キャリアコンサルタントの知恵袋 | 株式会社テクノファ

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基礎編・理論編

アサーションとチェンジ・エージェント

投稿日:2024年5月16日 更新日:

アサーション※については、理論、自己チェック、 演習などから構成されています。この期間で、カウンセリングの基本的な技法である傾聴、及びアサーションについて、その理論的根拠を理解し、スキルを習得していただきます。

※「アサーション」(assertion)は1950年代にアメリカで、自己主張を苦手とする人を対象としたカウンセリング手法として生まれた。「人は誰でも自分の意見や要求を表明する権利がある」との立場に基づく適切な自己主張のことです。トレーニングを通じて、一方的に自分の意見を押し付けるのでも、我慢するのでもなく、お互いに尊重しながら素直に自己表現ができるようになることを目指す。アサーションを習得することによって、相手に不快な思いをさせずに、自身の主張を行うことができる。

受講者の方から次のようなコメントを頂いています。
・カウンセリング演習のプログラム全体を通じて、演習の内容が段階を追い理解が進む構成になっていることが良く理解できました。
・「カウンセラーとしてのあるべき態度」について説明を受けることにより、なぜそれが必要なのか意味がわかり、理解が深まったと思います。
・カウンセリング演習を通して、受講者自らがキャリア・カウンセリングの基本を理解するように、気づくようにという意図で設計されているという感じを受けました。自らが、キャリア・カウンセリングの基本を理解することにより、知識を習得できたという思いで大変良かったと思います。

コースの最後の「事例検討(ケーススタディ)」は、キャリア・カウンセリングの事例検討を通して、キャリア・カウンセリングのあり方を総合的に学習し、また、 企業におけるキャリア開発の導入事例及び取り組み事例をもとに、チェンジ・エージェント※としてのキャリア・カウンセラーがどのように環境介入を行うべきかを学習します。 上述したような5日間の事例検討は、質の高いケーススタディになっています。

※チェンジ・エージェント(change agent)とは「変化の担い手」の意味であり、私たちの働く環境はあらゆる面で変化にさらされているが、多くの環境変化を適切に受け止め、処理し、次の段階のエネルギーに変えていく人をこう呼んでいる。

ソーシャルスキルの具体例
ソーシャルスキルにはさまざまなものがあるが、ここでは対人的相互作用の流れを想定して3つの代表的なスキルを挙げる。第1に相手の思いを的確に受けとめるために必要な「聴くスキル」である。「聴く」とは単に相手の話を「聞く」だけでは足りず、相手の話に関心があること、相手の話を理解したこと、これらを相手に伝えることが重要となる。しかし、一般的に、学校教育で「聴く」を学ぶ機会はほとんどない。だからこそ、「聴くスキル」は訓練をして初めて獲得できるのである。

第2に自分の思いを相手に伝えるために必要な「自己主張スキル」である。ここでいう「自己主張」とは、自分の考えをただ一方的に強く言い張るなど攻撃的な反応をすることではなく、相手の立場や状況なども尊重し、感情をコントロールしながら自分の考えや感じていることを率直に表現することである。第3に対人葛藤を解決するために必要な「対人葛藤処理スキル」である。考えも価値観も異なる者同士が相互に関係を築いてく上で様々な葛藤が生じるのは当然であり、だからこそ対人葛藤から逃れようとするのではなく、その対処法を知り、具体的な方法を身につけることが重要となる。

<ソーシャルスキルの獲得>
ソーシャルスキルは自動車の運転などと同様に、繰り返し練習することで身につけることができる。その獲得メカニズムは以下の4つの学習原理にわけて説明することが可能である。
第1にソーシャルスキルに関することを、まわりの家族、友人・知人、同僚・先輩・上司などから言葉で言われて学習する「言語的教示」である。
①対人場面での具体的な振舞い
方に関する指示(例えば、顧客にはもっと丁寧な言葉遣いをするよう上司から指示される)、
②対人関係の中で機能しているルールについての言及(例えば、マナーやエチケットに類するもの、対人関係で常識とされている決まりごと等)、
③行動改善に役立つ質問(例えば、不適切な振る舞い方に対して指示ではなく質問をする等)
このような言語的教示によって、ソーシャルスキルに関する知識が獲得される。

第2にオペラント条件づけ(生体が環境の中でさまざまな行動を自発し、その行動がもたらした結果によって次の行動が変化していくという学習過程)である。ある行動によって肯定的な結果がもたらされれば、再び肯定的結果を得ようとその行動を繰り返すようになり、逆に否定的な結果になれば、その行動をとらないようになる。つまりソーシャルスキルは自分がとった行動の結果から学ばれるのである。

第3に他者の対人反応や行動の結果を観察することによって学習する「モデリング」である。肯定的な結果を観察すれば、その反応や行動をまねてみようとし、否定的な結果を観察すれば抑制しようとする。モデリングの効果は自分と類似している人を対象とした場合の方が高いといわれている。

第4にリハーサル(記憶の定着を図るために、短期記憶内に貯蔵された情報を、意図的または無意図的に何回も反復して想起すること)である。私たちは、頭の中で知識を言語的に反復する「言語リハーサル」や、行動レベルで繰り返し練習する「行動リハーサル」によってソーシャルスキルを獲得する。
<SST(ソーシャルスキルトレーニング) の標準的な方法>
SST はソーシャルスキルの認知的側面・行動的側面のどちらを対象とするかでそのトレーニング法が異なってくるが、一般的には以下のような標準的な方法で実施される。
①導入:これから開始する SST について、全体の流れ・仕組み・手順・必要性・期待される効果などを説明し、クライエントを動機づける。ポイントは、クライエントが抱える対人的な問題が性格等だけで決まるのではなく、練習次第で変容可能であると理解させることである。
②教示:トレーニング開始後の「教示」では、ターゲットとなるスキルがクライエントにどの程度不足し、その結果どのような対人的な問題を起こしているかを気づかせ、そのうえでどのようにすればターゲットスキルを獲得できるかを説明する。
③モデリング:ターゲットスキルをトレーナー自身や別の人物、もしくは写真やビデオなどの登場人物といったモデル(手本)によって示し、クライエントがそれを観察・模倣することである。モデルの呈示は、対人状況を明確にする、適切で効果的なモデルの反応を具体的に示す、モデルの反応が肯定的結果を生む、の3点を示す必要がある。
④リハーサル:ターゲットスキルの実行順序や対人関係に関する知識を口頭で反復させ(言語リハーサル)記憶の定着を図る。さらに実際の行動としても反復させ慣れさせる。
⑤フィードバック:教示・モデリング・リハーサルで示したクライエントの反応が適切であれば肯定的なフィードバックをし、不適切であれば修正を加える。修正を加える際のポイントは「できていない」等の否定的な表現は避け、「よりよくするためにこうしよう」といった肯定的な表現を意識することがポイントである。

出典 JILPT 資料シリーズ No.165 職業相談場面におけるキャリア理論及びカウンセリング理論の活用・普及に関する文献調査

 

担当していただいている講師の方から次のコメントを頂いています。
・受講生の事例検討の質の高さ、学習成果には本当に驚いた。いろいろなところで体験した事例検討会より、ずっといい検討が出来ている。
・外的キャリアへの関心とか、助言、アドバイス、評価的発言が多かったり、応答のテクニックに流れることが多かったりするものだが、そのよなことが少ない。
・事例にでてくるクライアントのその人そのものを理解しようとしていることがよく分かり、自分だったらどう関わりたいのか、 形ではなく真剣に考える雰囲気が伝わってくるので、全体がよい方向に引っ張られる感じでした。

受講者の方からのコメントは次の通りです。
・事例研究を通して、本当に様々な事例や相談があるのだということを改めて実感じました。
・カウンセリングをしても、なかなか良い方向へ行かないこともあるのだということも分かりました。それだけに責任が重いなと思いました。
・キャリア・カウンセリングの幅広さも実感として感じられ、それだけの知識と覚悟を持たなければ、キャリア・カウンセラーにはなれないと思い、やはりかなりの能力が求められる厳しい職業だと思いました。
・カウンセリング理論では、キャリアコンサルタントとして必要な基本的知識を学ぶことができ、また「カウンセリング演習」「事例研究」を通じて実践的なカウンセリングスキルを学ぶことができ、これらを通じて今後キャリア・カウンセラーとして何をどう学んでゆくべきかが明らかになりました。 (平林良人)
(つづく)

-基礎編・理論編

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