キャリアコンサルタントの知恵袋 | 株式会社テクノファ

実践に強いキャリアコンサルタントになるなら

実践編・応用編

海外進出日本企業で働く人々_韓国_社会保障

投稿日:2024年4月1日 更新日:

近年、日本の会社は製造業を中心に海外進出を急速に進めています。すでに進出のピークは過ぎていると思われますが、キャリアコンサルタントが海外進出の日本企業で働く人と接触する機会はどんどん増加しています。今回は韓国の産業界の事情をお話ししようと思います。私は2000年以降5回韓国を訪問していますが、年々産業界の競争力が上がっていることに驚きをもっています。

韓国で今大きな課題となってるものは、日本でも問題になっている少子化です。急速な少子高齢化に伴う人口構造の変化への対応が急務となってきています。少子化は、2021年の合計特殊出生率が0.81と1970年の出生統計開始以来の低水準を記録し、OECD加盟国中で唯一マイナスとなっており、最下位となりました。韓国は年金や健康保険に関しては、日本と同様、国民皆年金制度、国民皆保険制度を取っていますが、少子化により、年金基金の枯渇等に対する対策が急務とされています。

<概要>
1960年代に官主導型資本主義による経済発展を目指し、1970年代の重化学工業化が進展する高度成長期を経て、1980年代後半以降、社会保障の基盤が構築され始めた。1997年のアジア通貨危機を受け、金大中政権(1998~2003)は、国民基礎生活保障制度の実施や社会保険の大改革により、国家の社会保障責任を強化し、これが盧武鉉政権(2003~2008)の「参加福祉」モデルとなり、李明博政権(2008~2013)の「能動的福祉」モデルにより発展的に拡大することとなった。この過程で、特に少子・高齢化対策や社会的弱者(障害者、高齢者)への配慮が強調されてきた。文在寅政権(2017~2022)では、健康保険の保障性強化(通称「文在寅ケア」)としてMRI等の保険適用外診療3,800以上を保険適用とする等の対策を行った。これに対して2022年以降の尹錫悦政権では、今後の少子高齢化による影響も見据え、年金改革及び健康保険改革を打ち出し、年金及び健康保険の持続性強化を目的とした改革を実施していくとしている。現在の社会保障制度は、社会保険、公的扶助及び社会サービスからなっている。社会保険には、国民年金、国民健康保険、雇用保険、産業災害補償保険(日本の労働者災害補償保険に相当)の4大社会保険及び高齢者長期療養保険(日本の介護保険に相当)がある。公的扶助には、低所得者層に生計給付、医療給付、住居給付等の7つの給付を行う国民基礎生活保障制度、基礎年金、障害者年金等がある。社会サービスは、支援が必要なすべての国民に対して国、地方自治体及び民間部門が福祉、保健医療、教育、雇用、住宅、文化、環境等の分野で人間らしい生活を保障し、相談、リハビリテーション、ケア、情報の提供、関連施設の利用、能力開発、社会参加支援等を通じて国民の生活の質が向上するよう支援する制度である。
(出典)厚生労働省 001105071.pdf (mhlw.go.jp)

【国民年金制度】
韓国では、国民年金制度が1988年の国民年金法の施行により導入されました。国民皆年金制度としては、当初は対象者を事業所加入者(常時10人以上の勤労者を雇用する事業所)に限定していましたが、徐々に対象者を拡大し、1999年に都市地域住民まで拡大したことにより、国民全員を対象とする制度になりました。
年金制度の構造は、日本のような国民年金と厚生年金の2階建てではなく、国民年金のみの1階建てです。公的年金制度には、国民年金のほか、公務員(国公立学校の教職員を含む)を対象とする公務員年金、私立学校の教職員が加入する私立学校教職員年金、軍人が加入する軍人年金及び郵便局職員を対象とする別定郵便局職員年金があり、これら特殊年金は、国民年金と重複しません。

【基礎年金制度】
受給者は2021年末時点で約600万名であり、基礎年金受給者のうち90.0%が最大支給額を受給しています。礎年金制度は、2008年から設けられており、公的な老後所得保障は租税を財源としてより多くの人に行き届いたものとされています。最大支給額は2022年時点で約5万円です。

【医療保険制度】
2000年に国民健康保険法が制定され、国民健康保険公団を設立、国民医療保険管理公団と複数の職場医療保険組合は1つの保険者として国民健康保険公団に統合されました。2006年からは、適用事業所で雇用される外国人も加入が義務化されています。適用事業所で雇用されない場合は、3か月以上滞在した者について、健康保険の地域加入者として任意加入の対象となっていましたが、2019年からは、6か月以上在留した外国人は健康保険の原則的な加入が義務づけられました。これは、短い加入期間で健康保険適用対象の高額な診療を受けて帰国する外国人が増加する等、外国人の健康保険に関する財政悪化問題が深刻化したためといわれています。

歴史的には、1963年に医療保険法が制定され、制定当時は300人以上の事業所を主な対象とする任意加入方式であした。1977年に500人以上の事業所を強制加入対象とする職場医療保険が導入され、1989年には非賃金所得者が加入する地域医療保険が導入されたことにより国民皆保険となりました。

【高齢者長期療養保険制度】
2008年、加齢や病気のため入浴や家事等日常生活に支障がある者に対して生活支援サービスなどを提供し、老後の生活の安定と家族の負担軽減を図ることを目的として高齢者長期療養保険制度が導入されました。

高齢者長期療養保険の保険料は、健康保険料に長期療養保険料率を乗じて算定されますが、最低賃金の引上げや急速な高齢化によるサービス需要の高まりに伴い上昇傾向にあります。サービスは、原則として65歳以上の高齢者に対して適用されますが、加齢性疾患がある場合は65歳未満の者にも適用が可能とされています。高齢者長期療養保険は、国民健康保険公団に認定申請をした上で等級判定を受ける必要があり、日常生活への支障の程度に応じて1等級(日常生活のすべてに療養が必要)から5等級(認知症患者)に分類され、それぞれに応じたサービスが受けられるようになっています。
(以上)

-実践編・応用編

執筆者:

関連記事

わが国の国土交通行政の展開

キャリアコンサルタントが知っていると有益な情報をお伝えします。 国土交通省は、陸海空にわたる諸活動の基盤に関して、国土の総合的な利用と保全、社会資本の整合整備、交通政策の推進、観光立国の推進,、海上の安全の確保などを任務としています。これらの多岐にわたる取組みの目指すところは、安心・安全で豊かな自立し活力ある暮らしを可能にすることにより私達の暮らしを支えることといえます。今回は、国土交通行政の展開についてお話しします。 ◆東日本大震災からの復旧・復興の現状と対策 東日本大震災からの復旧・復興事業については、国土交通省の最優先課題の一つであり、一日も早い復興を目標に全力で取り組んできました。 そ …

no image

日本企業のファイナンス機能:ビジネスとの距離感

キャリアコンサルタントの方に有用な情報をお伝えします。 前回に続き、経済産業省製造産業局が2024年5月に公表した資料「製造業を巡る現状と課題について今後の政策の方向性」からスライド19ページ「日本企業のファイナンス機能の現状:ビジネスとの距離感」について、構造的に解説します。 (出典)経済産業省 016̠04̠00.pdf ◆ 概要:ビジネス部門とファイナンス部門の距離が開いている この図は、「管理会計業務における経理・財務部門の関与割合」を視覚化したものです。特に注目すべきは、上段(バックオフィス的な活動)では高い関与率を示す一方、下段(ビジネスパートナーとしての活動)では関与率が顕著に低 …

今後の日本の経済社会の構築 2

キャリアコンサルタントが知っていると有益な情報をお伝えします。 前回に続き、経済の社会の構築について、お話しします。今後の日本経済は、より高い製品開発能力を獲得し、製品の付加価値を高めながらアジアを中心とする諸外国との経済分業の下で、互恵的な経済社会の発展を追及していくことが基本的な方向です。 ○航空自由化戦略的推進による我が国の国際航空網の拡充 国際航空網の拡充を図るため、我が国では航空自由化(オープンスカイ)を推進しています。 首都圏空港の厳しい容量制約を背景に、羽田空港を自由化の対象外とするなど一部制約が残るが、我が国を発着する国際旅客便数は、成田空港における二国間輸送を自由化の対象に追 …

日本の環境の保全と創造 3

キャリアコンサルタントが知っていると有益な情報をお伝えします。 前回に続き、環境の保全と創造についてお話しします。環境保全とは、自然環境や生態系を保護し、持続可能な状態を維持するための取組みのことです。保全の目的は、自然資源の持続可能な利用や再生、生物多様性の保全、大気や水の浄化、エネルギーの効率的な利用などです・これらにより、地球上の生態系のバランスを保ち、将来世代に美しい環境を受け継ぐことができます。 ●未利用水力エネルギーの活用 気候変動への適応・カーボンニュートラルへの対応のため、ダムによる治水機能の強化と水 力発電の促進を両立する「ハイブリッドダム」 の取組みを推進しています。この取 …

海外進出日本企業で働く人々_インドネシア_労働条件施策

インドネシアは、ASEAN地域で最も人口が多く、約2億7千万人を擁しています。この巨大の人口が国内市場の規模を拡大し続ける要因となっています。またASEANで最大のGDPを有しており、東南アジアの地域経済において重要な立ち位置にあります。インドネシアに進出している日本企業は約1500社となっていますが、近年の不安定な中国や台湾問題を考慮するとインドネシアへ進出する日本企業は今後まだまだ増えていくだろうと見られています。そんな中、キャリアコンサルタントが日本企業で働く人とコンサル業務でかかわる事も多くなっています。今回は、インドネシアの労働条件施策についてお話しします。 労働条件に関しては、労働 …