熟練キャリアコンサルタントを目指すにあたって、近道はありません。実践経験を積みながら、日々研鑽を重ねることが何より重要です。
■「自ら成長したい」という強い思いが不可欠
熟練キャリアコンサルタントになるために、近道や特効薬はありません。継続した学習と実践を積むしかありません。そのうえで、ケースにおける失敗経験を反省し、自身の力量を自覚するとともに、成功経験をその後の活動に効果的に反映させるべく、活動に対する先輩や指導者からのフィードバックを求め、自分の資質の向上に努めることなどで、はじめて熟練キャリアコンサルタントに近づいていきます。つまり、熟練キャリアコンサルタントを目指すには、受け身の姿勢ではなく、「自ら成長したい」という強い思いと心構えが欠かせないのです。
また、実践の場は与えられるのを待つのではなく自ら開拓すること、キャリアコンサルティングが十分に根づいていない現在の社会に対し、キャリアコンサルティングの有効性を示すことができる実力をつけることが求められます(キャリアコンサルティング技能検定2級の受験資格には実務経験が求められます)。
このように、熟練レベルのキャリアコンサルタントを目指す(キャリアコンサルティング技能検定2級試験に合格する)には、 自ら成長を目指すことがもっとも重要です。以下は成長するための道筋を示した報告書からの抜粋です。
■はじめに
キャリアコンサルティング協議会はキャリアコンサルタントの実践力強化についての調査をしています。学習が必要です。特に、資格取得後の実践経験の乏しい段階のキャリアコンサルタントは、自身が行うキャリアコンサルティングについて振り返りを行い、改善・克服していくべき課題を認識したうえで、経験を重ねることが資質の向上に重要です。
そのためには、キャリアコンサルタントが継続的学びに取り組む際にその中核をなすスーパービジョンについての理解を広めるとともに、スーパーバイザーを養成し、キャリアコンサルタントが必要なスーパービジョンを受けることを可能にする環境を整備することが必要です。
そこで、特定非営利活動法人キャリアコンサルティング協議会(以下「協議会」という。)では、令和元年度に受託した厚生労働省委託事業「キャリアコンサルタントの実践力強化に関する調査研究事業」での検討結果を踏まえて、スーパーバイザーの標準的な養成プログラムによりモデル実施的にスーパーバイザーを養成し、養成過程を通じてスーパーバイザー養成の標準プログラムや指導方法等を検証したうえで、それを社会に示すことでスーパービジョンの普及を通じたキャリアコンサルタントの資質向上につなげることを目的に、本調査研究事業を昨年度に引き続き受託し実施しました。
なお、多くの知見を得て本調査研究事業を効果的に実施するため、協議会は前年度と同様にスーパーバイザーの養成やスーパービジョンの普及等に関わっている特定非営利活動法人キャリアカウンセリング協会、一般社団法人日本産業カウンセラー協会、特定非営利活動法人日本キャリア開発協会、株式会社日本マンパワー、株式会社テクノファ及び一般社団法人日本産業カウンセリング学会の機関と連合体を組み、連携して検討を進めることとしました。
■ 本報告書の構成
本報告書は、キャリアコンサルティングの重要性が一層高まる中で、キャリアコンサルタントが適切に活動するためのスーパービジョンを提供できるスーパーバイザーを養成するプログラムのあり方を検討・提言することを目的としている。
そこで、第 1 章では、キャリアコンサルティングにおけるスーパービジョンとは何か、なぜ重要なのか、スーパービジョンを提供するスーパーバイザーに求められること等について言及している。第 2 章では、第 1 章で述べたスーパービジョンを提供するスーパーバイザーを養成するために実施した試行養成プログラムについて、実施状況の報告および結果の検証を通して、養成プログラムの標準化に向けた課題等を示している。そして第 3 章では、第 2章の検証結果を踏まえたスーパーバイザー養成の標準プログラムの考え方を述べるとともに、今後の普及拡大に向けての課題を提言している。
引用 R2年キャリコン実践力強化調査報告_cs5.indd (mhlw.go.jp)
この調査は①国家資格キャリアコンサルタント試験(標準レベルのキャリアコンサルタント)の合格をスタート地点として、②インターンシップ(見習い)を通して実際にキャリアコンサルティングを体験し、③実践経験を積み、④実践経験を積みながら上級者あるいは指導者から指導(スーパービジョン)を受けて自分の活動を振り返るとともに、⑤自身の力量を自覚して不足している知識・スキル等を研修等で学ぶ、というものです。なお、インターンシップ(見習い)、スーパービジョン、研修等はバラバラに行われるのではなく、体系的に組み合わされて、はじめて高い効果を発揮するものです。
■本調査を参考に、柔軟に内容を工夫していく
この調査は、すべてのキャリアコンサルタントに画一的にあてはめるものではなく、キャリアコンサルタントそれぞれのレベルや活動領域等に応じて時期、期間、内容等は柔軟に工夫していく必要があります。
たとえば、インターンシップ(見習い)についていえば、国家資格試験に合格したばかりの人(標準レベルのキャリアコンサルタント)にとっては、「体験」という側面が強いでしょう。一方、すでに一定の実践を積んでいる人にとっては、異なるフィールドでの体験を通じて「視野を広げる」という側面が強いでしょう。このように、望ましいインターンシップ(見習い)の形態も、当然異なってきます。このような一連の過程で、キャリアコンサルタント自身ががキャリアコンサルティングの実践能力を高め、人間的成長を果たすことによって、「熟練キャリアコンサルタント」へと成長していくと考えられます。
■キャリアコンサルティングの成長モデル
以下は成長モデルについての説明です。熟練レベルのキャリアコンサルタントを目指すうえでの指針として参考にしてください。
①インターンシップ(見習い)
インターンシップとは、キャリアコンサルタントが上級者あるいは指導者による一定の保護と制限の下で、実際の来談者と向かい合い、 自分が修得した知識・スキル等をさらに深めていくうえで非常に効果的な教育手段です。見習い研修といってもいいでしょう。
キャリアコンサルタントは、実際の来談者とのやりとりから、キャリアコンサルティングがどのようなものであるかを実際に感じ取ることができます。あるいは自分と異なる活動領域での体験をすることによって、両者の違いについて身をもって認識することになります。この場合でも、自分だけの解釈ですませるのではなく、自分自身の感じ方や解釈や体験を上級者、あるいは指導者とともに確認することにより、独りよがりになることを防ぐことが大切です。
インターンシップで指導者や上級者がもっとも留意しなければならない点は、来談者の安全確保です。キャリアコンサルタントがケースを担当することによって、来談者が被害を受けることがあってはなりません。このための訓練としては、インターン生であるキャリアコンサルタントが熟練レベルのキャリアコンサルタントが担当するケースに陪席したり、逆に陪席してもらったりする方法があります。そのためにも、他のキャリアコンサルタントとのネットワークを構築することが重要になります。
②スーパービジョン
キャリアコンサルタントの資質向上にとってスーパービジョンが必要な理由は、「思ったようにうまくいかない、どのようにやったらよいかわからない」、あるいは自分の対応が適切だったか自信がないなど、キャリアコンサルタントが抱える不安を解消するためです。さらに、自分では正しいと思っている方法が、実際には独善的で誤っている場合に、その歪みや偏りを第三者の視点で正すためという2点です。
スーパービジョンは、キャリアコンサルタントとしてのスタート地点に立った人(標準レベルの資格を取得した人)だけでなく、 すでに熟練の域に達している人まで、すべてのキャリアコンサルタントにとって必須とされるものです。
③研修等
キャリアコンサルタントは、実践経験、インターンシップ、スーパービジョン等を経験するなかで自分の知識やスキルの不足を自覚することになるはずです。より充実したキャリアコンサルティングを提供するためには、各種の研修受講、自主勉強会、ネットワークを活用した学習等々、自己研鑽に取り組んでいくことが求められます。
(つづく)A.K