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実践編・応用編

海外進出日本企業で働く人々_インドネシア_社会保障施策

投稿日:2024年6月2日 更新日:

インドネシアは、ASEAN地域で最も人口が多く、約2億7千万人を擁しています。この巨大の人口が国内市場の規模を拡大し続ける要因となっています。またASEANで最大のGDPを有しており、東南アジアの地域経済において重要な立ち位置にあります。インドネシアに進出している日本企業は約1500社となっていますが、近年の不安定な中国や台湾問題を考慮するとインドネシアへ進出する日本企業は今後まだまだ増えていくだろうと見られています。そんな中、キャリアコンサルタントが日本企業で働く人とコンサル業務でかかわる事も多くなっています。今回は、インドネシアの社会保障施策についてお話しします。

■社会保障施策
●医療保険制度
2014年1月にBPJS Healthが設置され、BPJSを運営主体とする医療保険制度(SJSN(Sistem Jaminan Sosial Nasional)Health)が開始された。この制度においては全国民(6か月以上インドネシアで働く外国人を含む)を対象とし、加入者は窓口負担を原則無料で医療を受けることができる。職種や給付を希望するサービスによって(表4-1-14参照)保険料が異なり、地方政府による貧困者向けの制度(JAMKESMAS)から移行した者に対しては政府負担がされている。しかし、制度開始時には国民皆保険制度を目指していたものの、2019年までに全国民にカバーを広げることとされるなど事実上の先送りがなされ、2021年12月時点での本保険制度への加入者数は2億3,572万人とされている(全国民の約8.6割が加入している)。また、保険料の未納や設定金額の低さのため資金不足が深刻化しており、2020年1月に保険料の引き上げが行われた。これまで企業の福利厚生において民間保険に加入していた者にとっては給付水準が落ちるケースもあり、差額医療費を支払ってでも追加サービスを受益したい旨の要請に対応すべく、制度施行後には民間保険会社と協力し、給付調整(COB(Coordination of Benefit))プログラムを新たに運用開始した。当該プログラムは、保険会社の提供するプランに加入することで、①医療保険制度への加盟病院で治療を受ける際、差額ベッド代等を民間保険で賄うことが可能となる、②医療保険制度への加盟病院でない病院であっても、保健省と契約しているCOBプログラム病院で治療を受ける際、入院時において、保険会社が一度費用を立て替えた上で、BPJSの給付水準の内容はBPJSからカバーされる(BPJSの給付水準を超えた部分のカバーについては、それぞれの保険会社との契約次第。外来受診は対象外。)ものである。
(出典)厚生労働省 2022年 海外情勢報告

●労働社会保障制度(労災補償、死亡保障、老齢保障及び失業保障並びに年金保障)
1.制度の概要
新しい労働者向けの総合的な労働社会保障制度が、2015年7月1日から労働社会保障実施機関において実施されました。現在の制度は、2004年の国家社会保障制度に関する法律に基づき、強制加入である労災補償、死亡保障、老齢保障、失業保障及び年金保障から成り立っています。
2.制度の対象者
労災補償、死亡保障、老齢保障及び失業保障は、国政機関以外の雇用主の下で働く労働者及び非賃金受領者(事業者、雇用関係以外の労働者等)が対象で、外国人は、6か月以上インドネシアで働く者が対象となっています。失業保障は、国政機関以外の雇用主の下で働く労働者が対象で、外国人については加入義務がありません。年金保障は国政機関及び民間労働者が対象で、外国人についてはこれも加入義務がありません。
3.給付内容
①労災補償
医療サービス及び見舞金が規定されており、障害に応じた補償金が給付されます。
②死亡保障
労災事故以外の理由による労働者の死亡時に定額の埋葬料及び見舞金が支給されます。
③老齢保障
積立制であり、労働者は57歳に達した時点等に給付を受ける権利が発生し、積み立てた保険料及びその運用益が一時金として支給されます。老齢保障は、10年以上の加入年数を有する場合、定年準備として一部を先行して受給することができます(使用目的により老齢保障額の30%あるいは10%の限度あり)。また、仕事を辞めた場合(自主退職、解雇及びインドネシアを永久離国)は、年齢にかかわらず加入期間に応じて一時金として支給されます。老齢保障の被保険者数は、約1,657万人(2021年12月末現在)となっています。
④失業保障
労働者が失業した際に、失業前24か月のうち少なくとも12か月は保険料を支払っている場合に、最長で6か月間、現金給付(最初の3か月間は月給の45%、次の3か月間は月給の25%)が支給されます。
⑤年金保障
年金保障の形態は、老齢年金、障害年金、寡婦・寡夫年金及び遺族年金があり、老齢年金の満期年齢は、2018年までは56歳でありましたが、2019年1月1日以降は57歳、2022年1月1日以降は58歳となり、65歳に達するまで、以降3年ごとに1歳ずつ加算されます。老齢年金給付は、満期年齢に達し、180か月相当、15年以上の加入年数がある場合に支給されます。老齢保障は労働者の収入手段が途絶えた際に、資金確保の確実性を与え、生活を支えることを意図していることに対して、年金保障が老齢年齢、恒久的全身障害又は死亡後に収入を与えることで、被保険者又は相続人が適正な生活レベルを維持することを目的としています。年金保障の被保険者数は、約1,325万人(2021年12月末現在)となっています。

●公衆衛生施策
1.病院
2021年の病院数は総計3,042施設です(医療保険制度の施行とともに医療提供施設の整備も急ピッチで進められています)。病院の機能に応じて、総合病院と専門病院に分かれているほか、A~Dのクラスに分類されており、Aクラスは多くの専門科を有し、高度な診療を行う病院、Dクラスは総合診療科が中心の病院です。クラス別の内訳は、Aクラス病院60施設、Bクラス病院437施設、Cクラス病院1,593施設、Dクラス病院905施設、クラスのついていない病院47施設となっています。
①総合病院
2,522施設あり、政府系病院1,026施設、私立病院1,496施設です。
②専門病院
520施設あります。主なものは母子関連病院(産科含む)、精神病院、外科病院、眼科病院です。
2.保健所
県や市が運営する保健所は、初期医療の中心的役割を担っており、住民に対する予防活動、健康教育、治療、分娩等を行っています。2021年には全国に10,292施設(人口10万人当たり3.80施設)あります。保健所はベッドを有する施設もあり、有床の保健所は4,201施設(全体の40.8%)です。保健所は施設によって規模が異なりますが、医療従事者として医師(36,305人)、看護師(142,659人)、助産師(188,963人)等が配置されています。
3.コミュニティー運営の保健施設
村レベルで運営される保健施設としては、村保健ポスト、地域助産所、統合保健ポスト等があります。統合保健ポストは、インドネシア独自のシステムとして、村レベルで運営される簡易保健施設で、5つの優先課題として、母子保健、家族計画、栄養発達、予防接種及び下痢対策に関する保健サービスを実施しています。
4.医療従事者
①医療従事者の種類
医師、歯科医師、薬剤師、助産師、看護師、栄養士、歯科衛生士、放射線技師、臨床検査技師、作業療法士等の職種があります。多くの職種は日本のような国家試験制度や免許制度はなく、大学や専門学校を卒業した時点で資格を取得したことになりますが、医師については2007年から医師国家試験を開始しました。
②医療従事者数
2021年では、医師173,707人、看護師511,191人、助産師288,686人、薬剤師39,336人等となっており、サポート人員も含め保健人材の総数は1,850,926人とされています。
5.医療費の動向
2019年の医療費総額は約4億7千5百万円と見積もられており、国民1人当たりの医療費は約1万7千円です。総医療費の対GDP比は3.1%(2019年)となっています。
(つづく)M.H

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