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実践編・応用編

海外進出日本企業で働く人々_インドネシア_雇用施策

投稿日:2024年6月6日 更新日:

インドネシアは、ASEAN地域で最も人口が多く、約2億7千万人を擁しています。この巨大の人口が国内市場の規模を拡大し続ける要因となっています。またASEANで最大のGDPを有しており、東南アジアの地域経済において重要な立ち位置にあります。インドネシアに進出している日本企業は約1500社となっていますが、近年の不安定な中国や台湾問題を考慮するとインドネシアへ進出する日本企業は今後まだまだ増えていくだろうと見られています。そんな中、キャリアコンサルタントが日本企業で働く人とコンサル業務でかかわる事も多くなっています。今回は、インドネシアの雇用施策についてお話しします。

インドネシアの経済成長率は、コロナ禍以前は5%前後で推移していました。コロナウイルス感染拡大の影響で2020年は、マイナス成長になったものの、その後は再び5%台の成長率まで回復しています。雇用対策は、労働省が全国レベルの労働行政を所管しており、州レベルでの労働行政は州政府、また県・市レベルの労働行政は各県・市により実施されています。各地方における財源は、中央政府から州及び県・市に交付される補助金と地方政府の自主財源から成り立っています。

■一般雇用対策

“職業紹介サービス
基本的には労働省の主管の下、各県・市に置かれた労働局が実務を担当し、州労働局がこれを補佐するという形をとっている。職業紹介サービスの実施内容については、労働大臣令(PER.07/MEN/IV/2008)及び雇用サービス指針において定められている。また、より広域な求人と求職者のマッチングを図るため、労働省ではインターネット上に求職ポータルサイト(SISNAKER)を設けている。また、労働省・州労働局により合同就職説明会(ジョブ・フェア)の開催が行われている。2022年1月には、労働省は人材開発・文化担当調整大臣府の全面的な支援を受けてジャカルタに労働市場センターを設置し、国内の求職者情報、国内外の求人情報などの一元化が行われている。労働市場センターは2022年大統領令第68号に基づき、産業界の求人ニーズを分析し、この分析結果に基づき労働省が人材計画を策定することとなっている。このほか、公的職業訓練施設(BLK)が提供する職業紹介サービス、労働省から認可を得た民間職業紹介事業者(LPTKS)による職業紹介サービス、教育機関や職業訓練施設に設けられた特別職業紹介所による職業紹介サービスがある。
(出典)厚生労働省 2022年 海外情勢報告

■若年者雇用対策
若年者の失業率は引き続き高い水準で推移しています。若年者の学歴は近年向上している一方で、企業が求める技能と若年求職者の持つ技能に差があることなどがその背景として挙げられています。教育機関における職業訓練は教育文化省が所掌しています。また、若年者に関する横断的な施策を担当する省庁として青年・スポーツ省が設置されています。
・若年雇用ネットワーク
省庁を横断する若年者雇用を総括する取組として、国家開発企画庁に若年雇用ネットワークが設置されています。若年雇用ネットワークでは、中央省庁や労使、教育機関、地方政府などが参加し、若年者雇用に関する先進的な取組の実施、情報や経験の共有、新たな施策の提案などが行われています。
・職業高等学校
後期中等教育機関として、高等学校のほかに職業高等学校が設けられており、近年では職業高等学校の在籍者数は高等学校の在籍者数を上回っています。職業高等学校における職業教育においては、多くの場合企業から講師が派遣されています。また、カリキュラムの策定には教育機関だけでなく、労使も関与しています。
・起業支援
一般的に起業を目指す若者は限られています。若者による起業を支援するため、若者起業家開発プログラムなどが行われています。
・学校でのカウンセリングの義務化
卒業から就職をより円滑にするための支援策の一つとして、2013年から小学校から高等学校レベルのカリキュラムにおいて週2時間のカウンセリングが義務化されており、この中でキャリアに関する情報提供が行われることとされています。

■高齢者雇用対策
60歳以上の労働力率は54.09%(2022年)と高い水準でありますが、これは自営業者や農民などが就業者の多くを占める一方で、それらの者に対する老後保障機能が乏しいことが背景にあると考えられています。なお、公的年金制度における年金支給開始年齢は58歳(2022年)とされています。

■障害者雇用対策
障害者法(2016年)において、雇用機会や就業条件などの均等待遇などが定められています。同法では、民間の事業主は100人に1人、公的機関(政府系企業を含む)は100人に2人の割合で障害者を雇い入れなければならないことが定められています。

■失業保険制度
失業保険制度は長らく存在していませんでしたが、雇用創出法(2020年)により、労働社会保障実施機関が提供する労働社会保障制度の給付の一つとして失業補償制度が新たに設けられました。失業補償制度には現金給付のほか、労働訓練や労働市場情報の提供が含まれています。なお、労働社会保障制度における労災補償及び死亡保障にかかる保険料率が引き下げられたため、失業補償制度の新設に伴う事業主に対する新たな負担は発生していません。

■技能習得制度

“労働省は、就業経験などの少ない求職者が受け入れ企業の実習を通じて、今後の就業に必要な技能を習得することができる制度として国内実習制度(マガン制度)を労働大臣規定2020年第6号により創設した。17歳以上の者を対象としており、期間は最長1年間(うち75%~90%はOJT)とされている。実習プログラムは基本的に研修を実施する企業が策定する。実習生には食費・交通費・インセンティブからなる「お小遣い(uang saku)」(目安として最低賃金の70%以上とされる)が支払われる。また企業は実習生を労働災害及び死亡に関する保険に加入させなければならない。終了後、能力基準を満たした者には実習修了証書を、満たない者には実習参加証明書を発行する。訓練条件は実習契約に明記する必要があり、県・市の労働局の承認を受ける必要がある。また、実習の終了から1か月以内に労働省訓練育成・生産性総局、州の労務担当局及び県・市の労働局に報告書をオンラインで提出しなければならない。なお、インドネシアの日系商工会議所のジャカルタ・ジャパン・クラブ(JJC)の調査では、日系企業のうち国内実習制度を活用しているのは全体の3割程度で、今後活用を検討している企業が25%程度となっている。JJCではインドネシア経営者協会(APINDO)と共同で国内実習制度普及のためのマニュアルを作成し公表を行っている。

(出典)厚生労働省 2022年 海外情勢報告

■企業の職業訓練義務
100人以上の労働者を雇用する企業は、毎年全体の5%以上の労働者に対して職業訓練を行なうことが義務付けられています。訓練は企業内或いは訓練機関で実施することができ、費用は企業が全面的に負担することになっています。

■外国人雇用対策
インドネシア人労働者の雇用を保護する観点から、インドネシア人が担うことができない特定の役職に限り、特定の期間外国人を雇用することが可能です。その際には労働大臣等の許可が必要となっています。
1.インドネシアで雇用される外国人労働者が満たさなければならない主な要件
①外国人の就労可能な役職に関する規程に掲載されている役職に就くこと
②就労予定の役職要件に応じた学歴を有すること
③就労予定の役職に従った、少なくとも5年間の就業経験を有すること
④インドネシア人労働者(特に外国人の後継となる者)に専門知識を移転する準備があること
2.外国人の雇用に際し必要とされている要件
①外国人雇用計画書の策定・承認
②外国人労働者の雇用予定の通知外国人労働者雇用補償金の納付
③外国人が有する技術及び専門性の移転対象で、外国人の後継者となるインドネシア人の指名、及びその移転を目的とした職業訓練の実施
④外国人労働者の国家労働社会保障への加入(就労期間が6か月を超える場合)
(つづく)M.H

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