インドの人口は、中国を追い越して世界1位となりました。また30歳未満の人口が多いことから、今後も生産人口は増加する見込みです。I Tなどの分野で、高度な人材資源を多く有している事も有名です。ただ、インドは歴史、宗教による独自の文化があり、またビジネス慣習も日本とは異なります。そんな中で、インドへ進出している日本企業は約1,400社です。キャリアコンサルタントが日本企業で働く人とコンサル業務でかかわる事も多くなっています。今回は、インドの雇用策についてお話しします。
インドの2020~21年度の経済成長率は、コロナ禍によりマイナスとなっていますが、その後は回復傾向にあります。労働者は、非組織部門と組織部門とに区分され、労働法制や社会保障制度等の適用において両者には大きな違いがあります。一般的には、労働者数10人以上の企業または政府機関などの公的セクターで働く者が組織部門の労働者とされ、農業労働者、自営業者、または労働者数10人未満の企業で働く者が非組織部門の労働者とされ、労働・雇用省では全就業者の93%が非組織部門の労働者であるとしています。雇用情勢の特徴として、女性の労働力率が低いこと、失業率が比較的高い状況であることが挙げられます。
“憲法上、中央政府と各州政府の権限について、労働法は中央政府と州政府の共管とされている。州法が中央の既存法の規定と矛盾する場合には、その範囲において州法の規定は無効になるものの、大統領の承認を得た場合には州法により修正された規定が当該州の領域内では優先されることとされている。また、中央政府が制定した労働法の適用に際しては、原則として各州においても対応する規則の制定が必要とされている。モディ政権により進められた労働関係の法律を4つの法典にまとめるという労働法改正も、4つの法典の全てについて法案が成立し公布はされたものの、各州の規則の制定が完了していないため、2022年11月時点では、ごく一部の条項を除き施行されていない。雇用対策の主要担当省庁は労働・雇用省(Ministry of Labour and Employment)である。
公共職業紹介について、方針・基準の策定及び立案は中央政府が行い、運営は州政府が行っている。従来型の公共職業紹介施設として雇用エクスチェンジ(Employment Exchange)が全国に997か所設けられている。その一方で、従来の公共職業紹介の機能が十分でないという問題を受けて、2015年以降労働・雇用省では、新たな公的職業紹介サービスの形態として全国キャリア・サービス(National Career Service)を立ち上げている。全国キャリア・サービスは大きく分けて、インターネット上のポータルサイト、ポータルサイトを補助するコールセンター及び各地に設置されるキャリア・センター(Career Centres)から構成されている。ポータルサイトは一般の求職者に求人などの情報を提供し、キャリア・センターは農村部や都市化が進んでいない地域の若者や、社会的に不利な立場にある求職者に対する積極的な接触や相談の中枢として機能することが想定されている。なお、既存の雇用エクスチェンジも順次キャリア・センターに移行することとされている。また、先進的な取組をおこなうキャリア・センターとしてモデル・キャリア・センター (Model Career Centres)が設置されている。モデル・キャリア・センターは、中央・州政府に限らず、中央・州政府などの認可を受けた教育・訓練機関やインド産業連盟(The Confederation of Indian Industry)などの使用者団体等により開設されており、求職者個々の能力に基づく訓練・就業機会に関するガイダンスの提供、ポータルサイトや就職説明会などを通じた事業所側との接触機会の提供などを行っている。”
(出典)厚生労働省 2022年 海外情勢報告
■若年者雇用
児童労働や、技能を持たない者が多いことが問題とされています。また、高等教育を受けた者はホワイトカラー指向が強く、高等教育を受けた者と企業側の人材の需給ミスマッチの問題も指摘されています。その対策として、職業訓練に力を入れており、職業能力開発を通じた人材の需給ミスマッチの解消を図っています。
■女性労働
・男女平等対策
1976年均等報酬法では、事業主が性を理由として、賃金、採用、雇用条件において差別をしてはならないと定められています。
・女性を対象とした訓練プログラム
このプログラムは、女性に対して職業訓練の場を提供することにより雇用機会を増やすことを目的としています。技能開発・起業促進省訓練局では女性専用の職業訓練校を全国に18校設けています。また、各州において女性のみを対象とした産業訓練研修所が設けられています。また、その他の産業訓練研修所においても、受講者の30%を女性用に留保することがガイドラインで定められています。
■障害者雇用
2016年障害者の権利法では、障害に基づく差別全般を禁止しています。就業促進施策としては、政府機関及び政府が所有する事業所において、採用の4%以上を障害者とすることが義務づけられているほか、障害者を雇い入れた企業に対し、従業員国家保険の事業主保険料を3年間中央政府が負担する施策、障害者専用のキャリア・センターの設置などが実施されています。
■児童労働
児童労働法が2016年7月に改正され、原則として14歳未満の労働は禁止されています。また、14歳以上18歳未満の若年者が危険性の高い職場・危険性の高い作業工程に従事することも禁止されています。
“請負・派遣労働対策について:
1970年請負労働(規制及び禁止)法(Contract Labour(Regulation and Abolition)Act,1970)により規制が行われている。法律上、請負と派遣労働の区別はされていない。20人以上の請負・派遣労働者が従事する「施設」(establishment)と、20人以上の請負・派遣労働者を雇用する「契約業者」(contractor)に適用される。契約業者は中央または州政府に登録しなければならない。管理職・監督職及び内職者にはこの法律は適用されない。請負労働(規制及び禁止)法では、中央または州政府に対し、中央諮問委員会または州諮問委員会への諮問を経て、任意の事業所・業務における請負・派遣労働者の使用を禁止できる権限を与えている。ただし、2003年にアンドラ・プラデシュ州は請負・派遣労働を規制する範囲を明確化する法律を制定しているが、他の州では、規制する範囲を明確化する動きはない。請負・派遣労働者の待遇については、中央政府・州の規則において、契約業者の登録の条件として、請負・派遣労働者が正規労働者と同等の労働を行っている場合には賃金・休暇・労働時間等の待遇を同等とするという規定がある。なお、同等の労働の定義をめぐっては、労働者の資格や職責も考慮するべきとの最高裁の判例がある。”(出典)厚生労働省 2022年 海外情勢報告
■失業保険制度等
・従業員国家保険の失業給付
従業員国家保険において、失業給付が実施されています。従来の労働者福祉給付の受給要件は厳しく制限されており、利用がきわめて限定的となっていたことから、2018年7月から被保険者福祉給付が2022年6月末までの期間限定で実施されています。また、労働者福祉給付の受給者は技能向上プログラムとして、指定の訓練機関で職業訓練を受けることができます。職業訓練の受講料及び交通費も最大1年給付されます。
・マハトマ・ガンジー全国雇用保障法に基づく雇用保障
農村開発省により実施されており、農村部の者を対象にした制度です。小規模な公共事業の実施により単純労働に就く意思がある農村部の労働者に、税財源により年間100日の賃金による雇用を与えるものです。
(つづく)M.H