昨今は海外進出している企業で働く日本人も多数います。彼らを取り巻く状況を知っていることもキャリアコンサルタントには有用なことです。今回は韓国の労働市場についてお伝えします。
■労使関係施策
政府は、重要な労働問題について労使団体との政策協議やその他積極的なコミュニケーションを通じて、不必要な対立を防ぎ、労使間の協力の精神を促進しており、組合に加入していない労働者を代表する組織と協力して、利益をより適切に保護するために、意見の収集やアイデアを共有のため、中央及び地方レベルで協議機関を設立しています。さらに、組合に加入していない脆弱な労働者を代表する組織の活動を活性化し、これらの労働者の権利と利益を保護するために、非営利団体を支援するプロジェクトを実施しています。
1.労使団体
(1)概説
1980年代前半まで、軍事政権下で労働運動は活発ではなかったが、1987年の民主化宣言により労働運動が解放されたことにより本格的な労働組合の組織化が始まり、組織数も飛躍的に増加、労働争議も活発化しました。近年の制度的な動きとしては、2010年1月の「労働組合及び労働関係調整法」の改正により、従来は許容されていなかった一つの事業又は事業所における複数の労働組合の組織や加入が自由にできるようになったこと(複数労働組合制度。2010年7月施行)、それとともに、労働組合専従者への賃金の支払が禁止されたが、「勤労時間免除(タイムオフ)制」と呼ばれる例外規定が設けられ、労働組合専従者がある一定の勤労時間免除の範囲内で、賃金を削減されることなく、労使協議・交渉等に従事することが認められたことなどが挙げられます。
(2)労働組合員数及び組織率
1987年の民主化宣言により一時的に組織率が上昇し、1989年には19.8%となりましたが、その後は継続的に低下し、2010年には最低値9.8%を記録、その後も2017年までは10%台の組織率が続いたが、2018年以降は約1%程度ずつ上昇し、2020年14.2%と2008年(10.8%)以降最も高い組織率となりました。また、2020年の労働組合員数は280万5千人となり2019年より26.5万人(前年比10.4%)増加しました。
(3)労働組合
対話重視の保守派の韓国労働組合総連盟(韓国労総、Federation of Korea Trade Union: FKTU)及び闘争重視の進歩派の韓国全国民主労働組合総連盟(民主労総、Korean Confederation of Trade Unions: KCTU)の2つのナショナルセンターがあります。日本に比べ活動は激しく、保守派の韓国労総もゼネストを度々展開していおり、2021年「全国労働組合組織現況報告書」によると、韓国労総には、2,701組合、123.8万人、民主労総には、381組合、121.3万人が加盟しています。
(4)使用者団体
韓国経営者総協会(韓国経総、Korea Employers Federation)は、産業における平和と国内産業の発展を目的として1970年に設立された経営者団体であり、約4,250社が加盟しています。
(5)労働争議の発生件数等
1987年の民主化宣言以降、件数が激増したが、その後沈静化しました。2004年まで漸増傾向にあったが、2005年以降再び沈静化の傾向にありましたが、2012年以降は増加傾向であり、13年を除き100件を超えています。
仕事と家庭を両立するための施策
イ 産前・産後休暇
使用者は、90日の産前・産後休暇を与えなければならない。そのうち少なくとも45日は産後としなければならない。産前・産後休暇のうち60日分については、有給休暇となり事業主から賃金が支給される。休暇が終わった日以前に雇用保険の被保険者期間が180日以上ある等、一定の要件を満たす場合、雇用保険から通常賃金額と同額の出産前後休暇給付が支給される。(中小企業については90日の産前・産後休暇全日数に支給がなされるが、大企業については30日の無給期間のみ支給。企業規模によって上限額あり。)ロ 流産・死産休暇
妊娠16週以後、流産又は死産した女性労働者に、妊娠期間に応じて5~10日間の流産・死産休暇を与えるものである。休暇の期間は妊娠期間により異なる。(11週以内:5日間、12~15週以内:10日間、16~21週以内:30日間、22~27週以内:60日間、28週以上:90日間をそれぞれ休暇の上限とする)。休暇期間中の給付金は産前・産後休暇と同様の基準で支給される。ハ 育児休職
育児休職の対象については、2010年1月までは、生後3歳未満の乳幼児を扶養する者が対象であったが、2010年2月から満6歳以下の小学校進学前の子に緩和され、さらに2014年1月から満8歳以下の小学校2年生以下の子に緩和されている。育児休職期間は、子ども1人当たり1年以内で両親ともに同じ子に対してそれぞれ1年以内の育児休職を取ることができる。なお、育児休職に係る給付金として、育児休職を開始した日以前に雇用保険の被保険者期間が180日以上ある等、一定の要件を満たす場合、休職中には、雇用保険から、賃金の80%(最低月70万ウォン~最高150万ウォン(2022年1月1日現在))の育児休職手当が支給される(育児休職手当の一部(25%)は、母親の復職へのインセンティブのため、復職後6か月以上継続勤務した場合に一括支給される。)。ニ 育児期労働時間短縮制度
2008年6月から、育児休職の代わりに、労働時間を週当たり15〜35時間に短縮する育児期労働時間短縮制度が導入され、2011年には短縮した時間に関しても給付金が支給されるようになった。さらに、2012年には育児期労働時間短縮の企業への義務化が導入され、育児休業を申請することができる労働者が労働時間の短縮を申請する場合、特別な事由がない限り許可しなければならないこととされた。(出典)厚生労働省 2022年 海外情勢報告
■経営上の理由による解雇(整理解雇)
1.事業主が経営上の理由により勤労者を解雇するには、緊迫した経営上の必要がなければならない。この場合、経営悪化を防止するための事業の再編・引き受け・合併は、緊迫した経営上の必要があるものとみなす。
2.事業主は解雇を避けるための努力を尽くさなければならず、合理的で公正な解雇の基準を定め、それに基づいてその対象者を選定しなければならない。この場合、男女の性別を理由に差別してはならない。
3.事業主は、2による解雇を避けるための方法及び解雇の基準等に関し、その事業又は事業場に勤労者の過半数で組織された労働組合がある場合にはその労働組合(勤労者の過半数で組織された労働組合がない場合には、勤労者の過半数を代表する者をいう。)に対して、解雇をしようとする日の50日前までに通知し、誠実に協議しなければならない。
4.事業主は、大統領令で定める規模以上の人員を解雇しようとするときは、雇用労働部長官に申告しなければならない。
5.事業主が、(イ)から(ハ)までの規定による要件を備えて解雇した場合には、正当な理由がある解雇をしたものとみなす。
6.解雇予告
事業主は、労働者を解雇(経営上の理由による解雇を含む。)しようとするときは、少なくとも30日前にその予告をしなければならず、解雇予告をしないときは、30日分以上の通常賃金を支給しなければなりません。ただし、天災その他やむを得ない事由で事業の継続が不可能な場合又は労働者が故意に事業に重大な支障を招き、又は財産上損害を与えた場合として労動部令が定める事由に該当する場合を除きます。
7.不当解雇に対する救済
事業主が労働者に対して正当な理由なく不当解雇などをした場合には、労働者は労働委員に救済を申請することができます。この申請は、不当解雇などがあった日から3か月以内に行わなければならず、労働委員会は、関係当事者から証拠の提出を受けて当事者を審問し、不当解雇などの事実が認められるときは、事業主に救済命令を出します。労働者が原職復帰を望まない場合には、解雇期間中の賃金相当額以上の金銭補償を命ずることができます。
(つづく)Y.H