4.地域領域
キャリアコンサルタントの活動の領域4つめです。代表的なものは、公共職業安定所が設置されていない市町村数百か所に設置されているふるさとハローワーク(地域職業相談室)です。ふるさとハローワークは国と市町村が共同で運営しており、職業相談、職業紹介等を行っています。利用料等一切無料です。「わかものセンター」「マザーズセンター」として活動しているところもあります。地域職業相談室、わかもの支援コーナー活動の代表的なものが、キャリア開発支援であり、地域(県内)で働く人及び働きたい人を応援しています。 おおむね45歳未満の若年者、フリーター・ニートなど職業経験が浅い若しくは少ない若者、なんらかの課題を抱えている可能性のある若者(例えば、発達障害・精神障害)を対象として支援をしています。
若者の来所者数を増やすためには、地域内での広報活動が欠かせません。地域で就職者数を増やすには、キャリアコンサルティングのスキル向上が重要です。就職者数の増加は、キャリアコンサルタントの力量によるところが多く、良い評判が立つと来所者数の増加に繋がる側面もあり、キャリアコンサルタントの力量は重要です。
<成功事例>
・ 対象者は、大学卒業後10年間の無就業者であったが、10年ぶりの就職活動にも関わらず、正社員での就労を実現した。
・ 若者の意欲の高さ、それに影響を受けたキャリアコンサルタントの力の入れ方が成功の原因である。
・ 過去の振り返り、自分の課題に直面できる精神力と勇気を持ち合わせていたクライアントであり、心から血を流すような面談とトレーニングを続けた。クライアントにとって振り返りたくない過去を振り返させることにもなるため、キャリアコンサルタントにもそれなりの相応の覚悟が必要であり、1時間の面談時間の中でどれだけお互いに本気になれるのかがカギであった。
<失敗事例>
・ キャリアコンサルタントとして本格的に始動したころ、引きこもり経験のある若者のカウンセリングにおいて、自分の価値観を伝えてしまったことでクライアントを傷つけてしまい、せっかく構築しかかっていた信頼を損ねてしまった。
・ クライアントのいう事を聴けていなかったことが最大の失敗であり、キャリアコンサルタントとしてクライアントを心から尊重していなかったことが原因である。
・ キャリアコンサルタントは自己の価値観が正しいと思わないことが大切で、フラットな状態でクライアントの言葉を聞かなければならない。
・ クライアント自身が思う課題にキャリアコンサルタントの価値観を入れずにキチンと把握することが重要である。
・ 以上のような課題は、机上の学習ではマスターし克服することはできない。とにかくインテークを大切にして、クライアントとは簡単に信頼を構築できると思わないことも大切である。
成功事例、失敗事例を読むと、求められる能力を身につけるための経験やキャリアパス等がいかに重要か分かります。キャリアコンサルタントがどのようにして成長していくのか、キャリアコンサルティング活動開始時の経験(課題、つまずき)がどのように活きるのかも理解できます。キャリアコンサルタントの活動初期は、多分キャリアコンサルティングについてのコツがわからないまま活動しているのでしょう。キャリアコンサルタント自身が本当の目標を掴んでいないので講座に参加しても、習得した知識をスキルとして活かすことができないのではないかと思います。スキルや知識の習得とともに、実際のコンサルティング経験を並行して積んでいくことが重要であることがこれらの事例から良く理解できます。
【地域職業相談室、マザーズコーナー】
日本では、女性は結婚などにより30代で労働力としては減少しますが、子育てが終わってからの再就職の意欲は強いと言われています。特に、出産前に行っていた仕事が再就職のときの仕事とならない問題を抱えています。また、子育てしながらの就業継続、介護などにより中断した場合の再就職の支援なども必要とされています。
女性が、再就職する上での課題として次のようなことが上げられています。
①再就職したいが、自分に合う仕事がわ からない(自己理解)。
②女性の就職希望と企業のニーズに大きな開きがある(仕事理解)。
③再就職に当って、仕事と家庭の両立に不安がある(仕事と家庭の両立)。
④仕事をしていく上での人間関係構築に不安がある(コミュニケーション力)。
⑤面接や応募書類作成等再就職活動のノウハウがわからない)。
⑥具体的な仕事や企業の探し方、再就職に必要な情報がわからない。
⑦パソコンの基礎的スキルはあるが、ブランクがあることに不安も多い。
マザーズコーナーでは、女性の就職、再就職、起業などに対する相談、カウンセリングなど、以下のような活動を行っています。
・ 就業支援関係情報の提供
・ 再就職集中セミナーの開催
・ キャリアカウンセリング(適職診断、就業相談等)
・ ハローワーク、職業訓練など専門機関への紹介、引き継ぎ
・ チャレンジ支援(分野:就職・再就職、起業、キャリアアップ、社会・貢献)
・ 専門的相談(起業プラン作成、資金調達、適職相談、キャリアプラン作成等)
<特徴>
・多くの再就職の場合、キャリアのブランクが長いこと、離婚問題等を抱えてお り、就職相談に行き着く前段階において、解決しなければいけない問題が多い。
・ 生活上の悩み、例えば家族問題、経済的困難、メンタルヘルス不調などを抱えているクライアントが多い。
・ 自己理解の不足(自分の適職がわからない)、就職状況への無理解(就職希望とニーズとの隔たり)、就職のためのノウハウの不足(求人票の見方、面接の受け方)などを抱えているケースが多い。
・ 従って、コーナーでは、まず、傾聴により相談者の悩みを理解し、一緒に解決方策 を考えていくスタンスが重要である。
・ 相談者が問題解決までに複数回来所するケースが多いので、キャリアコンサルタント(相談員)は複数でローテーションを組んで対応する必要がある。その場合、相談員同士の引き継ぎをきめ細かく行い相談者同士が情報を適切に共有しなければならない。
・ ハローワークではじっくり話せないような人を、コーナーにリファーしてくるようなケースもあり、就職準備段階でのキャリア形成支援が期待されている面もある。
<成功事例>
・ 初回相談申込票に自己申告をしていただくが、項目をすべてチェックし、項目をクライアントから話していただくとき傾聴することにより、「働きたい」が実は「離婚問題」を抱えていることが判明した。
・ 積極的傾聴を行うことで、就職に関する相談段階で幅広い内容の相談を受けることができ、可能な限りクライアントの希望に沿う(クライアント中心)。
・ 職業紹介の段階に入ったらハローワークなどにリフ ァーする。
メンタルヘルス不調者の支援も専門医(心療内科医等)にリファーする。
・ 日常から情報収集目的で、とにかく本を読むこと、人から話を聴くこと(受容・共感)等が重要である。いざというときに役に立つよう、整理しておくことを意識していることが重要。
・ 相手の自己肯定感を高めるためのサポートが何よりも大切である。自信がなければ能力があってもダメだし、自分を肯定できれば、強みを伸ばすこともできる。
・ 情報提供と同時に、一緒に悩み、考えること。早すぎる段階でハローワークや高齢者対象の相談窓口に行かせると、落胆し自信がなくなる場合もあるので、その後は必ずメンタルヘルスのフォローアップを行う。
・ 特別なニーズを持つ人々との協働、情報収集と情報提供、ストレスマネジメントとメンタルヘルス支援が必要である。
クライアントの状況や心の状態など、徹底してヒアリングすることが重要だと感じている。
<失敗事例>
・ 母子家庭の母から「貯金があと 30 万円になってしまったので、緊急に就職させてほしい」という依頼をうけた。段階を踏んでキャリアコンサルティングをすべきと思ったが、「今すぐに就職させてくれ」との勢いに、適性とは関係ないところに就職あっせんしてしまった。
・ DV 被害者であり、母親でもあるクライアントを支援した。家に PC もなく、自由に家を出られない事情から、情報収集が難しい状況にあった。ネット上にある情報を集め、希望する業務内容・勤務体系・給与等の相場を知る上で参考になると思い コピーを郵送した。それを同居人に見られてしまった。
・ 応募に作文が必要なところへの就業を目指しているクライアントから、次の応募、次の応募と作文の添削を何回も望まれるので、つい要点の説明だけで突き放してしまった。
(つづく) 平林良人