キャリアコンサルタントに有用なお話をしたいと思います。「自己理解と他者理解」について考える第3回目です。
前回は自己理解について触れました。今回は他者理解について考えてみたいと思います。他者と言っても様々な方がいると思いますが、ここでは一例として、「上司」を対象とし、「上司知る」ということについて考察してみたいと思います。まずは、「他者理解」について考えてみます。
他者理解とは、他の人の意見、考え方、視点などについて、どうしてそのようになるのかを対象者(他者)の立場に立って、考え、想像し、理解しようとする心構えであるといえます。まずは自分の考えなどは入れず、自分が対象者の立場ならば、という視点で考えてみると良いかと思います。
「自分が対象者の立場で考えてみる」ということについて、ここでは作家の遠藤周作氏のエッセイを紹介します。
芝居には傍役というものがある。傍役は言うまでもなく、主役のそばにいて主役のためにいる役である。その勤めは主役と共に芝居の運行をつくっていくのだが、また主役を補佐したり、主役をひきたてるためにもある。
「あたり前だ。わかりきったことを言うな」とお叱りにならないでいただきたい。
しかしなぜ私がこんなわかりきったことを書いたかというと、我々は我々自身の人生ではいつも主役のつもりでいるからだ。
たしかにどんな人だってその人の人生という舞台では主役である。そして自分の人生に登場する他人はみなそれぞれの場所で自分の人生の傍役のつもりでいる。だが胸に手をあてて一寸、考えてみると自分の人生では主役の我々も他人の人生では傍役になっている。たとえばあなたの細君の人生で、あなたは彼女の重要な傍役である。あなたの友人の人生にとって、あなたは決して主人公(ヒーロー)ではない。傍らをつとめる存在なのだ。「あたり前じゃないか。またくだらんことを言うのか」とまたお叱りを受けるかもしれない。
だが人間、悲しいもので、このあたり前のことをつい忘れがちなものだ。たとえば我々は自分の女房の人生のなかでは、傍役である身分を忘れて、まるで主役づらをして振舞ってはいないか。
(中略)
夜、眠れぬ時死んだ友人たちの顔を思い出し、俺はあの男の人生で傍役だったんだな、と考え、いい傍役だったかどうかを考えたりする。
もちろん、女房の人生の傍役としても良かったかどうかをぼんやり思索もしてみる。遠藤周作 「私は傍役」 (出典:生き上手死に上手)
いかがでしょうか。「他人の人生においては自分は傍役」という視点は、言われてみれば当たり前だと思いますが、つい忘れてしまう視点ではないでしょうか。では、他者(対象者)を上司にして考えてみましょう。まずは上司の位置づけ、自分にとってどういう存在であるかを整理します。
企業等に就職した場合、多くの場合は組織の一員として企業等の目的や目標に沿った仕事を行うことになります。その企業の目的実現、目標達成のため、組織(チーム)のメンバーへ指示、指導をし、方向付けするために存在するのがそのチームのリーダーであり、チームメンバーにとっての上司ということになります。上司は、企業内での活動あるいは時には(間接的に)私生活などにおいても影響力を持つ存在であるといえます。このように影響力を持つ自分の上司を知る、または理解をするということは大変重要なことであると言えるでしょう。
次に、他者である上司を、どのようにして他者理解すればよいか考察してみます。
〇上司の仕事上の行動や日頃の発言を知る。
上司の行動や発言の意図を考えることにより、上司が仕事において興味を抱いている事柄や内容、更にはメンバーに期待する仕事(情報)について、より詳細に理解することができるかもしれません。行動や発言の内容がすぐに結びつくことがなくても、様々なヒントが隠されているはずです。そのためには、まずは上司とのコミュニケーションの機会を増やすとともに、上司の視点に立ち、上司の思考に沿って考えることが重要です。
また、上司の思考の理由や背景について考察することも大切なプロセスです。
〇上司の目的、目標を知る。
上司が組織の中で、どのような目標、成果の責任を担っているかを知ることにより、部下である自身の仕事の方向も定まり達成に向けた作業をすることができます。少なくとも上司の期待とは180度異なることにはならないでしょう。
〇上司の特質(人となり)を知るよう努める。
上司の人となりがわかるようになれば、よりその人に合わせた対応をとることができます。人となりを知るためには上司とのコミュニケーションを積極的にとり、その行動に注意を払ってみることが必要です。上司の長所、短所、向き不向き、得意不得意などを理解できれば、上司が何を望み何を望んでいないかなどが分かり具体的な対応をとることができるようになるでしょう。
〇コミュニケーションをスムーズに行う。
上司とのコミュニケーションについて、その頻度や方法などを考え、スムーズに行うことで信頼関係を構築することができ、より円滑な相互理解につながります。この場合の上司と部下との相互理解により解消できる障壁の具体例は、経験や知識の違い、世代の違い、考え方や価値観の違い、言葉の解釈の違い、ものごとへの捉え方の違い、といったものが挙げられます。コミュニケーションをとる際には傾聴、自己開示などに注意を払う必要があります。
このように、上司を知る(他者理解)ということは、仕事を行う面で非常に重要です。上司(他者)への理解を深め、相互に理解しあうことで、生産性の向上などによりつながりやすくなることでしょう。
(つづく)T.H