2.需給調整機関領域(就職支援領域―職業相談/紹介サービス)
この領域の公共機関として、ハローワーク、ジョブカフェ、ヤングジョブスポット等があります。
ハローワークでのキャリアコンサルタントの主な仕事は求職者に対する予約制の個別相談支援です。公的機関であるハローワークは、多様な求職者に対応することが求められる等、官民で求められる役割や対象者の層などは異なるところがありますが、総じて、需給調整機関領域においては、 期待されている役割が明確であり、周囲に同僚等がいる場合が多いことから、学習すべきことが明確であり、かつ自主的な勉強会等も行いやすい等比較的学習を続けやすい環境にあるとみられます。
公共の需給調整機関における職業相談/紹介サービスの場合は、いわゆるリストラや定年、あるいは契約終了などによって仕事がなくなってしまったような来談者を対象とする場合が多くなります。しかも、限られた予算と時間などの制約のなかでのキャリア開発・形成支援を行わなければならない状況が想定されます。
さらには、相談業務を専業とすることは少なく、他の日常業務を抱えながらの相談対応となることが多いために、来談者への相談対応の質と量をうまくコントロールすることが大切になります。しかし、このことは手を抜くということではありません。
<具体的な活動例>
①「人間理解」と「仕事理解」を基本に、来談者の「生き方」に合った仕事探しという考え方で支援すること。
②他の付帯業務を抱えながらの相談対応となることが多いために、なるべく短時間で質のよい対応をすること。
→「とりあえずこの程度でいいだろうというスタンスの人」と、「カウンセリングの勉強をしている人」とでは、対応の仕方が違ってきます。質のいい対応とはどういう対応かを吟味しなければなりません。
③求人企業(就職斡旋先)を理解すること。
→自分の目で職場を確かめること。現場を実際に知らなければ責任ある対応ができません。そのためにも、求職相談の担当者が直接求人企業を開拓することが望まれます。
④情報を獲得する努力を怠らず、仕事(職業・業種)についての最低限の知識を持つこと。
→仕事の内容をまったく知らなければ相談対応ができません。
⑤求人企業への指導ができること。
→これは、求人企業に対するコンサルテーションでもあり、また、個人が独力で行わなくとも、チームとして連携してできればよい場合もあります。
⑥すべてを担当者個人だけでは行えない場合は、外部の専門家と連携することができること。
→特に、メンタルな面で課題を抱えている来談者の場合は、専門的な対応が必要になります。その課題が自分で扱えるレベルのものかどうかを的確に判断し、自分が対応できないレベルの場合には専門家にリファーしなければなりません。
⑦的確なマッチングを図るためジョブ・カードの交付のほか職業能力開発の支援と併せ、職業能力評価基準等のツールの積極的・効果的な活用をすること。
一方、民間の需給調整機関としては、人材紹介会社、人材派遣会社、アウトプレースメント会社等があります。
これらの会社におけるキャリアコンサルタントの活動は、公共需給調整機関の場合と基本的には変わりありませんが、紹介先の企業などとの間の営業面の活動がより求められます。民間需給調整機関として、人材紹介業務、再就職支援、派遣登録者の相談支援などが主な仕事になります。およそ需給調整機関領域において期待されている役割は、求人・求職のマッチング、求職者の就職支援であり、キャリアコンサルタントに必要とされる能力については、求職者のニーズを把握する力、求人の実態や労働市場に関する理解、職種・業界に関する知識、労働関係法令の知識等です。これらについての認識は、活用機関、キャリアコンサルタントとも変わらないと思われますが、労働市場に応じた求人開拓や実務経験で得たノウハウが必要な領域です。
例えば、以下のような課題を超えてキャリアコンサルタントの力量をさらに上げていくことが期待されます。「継続学習にかかる費用をどう捻出するか」、「 職業についての知識を広く身に付けるにはどうすればよいか」「 リファー先を確保するためにはどうすればよいか」などです。
3 教育領域(学校における学生のキャリア開発・形成および就職相談)
「キャリアコンサルティング研究会」では、教育領域として大学と専門学校のヒアリング調査をしています。大学では、キャリア教育部会におけるヒアリング時に併せて行っており、キャリアコンサルタント活用側として 8 大学を対象とし、 その8大学で活躍するキャリアコンサルタント 20 名に調査を実施しています。専門学校では、 キャリアコンサルタント活用側として 1つの専門学校を対象とし、キャリアコンサルタント2 名を対象としています。期待される「役割」、必要な「能力」、「育成策、キャリア・パス」等について、アンケートを取っています。対象となったキャリアコンサルタントは、大学の場合は主にキャリア・センターに勤務している者、専門学校の場合は就職部等に勤務している者です。教育領域で活躍するキャリ アコンサルタントは、主に期待されている役割が学生の就職支援、キャリア教育であり、必要とされている能力は、個別面談スキル、学生を相手とした柔軟なコミュニケーション能力などのほか、学校の状況や教育方針の理解を前提とした企画立案などをも求められています。 さらに、就職活動支援が期待されている以上、職種・業界に関する知識や労働関係 法令に関する知識も必要との意見も聞かれました。 なお、課題としては、「大学等とキャリア・センター、キャリアコンサルタントの間の認識にギャップがある」、「授業との連携が不足している」、「地方には学習機会がない」、「必要な情報を得るのに労力・時間を要する」などが上げられています。さらに、キャリアコンサルタントからは「雇用形態が不安定」や「大学等のキャリア コンサルティングについての認識の不足」などもあげられています。 総じて、教育領域においては、企業領域と需給調整機関領域との中間であり、期待されている役割は、大学等によって異なるものの、学習自体は、比較的学ぶべきことが明確であり、かつ周囲に同僚等もいる場合が多いことから、条件さえ整えば、学習しやすい環境にあるとみられます。
教育現場における就職相談でもっとも多いのは、高校や大学において学生を対象としたキャリア開発・形成の支援と就職の支援です。学生に対してキャリアの意味あるいはキャリア開発・形成の意味・意義を正しく伝えることによって就労意識の醸成を援助したり、有益な就職情報を提供したりすることによって、キャリア・トランジションにおける効果的な支援を行うことが出来ます。また、学校におけるキャリア開発・形成の支援は、就職期を迎える高校生や大学生の就職支援だけとは限りません。児童・生徒・学生に対して実施するキャリア教育プログラムは、中学校におけるキャリアスタートウィーク(職場体験)等、段階に応じて実施されています。小学校、中学校でのキャリア自覚を高める教育は教職員によって運用されているものだけではなく、キャリアコンサルタントが支援して運用されている場合もあります。
<具体的な活動例 >
①企業や業界団体とのコネクションをつくること。この活動には、企業や業界についての知識を収集することも含まれます。前回の公共需給調整機関における職業相談/紹介サービスを参照してください。
②学生本人がどうありたいのか、どうしてそうなりたいのか、どうして就職したいのか、なぜ働くのか、などという本人の内的キャリアに焦点をあて、しっかり受け止め、直面している問題をサポートすること。
→学生の場合には、外的な面に目が向く傾向が強いため、内的キャリアが特に重要になります。
③上記②を実現するために傾聴と適切な助言(啓発的、教育的な関わり)をすること。ただし、文字どおりのアドバイスを行うのではなく、本人に何か気づいてもらうことを心がけること。
→本人自らの意思決定が重要です。
④学生のキャリア教育プログラムを構築すること。効果的なキャリア開発・形成の援助は、就職活動をする時期になってからでは遅すぎます。大学あるいは高校入学時からキャリア開発・形成の援助を始めることによって、キャリア自覚が醸成されます。そのため、インターンシップを含む適切なキャリア教育を実施する必要があります。
→ここでもキャリア教育も、内的キャリア自覚を醸成することに重点を置くことが望まれます。
⑤教職員も含めて、学内にキャリア教育の重要性に対する認識がない場合には、教職員を対象にした啓発活動を行うこと。
→学生のキャリア支援は、組織全体の課題としてとらえなければなりません。
(つづく)平林良人