インドネシアは、ASEAN地域で最も人口が多く、約2億7千万人を擁しています。この巨大の人口が国内市場の規模を拡大し続ける要因となっています。またASEANで最大のGDPを有しており、東南アジアの地域経済において重要な立ち位置にあります。インドネシアに進出している日本企業は約1500社となっていますが、近年の不安定な中国や台湾問題を考慮するとインドネシアへ進出する日本企業は今後まだまだ増えていくだろうと見られています。そんな中、キャリアコンサルタントが日本企業で働く人とコンサル業務でかかわる事も多くなっています。今回は、インドネシアの労働条件施策についてお話しします。
労働条件に関しては、労働法の中で、10人以上の労働者を雇用する企業は就業規則を作成し、管轄の労働当局の承認を受けなければならないとされています。ただし、労働規約を有している企業については、就業規則は不要とされています。
■労働条件対策
●賃金の動向
賃金の伸びは、2019年まで概ね消費者物価の伸びと同程度でしたが、2020年、2021年と前年比でマイナスとなっています。2022年は大幅に上昇しています。
●賃金制度
1.最低賃金
最低賃金は、基本給及び固定手当から構成される固定給について1人当たりの平均消費、物価上昇率、経済成長率等に基づき、州の賃金評議会による最低賃金評価額の検討を経て定められています。また、一定の条件を満たす一部の県・市については独自に最低賃金を定めることができるとされています。
2.賃金構造及びスケール作成義務
全ての事業者は、賃金額決定の基準となる「賃金構造及びスケール」を作成し、全ての従業員に通知する義務を負うこととされています。
3.宗教大祭手当
宗教大祭7日前までに勤続1か月以上の労働者で、勤続1年を超える労働者に対し固定賃金の1か月分以上、勤続1年未満の場合は、勤続月数×賃金1か月分÷12以上を宗教大祭手当として支払うこととされています。
■労働時間・休暇制度
●法定労働時間
法定労働時間は、労働法において週40時間とされています。また、1日当たりの上限として、週6日勤務の場合7時間、週5日勤務の場合8時間と定められています。
●時間外労働
法定労働時間を超えて労働者を働かせる場合、労働者の個別の同意が必要とされている。時間外労働は1日4時間、週18時間を超えてはならないとされている。時間外労働をさせた場合は、最初の1時間は1時間当たり賃金(月賃金の1/173とする)の1.5倍、2時間目以降は2倍払うこととされている。また、休日・祝祭日に出勤させた場合には、労働時間数に応じて1時間当たり賃金の2~4倍を払うこととされている。休日・祝祭日の労働は、上記時間外労働の上限の対象外とされている。なお、管理職など一定以上の職位の労働者は上記規定の適用除外とすることもできるが、適用除外とする場合には労働契約や労働協約等で待遇等を明記する必要がある。(出典)厚生労働省 2022年 海外情勢報告
●休憩時間
4時間の連続した労働時間の後、30分以上の休憩を与えなければならないとされています。
●休暇
年次休暇として、12か月連続勤務した場合に最低12日間与えることとされています。また有給休暇として、慶弔休暇1~3日、病気休暇28日、宗教上の義務に基づく休暇等があります。
■有期雇用契約
雇用創出法及び2021年政令第35号により、契約期間の規定の柔軟化、日雇契約の容認、補償金の支払いの義務化などの変更が行われている。有期雇用契約は以下の①~④のいずれかに該当する業務についてのみ締結できるとされており、永続的な性格を有する業務については、有期雇用契約を締結してはならない。
①完了するのにさほど長期間を要さない、最長でも5年で完了する業務
②季節的な業務
③新製品、新規活動、又は試用実験段階の新製品に関わる業務
④一回限りで終了する業務又は臨時的な性質の業務契約期間は最長5年で、契約で定められた期間終了までに業務が完了しない場合は、使用者と労働者の合意に基づく期間、契約を延長できる。ただし、延長期間を含めた有期雇用契約全体の期間が5年を超えないことが条件とされている。有期雇用契約は日雇契約として実施することもできる。この場合、書面で契約を結ぶ必要があり、また、労働者の勤務日数が1か月当たり21日未満であることが条件で、労働者が3か月連続して月21日以上勤務する場合、日雇契約は無効とされ、雇用関係は無期雇用契約に転換される。いずれの場合も試用期間を設けることは認められていない。使用者は1か月以上勤続した労働者に対し、有期雇用契約の期間終了時に有期雇用契約期間12か月につき1か月分の賃金相当分の補償金を支払わなければならない。
(出典)厚生労働省 2022年 海外情勢報告
●業務請負・労働者派遣
従来労働法において業務委託や派遣労働者が行うことができる業務は、生産工程に直接関係のある業務ではない補足的な業務に限定する旨が規定されていましたが、雇用創出法により当該規定は削除されました。ただし、2022年11月現在細則が定められておらず、詳細は不明です。雇用創出法による労働法改正以前の規定は以下のとおりです。
1.業務請負
労働法において、他の企業への業務の一部委託を書面で締結した業務請負契約を通じて行うことが出来るとされています。他の企業への委託が可能な業務は一定の補助的な業務についてのみ認められており、以下の4要件を全て満たす業務である必要があります。
①業務の管理・実施が主要な業務活動から独立して実施できること
②委託元からの指示の下で実施されること
③全体として委託元企業の補助的な業務であること
④直接的に生産活動を妨げない作業であること
2.労働者派遣
労働法において、派遣労働者は派遣先企業の主要な業務活動や生産過程に直接関係する業務には利用できず、補助サービス活動(①清掃業務、②労働者のための食事提供業務、③守衛業務、④工業及び石油関連業の補助業務、⑤労働者のための交通移動業務)にのみ利用できることとされています。
●労働安全衛生施策
労働安全法(1970年)において労働安全衛生に関する使用者の義務及び労働者の権利・義務が定められています。また、労働法では全ての企業に労働安全衛生マネジメントシステムの適用を義務づけているほか、労働者数100人以上の企業や爆発、火災、有毒ガス等を用いる企業に対しては労働安全衛生委員会の設置が義務づけられています。一方で、国民の安全意識が低いままであることや、法令や規則の運用・執行が十分機能していないことなどが課題として指摘されています。
●労災保険
労働社会保障実施機関により提供される労働社会保障制度の給付(①老齢保障、②年金保障、③労災補償、④死亡補償、⑤失業補償)のうちの1つとして実施されています。なお、通勤途中での事故も労災補償の対象とされています。被保険者数は2,998万人(2020年)と、依然として労働者の多くが適用されておらず、今後の適用拡大が大きな課題となっています。
●解雇規制
労働法において、使用者・労働者・労働組合及び政府はあらゆる手段を用いて労使関係の終了を回避しなければならないとされています。労使関係の終了が回避出来ない場合、使用者は労使関係終了の14日前(試用期間中の場合7日前)までに労使関係を終了する目的及び理由を労働者及び(労働者が労働組合に加入している場合)労働組合に書面で通知することになっています。労働者が書面で労使関係の終了に異議を申し立てた場合には、労使間で労使関係の終了について協議しなければなりません。この協議が合意に至らない場合、使用者は、労使紛争解決機関の決定を受けた場合にのみ、労働者との労使関係を終了(すなわち解雇)することができます。なお、解雇規則は雇用創出法により大きく見直されています。また、労働法において集団解雇に関する特段の規定は設けられていません。
(つづく)M.H