キャリアコンサルタントの知恵袋 | 株式会社テクノファ

実践に強いキャリアコンサルタントになるなら

基礎編・理論編

自己理解と他者理解ーキャリアコンサルタントの知恵袋|テクノファ

投稿日:2024年4月14日 更新日:

キャリアコンサルタントに有用なお話をしたいと思います。

■どんな人にも特質がある
このシリーズでは、「自己理解と他者理解」について考察します。まずは、「誰にでも特質がある」ということについて考えてみたいと思います。

私たちは、日々の生活のなかで多くの人に接し、その人たちと何らかの関係を持つ機会があると思います。その時に、自分の知っている人あるいは以前に合ったことがある人に風貌が似ている、あるいは性格が似ている、といった人に出会ったことがあるのではないでしょうか。風貌に関して言えば、昔から世の中には自分にそっくりな人が何人かはいるといわれます。双子の人のなかには、外観上そっくりで周りからみて区別がつかないほど似ている人に出会うようなこともあるかと思います。しかし、そのような人であっても、内面的な性質などまでが複製されたロボットのように全く同じという人はこの世の中には存在しません。すべてが全く同じ人はこの世の中にはいない、言い換えれば、人々は生まれながらに備わったそれぞれが異なった資質(特質)を有しているともいえるでしょう。

例えば、ある人はある方面の理解力に優れた才能・適性を生まれながらに持っているかもしれません。またある人はそのような才能・適性を生まれながらには持っていないかもしれません。一方で、人は生まれて以降の成長過程の中で、あるいは社会生活に揉まれていく中で、置かれた環境から多くのことを学習、そして習得し、生まれながらに持つ資質に拘泥されない特性(特質、特徴)を有するようになります。それは例えば知識、スキル、行動、意欲、感性などの面での特性だと言えるのではないでしょうか。それぞれが異なる環境態様の下で生活していること自体もその個人の特質といえるかもしれません。

人はこのように、生まれながらにして持つ特質、この世に生まれてから以降に経験する様々な環境の中で培われた特質を併せ持っており、これらの特質をどの程度、どのような形で発現していくか、逆にこれらの特質にどの程度左右されるかにより、人は独自の個人として他の人から認識されることになる言えるでしょう。これらの特質の発現の程度や形は人により異なるため、すべての人がその人の特質を持っており、同じ特質を有する人は存在しないといえます。人は誰でも特質を持っており、逆にいえばその特質ゆえに個人を特徴づけることができるのです。このようなことから、似ている人であると認識したとしても、少し話をするだけでその違いに気付くことになります。

キャリアコンサルティングの視点から、より専門的に言うのであれば、ここまでの話は、その人の「自己概念」であるといえると思います。ここではアメリカのキャリア研究者である、ドナルド・スーパー(Super)が唱えた自己概念について、労働政策研究・研修機構の資料より紹介します。

スーパーは、自己概念を、個人が自分自身をどのように感じ考えているか、自分の価値、興味がいかなるものかということについて、「個人が主観的に形成してきた自己についての概念」(主観的自己)と「他者からの客観的なフィードバックに基づき自己によって形成された自己についての概念」(客観的自己)の両者が個人の経験を統合して構築されてゆく概念であ ると説明している。自己概念は、幼少期から個人が家庭、学校、地域、その他の場、加えて 大人になってからは職場などで周囲から与えられたフィードバックや評価、具体的体験が、 その個人が生育した社会、文化など様々な要因から影響を受けながら、長期にわたって個人 の内部で形成されるものである。

人によって異なるキャリア発達は、個人がコントロールできない景気変動、技術革新あるい は天災などの外発的因子と、個人の才能や欲求、価値観などの内発的因子の相互作用から形成される。スーパーは、自分を取り巻く主観・客観的視点と自己を取り巻く環境の視点を組 み合せたモデルを提唱し、本人にとって個々のキャリアの有効性の程度と、キャリアが形成 できる主観的可能性の積が最も大きいキャリアが選択されると説明している。(労働政策研究・研修機構「職業相談場面におけるキャリア理論及び カウンセリング理論の活用・普及に関する文献調査」より)

URL:資料シリーズNo.165『職業相談場面におけるキャリア理論及びカウンセリング理論の活用・普及に関する文献調査』|労働政策研究・研修機構(JILPT)

少し難しい文章ではありますが、ここまで述べたことと本質的には同じことを言っていることがお分かり頂けるのではないかと思います。

すべての人が自分とは異なったその人独自の特質を持っているため、人と話をする場合には話をする相手の個人的な特質(特性)等に応じて話の内容、ポイント、留意すべき点などは意識して変えていくことが必要になります。さらに深い話題などに対応するには、相手をよく理解した上で話をするということが必要になるのではないでしょうか。
(つづく)Y.H

-基礎編・理論編

執筆者:

関連記事

若者の職業選択とキャリア形成

今回は職業選択とキャリア形成について考えてみたいと思います。 若者の支援においては、失敗経験等により自尊心が傷ついたり、自己評価の低い者への配慮が求められる。自尊心の回復や信頼関係の構築の後、経験の棚卸しや学習歴、資格等を確認し、相談者が自己の行動特性に対して、適切な自己評価を行えるように支援することが有効であると考えられる。 若者支援においては、仕事や企業に関する研究不足が離職につながる可能性が高いことを認識し、幅広い職業・業界の知識や企業情報、労働に関する知識等を若者が理解するように支援することが求められる。中でも、企業における人材育成・活用の考え方や施策、工夫を理解し、個人と組織の両面が …

MBO 目標管理ーキャリアコンサルタントの知恵袋|テクノファ

キャリアコンサルタントに有用なお話をしたいと思います。横山哲夫先生(1926-2019)がいたモービル社では、主要ラインの長(役員)を委員とする会議をトップが招集し、各種の人事資料を基にして幹部職位の後継可能者の一人ひとりについて論議をつくし、多面評価と育成プランの検討を行なっていました。この人材育成会議は、同社ではトップの交替にかかわらず継続されており、席上決定をみたプラン以外の異動、昇進、教育、配転が行なわれることはめったにありませんでした。密室や派閥の人事とはまったく無縁の年次定例会議が丸々二日間人材育成のみを討議する会議として全社員に周知されていました。モービル社はまた、例年、別の時期 …

多様・異質・異能が組織を伸ばす | 横山哲夫著

故横山哲夫先生は、個人が人生を通じての仕事にはお金を伴うJOBばかりでなく、組織に属していようがいまいが、自己実現のためのWORKがあるはずであるという鋭い分析のもと数多くの研究成果を出されてきております。 先生には多くの著者がありますが、今回はその中からキャリアコンサルタントの役に立つ「個立の時代の人材育成」-多様・異質・異能が組織を伸ばす-の核となるところを紹介したいと思います。 2020 年9月に経済産業省の「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会」から「人材版伊藤レポート」が公表されました。同報告書は、企業経営者や人事部門の方たちによく読まれています。この報告書が出されてから「 …

民間教育訓練機関における職業訓練サービスガイドライン6

厚労省はISO29990を踏まえ、民間教育訓練機関が職業訓練サービスの質の向上を図るために取り組むべき事項を具体的に提示したガイドラインを発表しています。テクノファで行っているキャリアコンサルタント養成講座は、民間教育訓練機関におけるサービスの質の向上のガイドラインである「ISO29990(非公式教育・訓練のための学習サービス事業者向け基本的要求事項)」のベースであるISO9001に沿って行われています。 ●「民間教育訓練機関における職業訓練サービスガイドライン」 URL:2r985200000277tu.pdf PowerPoint プレゼンテーション サイト内検索結果|厚生労働省 以下、厚 …

キャリアコンサルタント熟練レベルを目指して

厚生労働省がキャリア開発・形成を支援するキャリアコンサルティングという専門的な活動を担う人材を、登録制の名称独占資格のキャリアコンサルタントとして、導入・標準・熟練・指導の4つのレベルに分けて能力要件を定め、キャリアコンサルティングの制度を策定、運用していることはすでに説明してきたとおりですが、ここでは、熟練レベルと非熟練レベルとの差異について、中央職業能力開発協会のキャリアコンサルティング研究会報告書「熟練キャリアコンサルタントに係る調査研究」を引用して説明します。 原則として厚生労働大臣が認定する講習の課程を修了し、国家資格キャリアコンサルタント試験に合格した者を「標準レベルのキャリアコン …