インドの人口は、中国を追い越して世界1位となりました。また30歳未満の人口が多いことから、今後も生産人口は増加する見込みです。I Tなどの分野で、高度な人材資源を多く有している事も有名です。ただ、インドは歴史、宗教による独自の文化があり、またビジネス慣習も日本とは異なります。そんな中で、インドへ進出している日本企業は約1,400社です。キャリアコンサルタントが日本企業で働く人とコンサル業務でかかわる事も多くなっています。今回はインドの職業能力開発についてお話しします。若年層に職業教育を行うことを内容とする「スキル・インディア」イニシアティブなどを通じ、職業訓練に力を入れています。職業訓練は主に技能開発・起業促進省が担当しています。技能開発・起業促進省は、国家技能開発庁、官民パートナーシップにより構成される国家技能開発法人、訓練局等により構成されています。
主な訓練制度は以下のとおりである。
・職工訓練制度(Craftsmen Training Scheme:CTS)
14歳以上の者を対象とした訓練制度で、全国に設置されている14,711か所(2021年4月現在)の州立・私立の産業訓練研修所(ITI)が実施している。137のコースからなり、訓練期間は1年から2年の間となっている。事業主、労働者及び中央・州政府の代表で構成される国家職業訓練審議会(National Council on Vocational Training:NCVT)が策定したカリキュラムに基づき、70~80%が実務訓練により構成されている。英会話やPCなどの共通スキルもカリキュラムに含められている。より実態に即した訓練を実施するため、ITIと事業所の覚書に基づき、①NCVTが策定したカリキュラムに基づき、座学の訓練をITI、実践的な訓練を事業所で行うデュアルシステム訓練(Dual System of Training)や、②事業所が開発したカリキュラムに基づき事業所で訓練を行うFlexi-MoUが実施されている。・養成訓練制度(Apprenticeship Training Scheme)
1961年養成訓練法(The Apprentices Act,1961)による制度で、訓練生が給付金(stipend)を得ながら企業において実践的な訓練を受けるもので、基礎訓練・作業現場訓練・座学から構成されている。訓練生は学歴や取得済みの技能に応じて①職業養成訓練生(Trade apprentices)、②随意職業養成訓練生(Optional trade apprentices)、③技術者(職業訓練)養成訓練生(Technician (Vocational) apprentices)、④技術者養成訓練生 (Technician apprentices)、⑤新卒者養成訓練生(Graduate apprentices)の5種類に区分される。①~③は技能開発・起業促進省、④⑤は教育省(Ministry of Education)が所管している。14歳以上(コースによっては18歳以上など、異なる場合がある)を対象とし、訓練期間はコースにより6か月から3年となっている。訓練生は労働者とはみなされないが、訓練期間中、訓練生には給付金(stipend)が支払われることとされており、その最低水準(訓練生の学歴や枠組みにより月5,000~9,000ルピー)が定められている。給付金の支給に要した経費の一部は中央政府から補助される。なお、養成訓練の促進のため、労働者数30人以上の事業所は労働者数の2.5%以上の養成訓練生を受け入れることとされている。(出典)厚生労働省 2022年 海外情勢報告
■技能開発スキーム
2015年から、若年層に対し広く雇用に結びつく訓練を実施しています。中央政府により実施される訓練プログラムには、次の3つがあります。
①学校中退者や失業した若者を対象とした短期訓練
②訓練対象の技術をすでに習得している者に、技能評価を与える事前学習認定訓練
③特定の職種に関する訓練
また、中央政府が費用を負担し、州政府が実施する訓練プログラムもあります。
■国家技能資格枠組み
証明書・資格間の比較を容易とするとともに、国際的に比較可能な能力認定枠組みとすることで、インド人技能労働者の海外での就労を容易にすることを目指し、2013年12月に「国家技能資格枠組み」(NSQF)が制定されました。この枠組みは、10段階に分かれており、各段階において期待される仕事の内容が定められています。
■訓練に関するその他の取組
・中等・上級中等職業教育化計画
各個人の雇用可能性を高めること、人材の需給ミスマッチを減らすこと、従来の高等 教育に代わる道を提供するものとして実施されているもので、第6~8学年を対象に職業訓練の準備コース、第9~12学年を対象に職業訓練コースが設けられています。これらは、教育省の監督の下に行われており、各州により実施されています。
・産業価値向上のための技能向上プログラム
産業訓練研修所や養成訓練で行われている訓練教育の向上を目指したプログラムで、①養成訓練の改善と拡大、②産業訓練研修所の能力強化などから構成されています。
■外国人労働者対策
インドの労働力は量的に極めて豊富であるため、外国からの流入は限られており、近隣諸国から非公式手段で一部行われているほか、極めて少数の高技能労働者がインド国内の多国籍企業が必要とする先端技術部門に流入しています。外国人労働者を対象とした特段の法律は制定されておらず、入国・居住・出国に関する1946年外国人法が適用されています。就労目的でインドに入国を希望する場合、就労ビザまたは就労許可を海外(居住国)のインド大使館、領事館に申請します。当初は1年間の就労許可が与えられ、その後契約期間に基づき就労許可が与えられます。
海外労働者対策
先進諸国への労働者の送出は1983年移民法(Emigration Act,1983)に基づき外務省(Ministry of External Affairs)を所管省庁として実施されている。国民のパスポートは、移民審査不要(Emigration Check not Required:ECNR)カテゴリーと、移民審査必要(Emigration Check Required:ECR)カテゴリーに分かれている。原則として、第10学年卒業(日本の高校1年生修了に相当)以上の学歴の者や外国に通算3年以上居住している者等は移民審査不要カテゴリーに、それ以外の者は移民審査必要カテゴリーに区分され。外国人入国法、外国人労働法の整備状況に鑑み、2022年11月現在、タイ、マレーシア、インドネシア、アラブ首長国連邦など17か国が移民審査必要国として指定されている。移民審査必要カテゴリーの者が移民審査必要国に就業を目的として出国する際には移民保護官(Protectors of Emigrants:POEs)の移住許可を必要とするほか、不慮の事故などをカバーする在外インド人保険スキーム(Pravasi Bharatiya Bima Yojana)に加入しなければならない。移民審査不要カテゴリーに区分された者は、移民審査必要国であっても移民審査は不要である。日本を含む移民審査不要国の場合には、パスポートのカテゴリーに関係なく、移民審査は不要である。労働者の送出を行う人材紹介会社は、移民保護官が発行する登録証に従って職業紹介の業務を行わなければならない。人材紹介会社は労働者から紹介料を徴収できるが、紹介料には上限が定められている。なお、移民審査が必要な労働者の送出を対象に、送出機関・受入機関・労働者・雇用契約書をすべてオンラインで管理するシステム(eMigrate System)が導入されている。外国(労働者を受け入れる国)の雇用主がインド国民を雇用する際は、①1983年移民法の下で適格とされる人材紹介会社の利用、②1983年移民法に基づく許可、のいずれかが必要とされている。なお、2017年10月には、新しい技能実習法の下で、日本の法務省・外務省・厚生労働省とインド技能開発・起業促進省との間で技能実習に関する協力覚書(MOC)が締結され、2018年7月から技能実習生の送り出しが開始されている。(出典)厚生労働省 2022年 海外情勢報告
(つづく)M.H