昨今は海外進出している企業で働く日本人も多数います。彼らを取り巻く状況を知っていることもキャリアコンサルタントには有用なことです。今回は韓国の労働市場についてお伝えします。
■2023年最近の動向
1.尹錫悦(ユン・ソンニョル)新政権の「6大国政目標」と「110大国政課題」
2022年5月10日、尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領が就任し、「6大国政目標」が定められました。具体的には、①常識を取り戻した正しい国、②民間が引っ張り、政府が後押しするダイナミックな経済、③あたたかく寄り添い、誰もが幸せな社会、④自律と創意で作る揺るぎない未来、⑤自由、平和、繁栄に寄与するグローバルな中枢国家、⑥韓国のどこでも暮らしやすい地方時代の6つです。⑥を除くそれぞれの国政目標には、全部で110の国政課題が置かれており、①に15、②に26、③に32、④に19、⑤に18の国政課題が置かれています。このうち、労働分野に係る課題は、3つめの目標の「あたたかく寄り添い、誰もが幸せな社会」に置かれた32の課題のうちの次の7つであります。
① 労働災害防止の強化及び企業自律の安全管理体系構築の支援
② 公正な労使関係の構築及び両性平等雇用の実現
③ 労使の協力による共生の労働市場の構築
④ 雇用事業の効果の向上及び雇用サービスの高度化
⑤ 雇用のセーフティネットの強化及び持続可能性の向上
⑥ 全国民の生涯段階別職業能力開発と職場学習の支援
⑦ 中小企業・自営業者へのオーダーメード型職業訓練の支援強化
これについては、労働組合は不平等社会と二極化を懸念しており、経営者側は規制緩和を高く評価しています。
2.労働市場改革
労働市場改革は、尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領の「新政権の経済政策方向」においても取り組むべき課題として取り上げられているものとなっています。2022年6月23日、雇用労働部のイ・ジョンシク長官は、新政権の労働市場改革推進の方向性に関するブリーフィングを行い、労働時間制度と賃金体系の改編を喫緊の課題として取り上げました。
労働時間制度は、2018年に勤労基準法が改正され、労働時間の上限は週52時間に定められました。以降、制度の定着に努めてきた一方、労働時間の「短縮」と企業や業種の経営環境の「多様化」の間でバランスを取るべく柔軟に対応すべきとの要望が強く、これを勘案し、①週単位での管理としている労働時間の上限を月単位での管理にするなど合理的な総量管理の期間に関する方案、②選択的勤務時間制について、研究開発分野のみ精算期間を3か月としている現行制度を、その他職種にも拡大すること等を検討することとしました。これにより、基本的な労働時間の上限は現行制度を維持しつつも、繁忙期の業務量の増加にも柔軟に対応する制度を模索するとしています。
賃金体系については、韓国では一般的に年功色の強い賃金体系となっていることから、時代に沿った賃金体系とすべく、①終身雇用と年功序列の賃金体系の見直し、②賃金ピーク制や再雇用などの合理的な制度改善を検討することとしました。同部では、7月から10月にかけての4か月間に、関係する専門家とともに「未来の労働市場研究会」を開催し、その後具体的な立法課題と政策課題を抽出するとしました。
新型コロナウイルス感染症に関する雇用対策
2017年10月の雇用政策ロードマップ(5年間)の発表以来、文在寅(ムン・ジェイン)前政権はジョブセーフティネットの強化やイノベーション人材の育成、最低賃金の引き上げや週52時間労働の導入などのタスクを実行し、その結果、労働市場の賃金格差の縮小や労働時間の短縮などが図られた。就業率は史上最高に達し、特に雇用市場で脆弱とみなされている若者、女性、高齢者の就業率はすべて上昇した。しかし、2020年からの新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受けて、2020年3月以降雇用指標が悪化し、被用者数が急減、失業率が上昇した。これに対応するため、政府は、2020年から2021年にかけて72兆ウォンに相当する雇用パッケージを策定した。雇用維持補助金については、新型コロナウイルスが原因で操業が中断された事業所は、2020年1月29日から、生産量の減少などの要件を証明する必要なく、雇用調整が避けられなくなった事業主として認定されることとされたほか、2020年9月末まで支援水準が引き上げられた。
特に、旅行業、観光運送業、観光宿泊業、公演業、航空機取扱業、免税店、展示・国際会議業、空港バスの8つの観光関連業種を「特別雇用支援業種」に指定し、事業所の規模にかかわらず、2021年3月31日までの間、支援水準を90%(1日当たりの上限は7万ウォン)に引き上げた。2020年8月24日からは、この8つの特別雇用支援業種の企業の支援期間を60日延長した(最大180日→240日)。さらに、2020年10月20日、その他の業種に対する支援期間も2020年内は60日延長することとした(最大180日→240日)。また、緊急雇用安定補助金プログラムを含む様々な収入支援プログラムを実施し、収入支援を提供した。これにより自営業者など雇用保険の対象外の者に対しても支援を行った。2020年から2021年にかけて累計約179万人が緊急雇用安定補助金を受給した。さらに、低所得者や若者など、脆弱なグループの者が労働市場にとどまることができるよう、政府予算を使用して、公共部門と民間部門の両方で雇用を創出するよう努めた。これにより、2020年には約159万人の雇用が、また2021年は10月までに約139万人の雇用が創出された。(出典)厚生労働省 2022年 海外情勢報告
(つづく)Y.H