キャリアコンサルタントに有用なお話をしたいと思います。
■どんな人にも特質がある
このシリーズでは、「自己理解と他者理解」について考察します。まずは、「誰にでも特質がある」ということについて考えてみたいと思います。
私たちは、日々の生活のなかで多くの人に接し、その人たちと何らかの関係を持つ機会があると思います。その時に、自分の知っている人あるいは以前に合ったことがある人に風貌が似ている、あるいは性格が似ている、といった人に出会ったことがあるのではないでしょうか。風貌に関して言えば、昔から世の中には自分にそっくりな人が何人かはいるといわれます。双子の人のなかには、外観上そっくりで周りからみて区別がつかないほど似ている人に出会うようなこともあるかと思います。しかし、そのような人であっても、内面的な性質などまでが複製されたロボットのように全く同じという人はこの世の中には存在しません。すべてが全く同じ人はこの世の中にはいない、言い換えれば、人々は生まれながらに備わったそれぞれが異なった資質(特質)を有しているともいえるでしょう。
例えば、ある人はある方面の理解力に優れた才能・適性を生まれながらに持っているかもしれません。またある人はそのような才能・適性を生まれながらには持っていないかもしれません。一方で、人は生まれて以降の成長過程の中で、あるいは社会生活に揉まれていく中で、置かれた環境から多くのことを学習、そして習得し、生まれながらに持つ資質に拘泥されない特性(特質、特徴)を有するようになります。それは例えば知識、スキル、行動、意欲、感性などの面での特性だと言えるのではないでしょうか。それぞれが異なる環境態様の下で生活していること自体もその個人の特質といえるかもしれません。
人はこのように、生まれながらにして持つ特質、この世に生まれてから以降に経験する様々な環境の中で培われた特質を併せ持っており、これらの特質をどの程度、どのような形で発現していくか、逆にこれらの特質にどの程度左右されるかにより、人は独自の個人として他の人から認識されることになる言えるでしょう。これらの特質の発現の程度や形は人により異なるため、すべての人がその人の特質を持っており、同じ特質を有する人は存在しないといえます。人は誰でも特質を持っており、逆にいえばその特質ゆえに個人を特徴づけることができるのです。このようなことから、似ている人であると認識したとしても、少し話をするだけでその違いに気付くことになります。
キャリアコンサルティングの視点から、より専門的に言うのであれば、ここまでの話は、その人の「自己概念」であるといえると思います。ここではアメリカのキャリア研究者である、ドナルド・スーパー(Super)が唱えた自己概念について、労働政策研究・研修機構の資料より紹介します。
スーパーは、自己概念を、個人が自分自身をどのように感じ考えているか、自分の価値、興味がいかなるものかということについて、「個人が主観的に形成してきた自己についての概念」(主観的自己)と「他者からの客観的なフィードバックに基づき自己によって形成された自己についての概念」(客観的自己)の両者が個人の経験を統合して構築されてゆく概念であ ると説明している。自己概念は、幼少期から個人が家庭、学校、地域、その他の場、加えて 大人になってからは職場などで周囲から与えられたフィードバックや評価、具体的体験が、 その個人が生育した社会、文化など様々な要因から影響を受けながら、長期にわたって個人 の内部で形成されるものである。
人によって異なるキャリア発達は、個人がコントロールできない景気変動、技術革新あるい は天災などの外発的因子と、個人の才能や欲求、価値観などの内発的因子の相互作用から形成される。スーパーは、自分を取り巻く主観・客観的視点と自己を取り巻く環境の視点を組 み合せたモデルを提唱し、本人にとって個々のキャリアの有効性の程度と、キャリアが形成 できる主観的可能性の積が最も大きいキャリアが選択されると説明している。(労働政策研究・研修機構「職業相談場面におけるキャリア理論及び カウンセリング理論の活用・普及に関する文献調査」より)
URL:資料シリーズNo.165『職業相談場面におけるキャリア理論及びカウンセリング理論の活用・普及に関する文献調査』|労働政策研究・研修機構(JILPT)
少し難しい文章ではありますが、ここまで述べたことと本質的には同じことを言っていることがお分かり頂けるのではないかと思います。
すべての人が自分とは異なったその人独自の特質を持っているため、人と話をする場合には話をする相手の個人的な特質(特性)等に応じて話の内容、ポイント、留意すべき点などは意識して変えていくことが必要になります。さらに深い話題などに対応するには、相手をよく理解した上で話をするということが必要になるのではないでしょうか。
(つづく)Y.H