近年、日本の会社は製造業を中心に海外進出を急速に進めています。すでに進出のピークは過ぎていると思われますが、キャリアコンサルタントが海外進出の日本企業で働く人と接触する機会はどんどん増加しています。今回は韓国の産業界の事情をお話ししようと思います。私は2000年以降5回韓国を訪問していますが、年々産業界の競争力が上がっていることに驚きをもっています。
韓国で今大きな課題となってるものは、日本でも問題になっている少子化です。急速な少子高齢化に伴う人口構造の変化への対応が急務となってきています。少子化は、2021年の合計特殊出生率が0.81と1970年の出生統計開始以来の低水準を記録し、OECD加盟国中で唯一マイナスとなっており、最下位となりました。韓国は年金や健康保険に関しては、日本と同様、国民皆年金制度、国民皆保険制度を取っていますが、少子化により、年金基金の枯渇等に対する対策が急務とされています。
<概要>
1960年代に官主導型資本主義による経済発展を目指し、1970年代の重化学工業化が進展する高度成長期を経て、1980年代後半以降、社会保障の基盤が構築され始めた。1997年のアジア通貨危機を受け、金大中政権(1998~2003)は、国民基礎生活保障制度の実施や社会保険の大改革により、国家の社会保障責任を強化し、これが盧武鉉政権(2003~2008)の「参加福祉」モデルとなり、李明博政権(2008~2013)の「能動的福祉」モデルにより発展的に拡大することとなった。この過程で、特に少子・高齢化対策や社会的弱者(障害者、高齢者)への配慮が強調されてきた。文在寅政権(2017~2022)では、健康保険の保障性強化(通称「文在寅ケア」)としてMRI等の保険適用外診療3,800以上を保険適用とする等の対策を行った。これに対して2022年以降の尹錫悦政権では、今後の少子高齢化による影響も見据え、年金改革及び健康保険改革を打ち出し、年金及び健康保険の持続性強化を目的とした改革を実施していくとしている。現在の社会保障制度は、社会保険、公的扶助及び社会サービスからなっている。社会保険には、国民年金、国民健康保険、雇用保険、産業災害補償保険(日本の労働者災害補償保険に相当)の4大社会保険及び高齢者長期療養保険(日本の介護保険に相当)がある。公的扶助には、低所得者層に生計給付、医療給付、住居給付等の7つの給付を行う国民基礎生活保障制度、基礎年金、障害者年金等がある。社会サービスは、支援が必要なすべての国民に対して国、地方自治体及び民間部門が福祉、保健医療、教育、雇用、住宅、文化、環境等の分野で人間らしい生活を保障し、相談、リハビリテーション、ケア、情報の提供、関連施設の利用、能力開発、社会参加支援等を通じて国民の生活の質が向上するよう支援する制度である。
(出典)厚生労働省 001105071.pdf (mhlw.go.jp)
【国民年金制度】
韓国では、国民年金制度が1988年の国民年金法の施行により導入されました。国民皆年金制度としては、当初は対象者を事業所加入者(常時10人以上の勤労者を雇用する事業所)に限定していましたが、徐々に対象者を拡大し、1999年に都市地域住民まで拡大したことにより、国民全員を対象とする制度になりました。
年金制度の構造は、日本のような国民年金と厚生年金の2階建てではなく、国民年金のみの1階建てです。公的年金制度には、国民年金のほか、公務員(国公立学校の教職員を含む)を対象とする公務員年金、私立学校の教職員が加入する私立学校教職員年金、軍人が加入する軍人年金及び郵便局職員を対象とする別定郵便局職員年金があり、これら特殊年金は、国民年金と重複しません。
【基礎年金制度】
受給者は2021年末時点で約600万名であり、基礎年金受給者のうち90.0%が最大支給額を受給しています。礎年金制度は、2008年から設けられており、公的な老後所得保障は租税を財源としてより多くの人に行き届いたものとされています。最大支給額は2022年時点で約5万円です。
【医療保険制度】
2000年に国民健康保険法が制定され、国民健康保険公団を設立、国民医療保険管理公団と複数の職場医療保険組合は1つの保険者として国民健康保険公団に統合されました。2006年からは、適用事業所で雇用される外国人も加入が義務化されています。適用事業所で雇用されない場合は、3か月以上滞在した者について、健康保険の地域加入者として任意加入の対象となっていましたが、2019年からは、6か月以上在留した外国人は健康保険の原則的な加入が義務づけられました。これは、短い加入期間で健康保険適用対象の高額な診療を受けて帰国する外国人が増加する等、外国人の健康保険に関する財政悪化問題が深刻化したためといわれています。
歴史的には、1963年に医療保険法が制定され、制定当時は300人以上の事業所を主な対象とする任意加入方式であした。1977年に500人以上の事業所を強制加入対象とする職場医療保険が導入され、1989年には非賃金所得者が加入する地域医療保険が導入されたことにより国民皆保険となりました。
【高齢者長期療養保険制度】
2008年、加齢や病気のため入浴や家事等日常生活に支障がある者に対して生活支援サービスなどを提供し、老後の生活の安定と家族の負担軽減を図ることを目的として高齢者長期療養保険制度が導入されました。
高齢者長期療養保険の保険料は、健康保険料に長期療養保険料率を乗じて算定されますが、最低賃金の引上げや急速な高齢化によるサービス需要の高まりに伴い上昇傾向にあります。サービスは、原則として65歳以上の高齢者に対して適用されますが、加齢性疾患がある場合は65歳未満の者にも適用が可能とされています。高齢者長期療養保険は、国民健康保険公団に認定申請をした上で等級判定を受ける必要があり、日常生活への支障の程度に応じて1等級(日常生活のすべてに療養が必要)から5等級(認知症患者)に分類され、それぞれに応じたサービスが受けられるようになっています。
(以上)