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実践編・応用編

海外進出日本企業で働く人々_中国_雇用・失業対策

投稿日:2024年4月16日 更新日:

昨今は海外進出している企業で働く日本人も多数います。彼らを取り巻く状況を知っていることもキャリアコンサルタントには有用なことです。今回は中国の雇用・失業対策についてお伝えします。

■雇用・失業対策
就業者数は減少を続けており、2021年末時点の就業者数は7億4,652万人、うち、都市部就業者数は4億6,773万人となっています。一方、産業構造の変化に伴い農村部から都市部への人口移動が進んでおり、就業者数に占める都市部就業者数の割合は年々増加し、2021年は62.7%となりました。都市部登録失業率は低下傾向にあったが、コロナ禍の影響により2020年は大きく上昇しています。また、2018年から都市部登録失業率に加え都市部調査失業率が公表されるようになりました。都市部調査失業率は5%前後で推移しており、産業別就業者割合は、2021年は第1次産業で22.9%、第2次産業で29.1%、第3次産業で48.0%となっています。

雇用・失業対策の概要
イ 「第14次五か年計画(2021~2025年)・2035年ビジョン目標」
2021年3月に開催された全人代において、「国民経済・社会発展第14次五か年計画・2035年ビジョン目標」が承認された。この要綱では、第14次五か年計画に当たる期間(2021~2025年)を対象とし、「経済発展」、「イノベーション」、「民生・福祉」、「生態環境」、「安全保障」の5つの分野に関わる主要な数値目標や重点政策が挙げられている。労働関係では、労働生産性の伸び率がGDP成長率を上回るようにすること、都市部調査失業率を5.5%以内に抑えること、雇用優先戦略を実施し雇用吸収力を拡大することなどが示されている。また、低所得層の所得の向上に力を入れ、中間所得層を拡大し、住民一人当たりの可処分所得の伸び率がGDP成長率とほぼ一致するようにするとしている。

ロ 人力資源と社会保障の発展に関する第14次五か年計画
人力資源・社会保障部は2021年6月、「人力資源と社会保障の発展に関する第14次五か年計画」を発表した。この計画は、「第14次五か年計画(2021~2025年)・2035年ビジョン目標」(前述)に基づき制定されたもので、中国が現在抱える課題を解決すべく、2021年から2025年の5年間を対象として、「雇用」、「社会保障」、「人材育成」、「所得分配」、「労働紛争関係」および「公共サービス」の6分野について重点目標と指標を設定したものである。

このうち雇用については、雇用の安定を維持する方針を示し、計画期間中に、都市部で5,000万人以上の新規雇用を創出し、都市部の調査失業率を5.5%以下、登録失業率を5%以下にすると定めた。また、就業を促進するため、延べ7,500万人の就職者(うち、延べ3,000万人が出稼ぎ労働者)に対して職業訓練を実施するとした。具体的には、雇用優先政策を強化すること、都市部と農村部の双方を対象とする公共就職サービス体系を整備すること、職業技能に関する生涯訓練制度を整備すること、就労需要調査や失業の発生状況を監視するシステムを整備することなどに取り組むとした。また、社会保障については、多層的な社会保障システムの整理に向けて基本養老(年金)保険制度の統一を目指すほか、失業保険については省レベルでの統一を推進するとした。また、基本養老保険への加入率を95%に引き上げ、失業保険および労災保険の加入者をそれぞれ2億3,000万人および2億8,000万人にすることを目標としている。加えて、法定退職年齢の段階的引き上げを確実に実施するとともに、基本養老保険の受給に必要な保険料最低支払い年数を徐々に引き上げることも盛り込んだ。

さらに、人材育成については、質の高い発展と戦略的科学技術力の強化に向け、ハイレベル技術者の育成、イノベーション型、応用型、技能型人材の育成の強化や、新職業の人材育成に注力するとした。具体的には、計画期間中に、専門技術者の資格を新たに取得する人を1,300万人、ポストドクター(ポスドク)の研究者を2万8,000人、職業技能資格を新たに取得する人を延べ4,000万人に増やすとしている。専門的技術人材への支援策として、①ポスドクイノベーション人材サポート計画、②ポスドク国際交流計画、③専門的技術人材の知識更新プロジェクト、の3つが掲げられている。

ハ 一般職業紹介制度
「就職促進法」に基づき各省、市が設置・運営する公共職業安定所が職業紹介等を実施している。公共職業安定所は以下のサービスを無償で労働者に提供しなければならない。

①就業や法規に関する相談
②求職や求人情報、市場賃金額、職業訓練情報の提供
③職業指導および職業紹介
④就職が困難な者に対する就職援助
⑤就職登録、失業登録等の事務手続

(出典)厚生労働省 2022年 海外情勢報告

■若年者雇用対策
新型コロナウイルス感染拡大防止のための都市封鎖により経済が減速する中、政府は就職難に巻き込まれた若者に対する就職支援策を強化しています。2022年度の新規大卒者は1,076万人と過去最高を更新した一方で、「史上最も就職が困難な年」と言われる中、大卒者の就職と起業を支援するため、政府は2022年5月、「大学卒業生など若者の就職・起業の更なる促進に関する通知」を発表しました。同通知では「大学卒業生など若者の就業は、民生福祉や経済発展、国家の将来に関連する問題」と指摘し、若者の就業を就業対策の「重点中の重点」として位置付けました。その上で、困難に直面している大学卒業生の就業支援に重点を置き、中国政府の関係部門や地方政府に対し、当面の若者の就業や創業への取組を適切に実施するよう求めています。

■高齢者雇用対策
国家統計局によると、2021年末時点の総人口に占める60歳以上の高齢者の割合は18.9%(2億6,736万人)であり、うち65歳以上の高齢者の割合は14.2%(2億56万人)だった。中国国家衛生健康委員会は、2035年前後に中国の60歳以上の高齢者人口が4億人(総人口の30%)を超え、高齢化が非常に進む段階に入ると予測しています。また、都市部の高齢者人口は農村部より多い一方、農村部の高齢化は都市部よりさらに進んでいます。2020年の統計によると、全国で60歳以上の人口の割合が20%を超えた省・直轄市・自治区は10か所あり、主に東北地域(遼寧省、吉林省、黒龍江省)や四川省、重慶市などに集中しています。

こうした高齢化社会への急速な進展を背景に、定年延長に関する議論が従前から長年にわたり行われてきており、2021年3月の全人代で承認された「第14次五か年計画(2021~2025年)・2035年ビジョン目標」には、法定定年年齢の段階的引き上げが明記されました。また、これを受け、江蘇省は2022年3月に「江蘇省企業従業員基本養老保険実施弁法」を発表し、養老(年金)保険の加入、保険料の支払い、年金受給等の具体的な実施方法を規定するとともに、国内では初となる法定定年年齢の引き上げを実施しています。

■障害者雇用対策
政府によれば、中国には8,500万人以上の障害者がおり、第13次五か年計画(2016~2020年)期間中に、都市部と農村部で新たに180万8千人の障害者が就職するとともに、最低生活保障の対象となった障害者は1,076万8千人、介護保障の対象となった重度障害者は1,473万8千人であったとされています。こうした状況の下、政府は2021年7月、障害者支援政策の全体的な指針として「障害者の保護と発展のための第14次五か年計画」を新たに策定し、①障害者のための社会保障制度の改善、②障害者の雇用や起業の支援、③障害者ケアに係る公共サービスの向上、④障害者の平等な権利の保護、⑤障害者保護や支援の前提となる諸条件(政府指導、投資、インフラ、情報技術、科学技術、人材育成、ボランティア活動等)の改善、の5項目を重点課題として掲げました。

1.2022年4月には、「障害者雇用促進のための三か年行動計画(2022~2024年)」を発表し、2022年から2024年までの期間における障害者雇用の充実と質の向上を達成するための目標や施策などを定めています。具体的には、同行動計画期間中に全国の都市部と農村部で新たに100万人の障害者雇用を目指し、そのために実施する施策として、①各省・県等の公的機関・施設における障害者雇用の推進、②国有企業における障害者雇用の促進、③民間企業における障害者雇用の促進、④障害者団体による就労支援の推進、⑤就職困難者の就職支援、⑥農村部の障害者就職支援、⑦障害のある学生の就職支援、⑧あん摩マッサージ業における視覚障害者の雇用促進、⑨障害者向けの職業紹介・相談サービスの強化、⑩障害者向けの職業訓練の向上、の10施策を掲げるとともに、それぞれの施策について実施責任主体を明らかにしています。

2.障害者就業サービス機構
障害者就業条例第22条に基づく組織である「障害者就業サービス機構」により、障害者に対して無料で、①職業情報の発信、②職業訓練、③職業カウンセリング、適性評価、職業リハビリテーション、職業紹介、④自主的な就業支援、などを実施するとともに、⑤障害者を雇用する企業に対して必要な支援を行うことにしています。

3.障害者雇用率制度
2007年の障害者就業条例により、「雇用単位は一定の比率に基づいて障害者の就業を手配しなければなりません。この比率は、当該雇用単位の従業員総数の1.5%を下回ってはならない。」とされています。ただし、具体的な比率は省、自治区、直轄市の人民政府が当地の状況に応じて規定することになっています。必要な障害者比率を達成することができない場合は、障害者就業保障金を納付しなければなりません。

4.集中就業と分散就業
障害者就業条例において、国は、集中就業と分散就業を結合させた方針を実行して障害者の就業を促進すること、就業における障害者差別を禁止することなどを定めています。集中就業とは、障害者福祉企業、盲人按摩機構およびその他の福祉的単位(以下「障害者集中雇用単位」という。)に障害者を集めて就業させることであり、分散就業とは、障害者割当雇用制度に基づき障害者が国家機関、社会団体、企業などで就業すること、自ら起業して自営業を営むこと、植栽・養殖、手工業に従事することです。障害者集中雇用単位および自営業に従事する障害者に対しては、税制優遇のほか、生産、経営、技術、資金、物資、敷地などの支援を行うことが定められています。

5.障害者に対する公共職業訓練
障害者向けの職業訓練は、①就業技能訓練、②在職者向けの技能向上訓練、③創業訓練、の3種類に分けられ、各種訓練機関等において実施されており、個々人の体力や能力を考慮して、訓練メニューが設定されています。

(つづく)Y.H

-実践編・応用編

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