昨今は海外進出している企業で働く日本人も多数います。彼らを取り巻く状況を知っていることもキャリアコンサルタントには有用なことです。今回は韓国の雇用失業政策についてお伝えします。
■大韓民国の雇用失業政策
大韓民国(以下韓国)では、新型コロナウイルス感染症に関する雇用対策として、雇用維持補助金の大幅拡大、緊急雇用安定補助金を含む収入支援等の対策がとられています。2022年5月10日、尹錫悦(ユン・ソンニョル)氏が新大統領に就任しました。5年ぶりの保守政権となるユン新政権は、「6大国政目標」と「110大国政課題」を掲げ、労働分野においても、労働市場改革等の課題に取り組もうとしています。
雇用・失業対策
(1)雇用・失業情勢
労働力人口及び就業者数は、多少の変動はあるものの、経済成長や各種労働政策を反映し、緩やかな増加傾向にある。失業率は、2019年には3.8%であったが、その後新型コロナウイルス感染症の影響を受けて、2020年には4.0%まで上昇した。2022年は第1四半期に3.0%となった後は、概ね横ばいである。また、15歳から24歳までの失業率は、2020年までは10%を超えていたが、ここのところ低下傾向にある。(2)雇用・失業対策
イ 概要
雇用創出につながる経済成長力が低下していること、また人々がより頻繁に転職するようになったことから、就職支援の役割はますます重要となっている。政府は人材サービスの高度化に力を入れており、抜本的な改革が進行中である。具体的には、仕事とスキルのミスマッチを解消するため、現在雇用している・雇用しようとしている企業を特定することが重要であるとの観点から、2016年から質の高い雇用機会を提供する企業を発掘する「求人検索チーム」を運営している。2019年は、その中から5,000社が採用特別支援の対象事業者として選定され、16,000件の就職に結びついている。また、求職者により良いカウンセリングサービスを提供するため、キャリア・カウンセラーの能力向上プログラムを実施している。あわせて、ワンストップサービスの提供や脆弱なグループへのサポートの強化を目指し、雇用サービスと福祉給付の両方を必要とする者を対象とした、雇用福祉プラスセンターの設置及び拡充を図っている。
ロ 雇用支援サービスの主体
雇用労働政策を担当しているのは雇用労働部(Ministry of Employment and Labor : MOEL)である。雇用労働部の傘下機関で公共職業紹介機関である雇用福祉プラスセンター及び雇用センターが、職業紹介、就職支援、雇用保険管理及び職業訓練(受講認定/費用支援等)などの雇用支援に係る業務を行っている。ハ 雇用福祉プラスセンターの展開
近年、雇用サービスと福祉サービスの需要の増加を背景として、各サービス別、対象者別に、複数の機関によりサービスが展開されており、利用者が複数の機関を訪問しなければならない不便が生じていた。こうしたことから、利用者が雇用と福祉を統合したサービスをワンストップで受けられるよう、中央省庁、自治体、民間団体が協議し、雇用福祉プラスセンターが2014年に南揚州市に開設された。その後、全国において同センターの設置が進められており、2021年現在、合計174か所の雇用福祉プラスセンターが設置されている。(出典)厚生労働省 001105071.pdf (mhlw.go.jp)
■雇用維持・促進施策
雇用維持補助金は、景気の変動、産業構造の変化等による事業規模の縮小、事業の廃業または転換により雇用調整が避けられなくなった事業主が、労働者に対する休業、休職、職業転換に必要な職業能力開発訓練、人材の再配置等を実施し、またはその他の労働者の雇用安定のための措置(雇用維持措置)を講じた場合、雇用労働部長官がその事業主に対して人件費の一部を支援する制度です。
■若年者雇用対策
2020年は新型コロナウイルス感染症の影響により、若者の雇用へも大きな影響が出ました。これを受け、雇用労働部は関係省庁と共同で「青年雇用活性化対策(2021年3月)」を実施し、2021年には104万人の青少年が合計0.6兆円の支援の対象となった。若者の雇用をさらに創出するため、民間の雇用創出の基盤を強化することで、若者の雇用を延べ10.2万件創出する取り組みを実施しています。中小企業又は中堅企業がデジタルセクターで雇用を創出するために、IT職の若者を採用する際に、最大6か月間、月あたり最大18万円の人件費を支援するとともに、特別雇用促進助成金など若者の雇用を促進するための金銭的インセンティブを強化した。また、各種施策として、以下の取り組みを実施しています。
・公共部門…約27,000人の雇用を直接創出
・K-デジタルトレーニングによりデジタル新技術及びグリーン分野の職業訓練プログラムを民間企業と共同で運営
・韓国ポリテクの新産業コースの継続的な拡大
・リモートでのK-デジタルクレジット(基本的なデジタル職業訓練)の実施
・低所得層の脆弱な若者の所得・就業体験・就業支援を強化、国民雇用支援制度の若者向け特例や就業体験プログラムを拡充
・若者チャレンジ支援制度を新設
・デジタルやAI技術などの新しい技術分野への投資を積極的に拡大、大学キャリア開発センターの役割の拡大・改革による就職支援サービスの強化、全国就職動向調査などの就職支援基盤の強化
■高齢者雇用対策
韓国では2025年までに65歳以上の人口が総人口の20%を超える超高齢社会になると予測されています。生産年齢人口に占める50~60歳代の割合が高く、労働市場で長く活躍できる環境整備や再就職支援が課題となっています。
(1)60歳定年制の義務化
定年制について、「雇用年齢差別禁止及び高齢者雇用促進に関する法律」が2013年4月に改正され、それまで努力義務であった、60歳以上を定年とすることについて義務化されました。これにより、従業員300人以上の事業主は2016年から、300人未満の事業主は2017年から60歳以上の定年制が義務化されています。
(2)各種雇用維持施策
高齢者が「主たる仕事(メイン・ジョブ)」に引き続き勤められることを支援するために事業者向けの支援策の拡大策として、高齢労働者が希望する退職年齢まで労働市場に積極的に参加できるようにするため、60歳以上の労働者の新規雇用の増加・雇用を維持している事業主に対して、四半期ごとに労働者1人あたり3万円を給付する高齢者雇用支援金が新設されました。また、2020年5月から実施された事業主が再就職支援サービスを提供することを義務付ける制度が導入され、従来の仕事を非自発的に離職し、再就職を選択しなければならない50歳以上の労働者13,709人に再就職支援サービスが提供されました。さらに、中小企業向け就職支援サービスや中高年就職希望センターの充実が図られています。
(3)高齢者雇用指導等
従業員300人以上の事業主は、基準雇用率以上の高齢者(55歳以上の者)を雇用するよう努力しなければならず、それに満たない場合、基準雇用率を満たすために必要な措置を取るよう求められます。雇用労働部長官が告示する高齢者優先雇用職種に対しては、新規採用の際、公共機関には優先採用の義務を、民間企業には優先採用の努力義務を課しています。
(4)高齢者の雇用創出支援
高齢者の所得創出や社会参加の機会を付与するため、2004年より高齢者雇用事業が始まり、2016年からは、「奉仕」の性格を持つ高齢者社会活動と「労働」の性格の雇用事業に区分して高齢者の雇用・社会活動支援事業として運営されています。2020年12月時点で、社会活動及び雇用合わせて約77万人の雇用を創出した。2013年に策定された「高齢者雇用総合計画」に続き、2018年に「第2次高齢者雇用と社会活動の総合計画」(2018~2022年)を策定しました。本計画では、2022年までの80万の高齢者の雇用拡大及び高齢者の能力と保護の強化、インフラの強化、安定した民間雇用の拡大、ベビーブーム世代のための社会貢献型雇用の導入を目指しています。2004年から大韓老人会の全国組織を通じて本部及び市道広域センター、市郡区就業支援センターを設置・運営、同センターは、求職希望高齢者の相談、あっせん、雇用、連携調整、事後管理を通じ管理事務、警備、案内、清掃、販売等人材派遣型の仕事を提供しており、2021年末時点で、約4万2千人の雇用を創出しています。
(つづく)Y.H