日本とベトナムは、長年にわたって政治、経済、文化、スポーツと幅広い分野で友好関係が続いています。日系企業の進出も盛んで、約2千社がベトナムへ進出しており、キャリアコンサルタントが日系企業で働く人々と接触する機会は年々増加しています。私の友人も、6年間ほどベトナムの日本企業に派遣され、2年ほど前に帰国しました。彼の話しによると、ベトナムは人口に占める若年層の割合が大きいので多くの若者がその企業で働いていたそうです。その中で、優秀な人材が他の企業に転職する例もあったようで、そのため、賃金上昇によるコスト増で、経営者は頭を抱えていたと語っていました。私も2024年4月25,26日の両日ハノイのハイフォン市にある日系企業を視察してきました。
“2019年11月に労働法の改正が国会で承認され、2021年1月から施行された。主な改正内容として、労使関係にある労働者以外にも労働法の適用範囲を拡大したほか、ベトナム労働総同盟から独立した事業所労働組合の設立を可能とする、定年年齢の引上げ(男性は60歳から62歳、女性は55歳から60歳)、時間外労働規制の緩和、有期労働契約の一本化が盛り込まれている。また、2022年1月には改正労働者海外派遣法が施行され、ベトナム人労働者送出機関が仲介料を労働者本人に負担させることや法律に適合しないサービス手数料を徴収することが禁止された。さらに、2022年7月には、国内4つの地域別に設定している最低賃金が改定された。2020年1月以来2年半ぶりの改定で、引上げ率は各地域平均約6%となった。なお、今回、時間単位の最低賃金が新たに規定された。
概要
2021年は厳格な社会隔離措置の適用により、第3四半期には四半期GDPが公表されるようになって初のマイナス成長(マイナス6.02%)に沈んだが、輸出の好調やウィズコロナへの路線転換後の巻き返しにより、年間は2.58%のプラス成長を堅持した。2022年においても順調な回復ぶりを見せ、第3四半期には13.67%と高い成長率を記録した。これは前年同期からの反動に加え、食料の供給拡大や製造業および建設業の好況、観光需要の回復が寄与したとベトナム統計総局は分析している。”
(出典)厚生労働省 2022年 海外情勢報告
■雇用・失業対策
1.雇用・失業の動向
2019年まで労働人口は増加を続けていましたが、2020年は5,484万人(前年比92万人減少)、2021年は5,056万人(前年比428万人減少)となっています。就業者も2020年、2021年と連続して減少傾向にあり、2021年の失業率は2.94%で、前年比0.69ポイント上昇しました。都市部の失業率が農村部の失業率を上回っています。また25歳未満の失業率は8.55%(2021年)と全体の失業率の3倍近くになっています。新型コロナウイルス感染拡大が労働指標に悪影響を与えてきましたが、2022年は改善傾向にあります。
2.一般雇用対策
(1)職業紹介の実施主体
職業紹介組織の設立及び運営に関する条件等は、労働法や雇用法などで定めています。職業紹介組織は設立した者に応じて「職業紹介センター」と「職業紹介企業」に分類されています。実施している内容は次のとおりです。
①求職者に対する助言・職業紹介・職業訓練
②事業主に対する求職者の紹介
③労働市場に関する情報収集・提供等
(イ)職業紹介センター
国又は労働組合、青年組織、婦人団体等の政治社会組織により設立される。政府は職業紹介センターの設立条件、組織及び活動に関する細則を定めている。職業紹介センターは主に下記の業務を行う。
・無償での求職者に対する職業相談、職業紹介及び労働市場情報の提供
・事業主に対する求職者の紹介
・労働市場情報の収集、分析
・雇用に関するプログラムやプロジェクトの実施
・法律に基づく技能訓練の提供
・失業保険受給書類の受付(国により設立されたセンターのみ)(ロ)職業紹介企業
企業法によって設立され活動する企業で、地方省レベルの労働に関する国家管轄機関が発行する職業紹介事業許可証を有していなければならない。職業紹介企業は次の活動を行うことができる。
・労働者及び使用者向けの職業相談、職業紹介
・使用者の要求に基づいた労働者の供給
・労働市場情報の収集、分析、予測
・雇用に関するプログラム及びプロジェクトの実施
・法律に基づく技能訓練の提供(出典)厚生労働省 2022年 海外情勢報告
■若年者雇用対策
若年者の失業率(25歳未満)は、全体の失業率の3倍近くとなっています。その原因は、以下のとおりです。
①近年の大学進学者増加で大卒が就職口の数以上に増加した
②新卒の一括採用がないなど就職方法やチャネルが少ない
③学生が学校で履修するカリキュラムと職場で求められるスキルの間に不一致がある
④若者が興味のある職種にアクセスできるプラットフォームがない
なお雇用法では、国が若年者向け雇用の創出促進や若者の起業支援などを行うことが定められています。
■未成年労働者対策
労働法では、18歳未満の未成年労働者の保護と、15歳未満の児童の就業制限を定めています。18歳未満の未成年労働者については、一部業務及び就業場所での就労は禁止されています。また、原則として15歳未満の児童は就労できませんが、労働傷病兵社会問題省が定める特定区分の職業において、保護者が同意した場合に限り認められています。事業主が18歳未満の労働者を雇用するには保護者の同意を得なければならないことになっています。
■高齢者雇用対策
定年退職年齢が2021年1月から引き上げられることになりました。2012年労働法では定年が男性60歳、女性55歳とされていました。2019年新労働法において、それぞれ段階的に62歳、60歳に引き上げることになりました。具体的には男性は2021年から毎年3か月ずつ延長され、2028年に62歳になります。女性は2021年から4か月ずつ延長され、2035年に60歳となります。定年退職年齢以降、労働を継続する労働者は、労働法において高年齢労働者と定義されます。高年齢労働者は、毎日の労働時間を短縮すること、又はパートタイム労働制度を適用することについて、使用者と合意する権利を有します。事業主は、高年齢労働者の健康状態を確認し本人と相談した上で、労働契約の延長又は新たな労働契約を締結することができます。ただし、高年齢労働者の健康に悪影響を与える重労働や危険・有害業務に就労させることは安全な勤務条件が保証されている場合を除き禁止されています。
■職業訓練
12か月以上失業保険料を連続して納付している事業主で、景気後退による経営困難に陥った、あるいは不可抗力による生産や経営等の変更を余儀なくされた企業が雇用を維持するための職業訓練を実施する場合で、十分な訓練資金がない場合に、6か月以内の期間で国からの支援を受けることができます。職業訓練施設は、公立の職業訓練施設と公立以外の職業訓練施設に分類されますが、いずれも職業教育総局が認可し、各地域の労働傷病兵社会問題局が登録、管理する仕組みになっています。職業教育法(2014年制定)では職業訓練に関して、初級、中級、カレッジの3レベルを定めており、各訓練機関は各レベルにおいて必要とされる技能・技術を教育します。職業教育法では、従来の一般(通年)訓練に加えて、新たに継続訓練が規定されました。
(つづく)平林