサービスについてアドバイスを行う。
・財務評価では、地方自治体の担当者により、収入、年金、給付金、貯金、資産等を確認される。評価では、以前に所有していた資産等についても質問することができ、評価前に財産を手放したりすることはできない。また、自宅での介護が必要である場合は、自宅の価値は財務評価に含まれることはないが、介護施設(Care Home)への費用を支払う場合には、配偶者やパートナーが住んでいない限り、自宅の価値は財務評価に含まれることとなる。
・貯蓄が23,250ポンド以下であるなど、地方自治体が介護費用を負担する場合、介護支援計画(Care and support plan)とともに、個人予算(Personal budget)が提供される。個人予算とは、必要とされる介護支援を提供するために、地方自治体が支払う金額であり、①地方自治体に管理を委託する、②他の組織(介護事業者等)へ支払う、③特定の指定した者に直接支払う、といった方法から受給方法を選ぶことができる。なお、治療や退院後に最大6週間ケアを提供する場合や、複雑で深刻な健康状態の患者に対してケアを提供する場合には、NHSによって無料でケアが提供されることもある。

(出典)厚生労働省 2022年 海外情勢報告

(3)認知症への取組
2015年2月、キャメロン首相は「認知症に対する行動計画2020」を発表しました。計画では、2020年までに、英国は世界の中で認知症のケアと支援において世界最高の国となること、認知症及びその他の神経関連疾患の研究にとって世界で最高の場所となることを約束しています。また、保健社会省は、2022年5月に、今後、認知症に取り組むための新たな10年計画を策定することを発表しており、同計画では、認知症患者の転帰を改善するために、新薬や新たな科学技術をどのように活用できるかに焦点を当てることとしています。また、現在、神経系疾患のために投入されている研究費について、今後、政府をあげ、更に増額していくことを確認しています。

2.障害者保健福祉施策
(1)身体障害者及び知的障害者
可能な限り地域で自立した生活を可能とするリハビリテーションの理念の下、地方自治体が中心となって、国民保健サービス、教育機関、ボランティア団体等と連携しつつ、デイケア、ホームヘルプサービス、施設、給食、補装具の支給、住宅改造、職業訓練等のサービスを提供しています。また、障害による就労不能を事由とする雇用・支援給付や、重度障害による生活費の加重を補う障害者生活手当等の現金給付があります。

(2)精神障害者
精神保健サービスは国民保健サービスが、福祉サービスは地方自治体が関係諸機関と連携しつつ提供しています。精神保健サービスについては、精神保健スタッフの増員、青少年期の精神疾患が放置されないよう治療に結びつけるチームの設置、急性期患者の抱える「危機」に迅速に対応し無用の入院を回避するチームの整備、女性専用のデイセンターの整備等が図られてきました。2016年度の予算では、障害者サービスについて、就労を中心としつつ、働けない者への支援を拡充し、医療と雇用の連携を進めることを発表しており、その一環として、雇用と健康プログラムが2017年秋以降段階的に実施されています。福祉サービスについては地方自治体が中心となってデイセンター、入所施設等が提供されます。地方自治体の精神ソーシャル・ワーカーは、国民保健サービスの専門家との連携の下、患者及びその家族のカウンセリングを担当するほか、患者に自傷他害のおそれがある等の場合には措置入院の申請なども行なっています。

(つづく)Y.H

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